卵の色は何色?
「そう言えば、ミーヤ。この竜の卵は何色だったんじゃ?」
「え?禿の色ですか?」
ゴチン!
痛そうにビーツから拳骨で殴られた頭を摩っているミーヤ。
その目は泣きますよとばかりに、潤んでいる。
「馬鹿者。タマゴの色じゃ!なぜ、そんな聞き間違いをするんじゃ」
「え?」
あなた(ビーツさま)見ていなかったのですか?
ゴチン!
「何すんですか…痛いじゃないですか!!」
「すまん。気にするな条件反射じゃ」
まったくビーツ様は、いつもいつも僕の事をそんな風に扱うんだから…。
ブツブツ文句を言っているミーヤ。
この世界の者ではないミーヤは知らなかったのだが、ビーツが言っている竜の卵の色と言うのは、産まれた時の竜の卵の色でその竜が出現して来た意味が分かると言うのだった。
例えば、赤ならマグマから生まれ、マグマに帰るつまり噴火が起きると言う意味だ。
青なら海の水がいきなり押し寄せてくる津波となり、黄色ならばカンスと呼ばれるカエルに羽の生えた害虫の大群が押し寄せるとなり、黒はこの世界を照らす太陽がその光を失うと言う。
だが、元々竜の卵は色がコロコロと変わりやすいのだ。
それは防御のために拾った物や、人の好みに合わせて色を次々と変えて行くとも言われているが、実際の所はどうか分からない。ただ分かっているのは、自分を見つけた人を主人として一生その人に仕える。そんなこととは知らないミーヤはビーツの三つの目を見てこんなに目があっても、役に立たないのかと溜息をついている。
「そこにあるのは、なんですか?ビーツ様」
ミーヤが指差す先には、地面の上に粉になった卵の殻の残骸が落ちていた。
生まれて直ぐに竜の子(幼生)は人間の赤ちゃんが母乳から出る初乳(免疫力や抵抗力をつけるために出て来る透明な母乳の事)を飲むように、彼らは生まれた時にそれまで自分を守っていた固い殻である卵の殻を食べる。
まるで幼子が煎餅を食べ散らかすかのように。
豪快に。
従って地面には結構な量の卵の粉砕が残っている。
「卵の殻じゃ」
見て分からないのかと言ったように、ビーツが鼻を鳴らして言う。
その卵の殻は鮮やかな黄色をしていた。
二人の陰険な雰囲気を察知したのか、まあまあと言いながらも二人の間に入って来るブラウ。
「ミーヤ殿。竜の卵は色がコロコロと変わるのですよ。最初に見つけた方が見た卵の色がその竜の本来の卵の色なんですよ」
ビーツの三つ目をじぃーっと物言いたそうな顔で見ていたミーヤに、慌ててブラウが付け加える。
それに納得したミーヤは、暫く考えると「あ!」小さく声を上げた。
「あー。殻ね。うーんと確か…白色で、その前は虹色に光っていたけど…何だったかな〜」
それを聞いたビーツは、両肩をがっくりと落とした。
「もう、この世界はお仕舞かも知れん…」
「そうですね…」
「ウガ…」
な、なに三人とも訳の分からない事を言ってくれちゃってるのよ!
ムッキー!!
「何、言ってんのさ!分かるように説明しな!」
三つ目の目を閉じたビーツは、少しばかり力を使い過ぎたらしく、その辺の石垣が二段しか積んでいない所に腰をかけると、暫く目を瞑った。
一体何の事かさっぱり分からないミーヤは、溜息ばかり吐いている三人の方をイライラした顔で見ている。
「ならば、ワシの魔法でミーヤが卵を見つけた瞬間にまで時間を遡らせてやろう」
いいよ別に…と反論する前に、自分の顔の前に翳されたビーツの手の平。
あんまりじっくり見たことがなかったが、ビーツの手は6本の指がある。
中指が2本あるのだ。
ブラウの指はミーヤと同じ。
ドグーラであるジャンガの指は、クマみたいに4本あって、爪が出し入れ出来る。
あれ?クマの手の指って、5本だったっけ?
じぃ〜っとビーツの手の平を見つめていると、ゆっくりと自分の周りの空間が歪んで行くのが分かる。
よく見るアニメの世界のタイムトラベルのように、竜巻の中心に降り立ったミーヤは今までの自分の生き様を走馬灯のように見せつけられる。
それは認めたくもない、思い出したくもない程目を背けたくなる過去の描写もあった。
周りが白く光ると自分が送られて来たと言われる洞窟の中。
泥だらけのウェディングドレス姿で眠っている自分を揺さぶって起こしてくれたのは、三つ目の優しいビーツ様の姿だった。
そこから時間は飛び、迷いの森に入って行った自分の姿を見つけた。
《あ!!ここだ!!》
樹木に蹴りを入れて文句を言っていたミーヤが、空から落ちて来た卵に頭を直撃されて伸びている姿が写し出される。
《これって、金タライよりも馬鹿っぽい…》
その卵の色が初めに水色に光り輝いていたのをじっと見つめるとミーヤは上を見上げるとビーツに向かって叫んだ。
《分かったから出して〜》
気が付くと数分も経っておらず、ミーヤはじっとビーツ達を見つめた。
三つ目を瞑ったビーツが疲れたように、地面に座っている。
「ビーツ様が魔力を使い過ぎたようですので、僕が説明しましょう」
ゆっくりとブラウの柔らかい声が心地よく響いて来る。
ブラウの話に寄ると、その昔この世界を創造したのは、ジュダル神と言われる神様で、彼は七日間かけてこの世界を作ったと言う。
第一日目にジュダル神が先ずやったのは、光と闇である。それが今で言う「夜と昼」となる。
自分の右の目の涙から太陽を左の目の涙から月を作り出した。
第二日目にジュダル神が何にも無かった空間にジュダル神が息を吹きかけるとこの世界が生まれた。
第三日目に光が降り注ぐ大地に降り立つと、自分の手を仰いで風を作った。
第四日目にジュダル神は、自分の髪を一房切り落とした。切ったばかりの髪に涙を落とすと出来たばかりの世界に向かって、それらをバラまいた。
涙を含んだ髪の一部は、空に舞い上がると厚く立ちこめる暗雲となった。その暗雲から大雨が降り注ぎ、地表は全て水に覆われた。
第五日目に水の満ち引きを確認したジュダル神は自分の指先を噛むと赤い鮮血を滴らせ、それを海と大地に落とした。
すると海と言われる海の域に落ちたジュダル神の血が魚へと変化し、大地に落ちたジュダル神の血は植物に変わって行った。
第六日目に緑が生い茂る大地に感激したジュダル神は、動物達の種と言われる命を大地と海に蒔き始めた。
第七日目に動物達を統括する者を作るために、自分と同じ形をした人間を作った。
だが、ジュダル神が最初に作り出した人間には、流れるような艶やかな黒髪を背に垂らし、濡れるような象牙の肌をさせた少女の姿をしていた。
目を作るのを忘れていたジュラル神は、自らの目を手で抉るとその少女に自分の目を与えた。それは創造主と同じ力が備わると言う意味だった。
色々な物を見、そして考え遊び始めた少女はジュダル神にこの他に世界は無いのかと聞いて来た。
それを聞いたジュダル神は、「存在すると」答えると少女は私もそこへ行きたいと言い出した。
「ダメだ。お前にはここで動物達や植物達の世話をすると言う大切な仕事が在る」
初めて父なるジュダル神へ初めて父なるジュダル神への反抗をし、叱られた少女は毎日泣いて暮らしていた。
そんな時に、両手両足を生やした蛇が少女に近づき囁く。
「知ってるかい? あなたとジュダル神の力は同じくらい巨大なのだと言う事を」
「どう言う事?」
蛇は得意顔になって答える。
ジュダル神があなたをこの世界から出さないのは、あなたに全てを押し付けて自分が他の世界で遊ぶ為なんですよ。
その証拠に、この間あなたがジュダル神に言われた仕事に遅れた事がありましたよね?
ジュダル神は彼女に怒る事はしなかったが、両肩を落とし頭を振って悲しそうな表情をする神に失望されたと思い、必死になって謝った。
「あれは、父なるジュダル神の言う事を聞かなかった自分が悪いのだ」
蛇はクツリと笑うと自分の鱗を一枚剥ぎ取った。
その鱗に息を吹きかけると、鱗は時の鏡に変化した。
「見て見なさい」
蛇に言われ、少女が時の鏡を覗き込むと蛇は意地の悪い笑みを浮かべた。
時の鏡の中に写し出された景色は、この間の自分とジュダル神の姿だった。
ジュダル神に許しを乞い、もう二度と遅れたりなどしないと泣きながら約束した少女。
その後、少女はジュダル神が一体何処へ行ったのかさえ知らなかった。
ジュダル神は、別の世界へと飛んで行くと、宴に招かれていた。
それを見た少女は私にだけ仕事をさせて置いて…自分は遊んでいるなんて酷い…。
裏切られた…自分だけがどうして働かなきゃならないの…?
酷い…。
時の鏡に映っているジュダル神は、杯を片手に機嫌良さそうに周りの精霊達と笑っている。
蛇は黒く笑う。
もう少しだ。
「私はあなたが不憫でならないんですよ」
打ちひしがれ泣いている少女に、蛇は優しく語りかける。時折蛇の二つの目がギラリと光り出すと、催眠術をかける。
「あなたが外の世界に行きたいのなら、私が行き方を教えてあげましょうか?」
「本当?」
「ああ。本当さ」
少女は蛇の助言の通りに従った。
暫くは蛇の言う通りに従順に父なるジュダル神の教えに従って動物達や植物達の世話をしていた。
その様子を見ていたジュダル神が、安心し切ってほんの一瞬瞬きをした隙を狙って、少女は自分の血と使って時空を操り異世界へと飛んで行った。
折角作った人間が自分で何処かへと消えてしまった事に腹を立てたジュダル神は、蛇を見つけると捕まえた。何とかジュダル神の手から逃れようともがき出す蛇から手足をもぎ取るとジュダル神は蛇から言葉を奪い、蛇はジュダル神の怒りを買い地面を這いつくばるようになった。
「それと卵の色と同関係があるの?」
実は私の母親の家系は、何故か皆「聞き間違い」をします。
私もそうです。
息子も…。
血は争えないな…。




