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竜騎士  作者: Blood orange
3/29

一昨日来やがれ  12/9/13加筆

ミーヤは怒る口調になると必ず「自分は…」となります。

この目の前にいる、ふてぶてしい男がこの国の次期王?じゃなくって今のこの国の王様? 目を限界まで見開いたミーヤの目は真ん丸になっている。

後ろからミーヤの後頭部をフライパンで叩けば、おそらく目玉が飛び出すんじゃないかと思われるほどだ。


「ビーツ様…ご冗談も、そのお茶目な体だけにしてください。どうしてこの減らず口で説教魔に…」


ウソ…ウソだと言ってよ!

どうして、ビーツ様はそんな悲しい顔をされるの?


「しかしミーヤ。これは古の頃から決まっている事なのじゃ」


い、古…?

まさか、この世界にも私が住んでいた世界と同じ様に、エイプリルフールとか言うのがあったりして…ね…。

いやだ…

ビーツ様ったら知らないだろうけど、あたしってば高校の時の古典なんて、ちんぷんかんぷんで、赤点まっしぐらだったつーのに。科学は大好きだったけどさ〜って関係ないってーの!!

なんで、こんな異世界でこっちの古典とか聞かなきゃいけないのよ。


「そんな~! 困ります! 横暴です。ビーツ様」


これは夢だ。こんな横暴な事が許されるはずが無いもの。

いきなりビーツに言われたミーヤは、不愉快そうに眉を顰めると男の前にヅカヅカと来た。


「こんな口の悪い、嫌味ったらしの顔だけ男の元へ嫁げだなんて…、ビーツ様はお意地が悪い!」


意地が悪いと言われたミーヤから言われたビーツは、毛むくじゃらの大きな腹をさすると、ミーヤの頭を撫でている。

面と向かって、悪口を言われたファティマ殿下は、怒りで顔を真っ赤にした。

何なんだ⁈ これじゃあ俺が大魔王で、ミーヤは俺に差し出される人身御供の可哀想な少年ではないか!

ムッとした俺は、ビーツが座っていた椅子を思いっ切り蹴った。


「おいビーツ。いつからこの国は()を男の王に召し抱えるようになったんだ?」


ビーツにこの国の国王だと紹介?された男は、漆緑の髪を後に引っ張って一括りにしているミーヤを指差して言って来た。

だが、それでも、この世界の女性の髪型として見て見ると、遥かに短いのであった。この世界の女性達はみな、腰まで隠れるくらいの流さの髪を結い、その髪の美しさを競っている。

それらの女共と比べると、目の前伝説の時渡り人は、身なりからしても、男にしか見えない。

人の洗濯板の様な胸を指差してるし。

コイツ…この私が1番気にしている事を…。

これが日本なら、よせてあげての羽ブラで胸の谷間くらいはあったんだよ!

ギリギリと奥歯を噛みしめたミーヤは、偉そうな事を言って来る男を一瞥する。


「フン。 あんたが王? ハッ! あんたの頭の上に乗っているその王位とやらも所詮、お飾り程度の物だと言う証拠だ。その黒髪だって、本当なのか?」


ミーヤの小馬鹿にしたよな言い方に、頭に来たファティマは、ミーヤの胸倉を掴みかかった。


「なんだと!」


(俺が "一番気にしている事"を言いやがって)


「ハン!お前の国も、お前の力も…大した事、無いんだな。お前みたいな男の事を井の中の蛙と言うんだ。私の国にも王族は存在するが、お前のように自分のいけんばかりをキャンキャン言うチワワとは違って、国民のために身を削られている尊い方ばかりだ」


相手をバカにするように鼻で笑ったミーヤに対し、流石にそれまで事の成り行きを静観していたビーツも止めに入った。


「止めないか。ミーヤ! 今のはお前が悪い。ファティマ様に謝りなさい」


いつに増して厳しい表情をしたビーツの声に、ミーヤはビクッと体を震わせた。

それでもまだ言いたい事があるとばかりに、ビーツの方を向いたミーヤは不満そうな顔で、ファティマを指で差している。


「ビーツ様! 最初に自分に対して不躾な事を言って来たのは、この者です! どうして自分が、謝らなければならないんですか? 自分はこのような人間が一番嫌いだと申したではありませんか」


漆黒の瞳には、静かに揺れる怒りの闇が垣間みれる。

毎日自分の前にしつこいくらい現れて来る男が、この国の王ファティマだと軽く自分に紹介され、それがこの帝国の王だと。 ましてその男が、自分の夫となる人物だと言われた日には、ミーヤの怒りはマックスにまで達した。


「ビーツ様.....自分は誰の所にも嫁がないし、ましてや誰の物でもない。自分は自分です。あなた様ならわかって下さると思っていました」


小刻みに震える手は、緑色の首飾りを強く握ると鎖を千切った。コロコロと緑色の石が床に転がるとビーツは顔を青ざめた。だがもう時既に遅し。ミーヤは近くにあった鉄のお玉を掴むとゴムのようにぐにゃりと形を変えた。


ビーツは慌てたようにミーヤに駆け寄ると、泣いて引きつけを起こした子供をあやすように背中をそっと撫でた。

ミーヤの手からクリップのような形に曲げられた、哀れな鉄製のお玉が ガランと大きな音を立てて、床の上に落ちた。

それを見たファティマは、こんな短気な男が、あの伝説の竜騎士なわけない。そう心の中で罵った。

伝説の竜騎士は、昔から女だと言われて来ている。

女神のように美しく、優しい竜騎士は美の女神、ダンケの化身だと古文書にも書いてあったし、ファティマも自分の侍従長達からそう伝え聞いていた。

全ての魔獣を従えると言う始祖の竜とダンケの愛し子と言われる狼を伴う、滅多に怒ることなく、絶えず笑顔を宿す、心優しい天使で自ら望んで王の元へと降りて来ると言われている、その姿は漆黒の長い髪と同じ色の双眸を持ち象牙色の美しい肌をしていると。

だが何処からどう見ても、目の前にいるのは、古文書に書いてあった伝説の時渡り人ー竜騎士とはかけ離れた存在だ。

こんなのが、竜騎士なはずないじゃないか…。

肌は浅黒くて古文書にあったような豊満な体を持つ時渡りの巫女とは正反対だ。しかもだ、髪の色も全然違うじゃないか!

大体、こいつが本物の竜騎士ならば、肝心の竜はどこにいる?

まさか、

こいつも偽物か…。

顔を引き攣らせて立っているファティマ。


ミーヤが落ち着くと、床から変に形を変えさせられた鉄製のお玉を手に取ると、口の中で短い呪文を唱えた。


『戻れ』


一瞬フラッシュが焚かれたかのように、眩い閃光が部屋の中に満ちたかと思うと、ミーヤの手にあった鉄製のお玉は本来のお玉の姿に戻った。


この異世界には、魔法で満ちているが、ミーヤの様に一瞬で鉄のような固い物を変形させたりするのはよくある。でも、それは、くの字に曲がると言うだけの事。物体を変化させるには、それなりに魔力が必要だ。ましてや、ミーヤが変形させてたような見た事もない複雑な形に、調理器具を曲げさせるのにも、相当の魔力がいる。

調理器具と言うのは、普段から調理をする時に多少なりとも魔法を使われている。そのため魔法への耐久力が強く、簡単に言えば、魔法に慣れているために、一番魔法をかけにくい。それを一瞬でこんな形に曲げるなんて…。

ミーヤの魔力の大きさに驚いたファティマは、ミーヤが魔力で変形させた物を一瞬で元に戻したのをみて、更に驚きを隠せず思わず、口をあんぐりとあけたままでミーヤを凝視している。

(魔法と言う物は、かけるのは簡単だ。物にも寄るが。魔法の中で1番難しいのは、一度かけた術を解除させる方法ーー即ち、「元に戻す魔法」が困難なのだ。解除魔法と言うのは、城にいる宮廷魔術師でも難を感じる程難しい。

それをいとも簡単にやってのけた目の前の男に、呆気に取られながらもファティマ王はじっとミーヤを見つめていた。

そしてミーヤは、そんな王に臨戦態勢よろしくと言わんばかりに、仁王立ちになって男をジロジロと品定めをしている。


この国の王だと言う目の前の男は、男の様な身なりをした自分にジロジロと見られるのは、慣れているらしい。その男は口角を器用に上げると、長い足を組み直した。


「あ〜俺に惚れられても困るんだけどな〜。でも、ミーヤ。君みたいに可愛い子猫ちゃんなら、この際男でも良いかもな。よく見りゃ女みたいに細い腰してるし、胸板は結構あるみたいだけどな」


そう言うと、いきなりミーヤの平たい胸に手を当てて来た彼に、ビーツも驚いていた。


「ファティマ...様!」


ビーツがファティマにたいし、やめないかと言う前に、このやんちゃで顔だけ無駄に良い男は、ミーヤが一番嫌がる事を言い、それを行動に移した。


「そうだなお前がもし女だったら、こんな風に口説いてやるよ。野に咲く花のように可愛らしい君の香りに、俺は運命を感じたよってな。お前には勿体ないくらいの堕とし文句だ」


いつものように女を堕とすために使う言葉『子猫ちゃん』『運命』を使って、流し目で相手の女にロックオンすれば、大概の女達は自分に靡いて来た。

この目の前にいる太々しい優男も、その他大勢の女達と一緒みたいだな。

この俺様に出来ない事はないのさ。

あー俺様って、何て罪作りな人間。自分にうっとりと酔いしれているファティマに対して、ミーヤは頬を引き攣らせながら対峙している。

プルプルと震えているミーヤの手は、拳を作ると手の中の空気を更に硬く握りしめた。


【ギョェ~】


一つ目ウサギの肉片が、指に着いていたのか、断末魔に様な叫び声をあげている。


「す、すまん。ワシのゲップじゃ」


違うでしょ…。あれはどう聞いても、一つ目うさぎの悲鳴だ。

緊張感漂う中に、ビーツのお茶目な邪魔が入った。


「ビーツ様」


呆れた様に言うミーヤの苦笑に、ビーツもにっこりと人の良い笑みで返した。


「あれ程、自分に売られた喧嘩を邪魔しないでくださいと申していたはずです」


命の恩人であるビーツにまで食ってかかっているミーヤを見て、ファティマは首を傾げた。

俺の堕とし文句がダメだった?

ならこれでは!


「ミーヤ。ビーツの言う通りにしてもらおう。ここはお前が男でも、大人しく俺様に嫁ぐんだな。ミーヤ、君は従順な仔羊ちゃんと言うよりも、気分気ままな野良猫だからな。俺様の愛で手なづけたいね。ベッドでの君の声も聞かせて欲しいね。どんな声で啼くんだかな」


だが、相手の反応はいまいちだった。

顔を赤らめる事も無ければ、眼を伏し目がちにする事も無い。

ただ、自分の顔を穴が開くくらいに見つめると、ミーヤが首を傾げた。

そして、ミーヤがニッコリと微笑むと、俺は勝った!! そう思っていた。

やっぱ俺って女を堕とすのも、男を堕とすのも天才だな〜とにや付いていた。


「却下!」


その言葉と共に、鳩尾に来る一発の拳。

いきなり一言で自分を卑下にされた男は、真っ赤な顔をすると椅子から立ち上がった。


「ゲホ…! おい!ビーツ!! コイツ俺様に向かって『却下!』と言ってきやがったぞ! しかも、この国の王である俺様に向かって鳩尾にパンチだぞ。不敬罪で処刑しても良いくらいだ!」


ミーヤに殴られた鳩尾を押さえ、涙目で行って来るファティマに、ミーヤは鼻で笑った。


「却下だと言ってんの! キモイし!鳥肌立ちまくりだっつーの!」


な、何を言ってるんだこの者は.....。

愛の伝道師と呼ばれる俺様の言葉に、キモイ?しかも、鳥肌が立ちまくりなどと言って来るとは....。

よし、もしかして愛の言葉が足りなかったのか?

ならもっと甘い言葉を言ってやろう


「ミーヤ。君のその手から作り出される料理は、まるで魔法のようだよ」


「一つ目ウサギの唐揚げは、誰が作っても美味しいですから」


チーン

はい終了。


「でも、この料理は、君のレシピだろ? やっぱり君って最高だね〜」


白い歯をキラキラと輝かせながら自分に向かって、笑顔を見せて来る優男にウンザリした表情のミーヤは、顳かみに青筋を立たせながら必死で鳥肌が立っている自分の体を摩っている。


「それはビーツ様に言って下さい」


チーン

はいまたまた終了。


「だがこれも君が作ったのだろ?やはり作り主の君の愛が込められてるんだ。だからこんなに私の心も君に捕われてしまうのだ」


「言っとくけど、その料理のレシピを考えたのは、ビーツ様だ。それに、料理を教えてくれたのもビーツ様。さ、食べたんならとっとと出て行きな」


チーン

チーン

チーン

ここでも三連打で撃沈した。

どこまでも素っ気ないミーヤの態度に、男はミーヤの両手を取るとギュッと握りしめた。

そして、彼は彼女には言ってはならない事を言ってしまったのだった。


「ミーヤ? お前がこの世界に来たのは、俺様と結ばれるために神様がお前をここに寄越してくれたんだよ。あの時に着ていたと言われている『ドレス』とやらを着て見せてくれないか? あれはお前の世界の礼装なんだろ? 男でもああいう民族衣装を着る事があるんだな。驚いた」


それを聞いたビーツは、大きい皿に盛りつけてある一つ目ウサギの唐揚げとスープの入った器を持ち上げると、部屋の隅へと避難した。

ピキ!! パキ!!

刹那に周りの空気が、小さな雷の様な音を立てている。

ミーヤは、肩をプルプルと震わせながら、重たい木のテーブルを両手で掴むと「おりゃぁああ!!」と雄叫びを上げながらテーブルをひっくり返した。

《秘技 ちゃぶ台返し! テーブル編》

ビーツは溜息をつくと、全く何だって、ミーヤに取っての『禁句』を次々と言って来るんかな〜あのアホ殿下は..... そうブツブツと呟きながら、自分に災難が来ないようにと肉を咀嚼している。


「ハン! 一昨日来やがれってんだ! あたしはね、あんたみたいな男が一番嫌いなんだよ!」


ビーツ様!塩は何処にありますか?と言って、家の外に放り出された殿下の方を見て言い出す。

まさかビーツも俺様もミーヤがそんな事をするはずはないだろうと思っていたが、本当にあの男は俺様に向かって塩を投げつけて来た。

あれが伝説の竜騎士じゃなかったら、絶対に処刑している所だ。

こんもりと塩を頭に乗せているファティマは、こんな自体になっても止めようとはしなかったビーツの方を見て、軽く睨んでいた。

目の前で、小屋の扉が閉じられると、ファティマはため息をついた。

小屋の裏手からこっそりと出て行く一つの影があった。



次はファティマー王家のお話です。

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