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竜騎士  作者: Blood orange
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その髪、毟り取って上げましょうか? (改)12/9/2013日加筆

「おい! そこの下男、ビーツはいるか?」


はぁ?なんなのその物言いは。

一瞥したがそのまま知らないフリして作業を続けた。

とにかく私は忙しいんだから!

全く…私はあんたの召使いじゃねーってんの! この傍若無人な男の言い方にムカッと来た私ことミーヤは、ただひたすらこの暴言俺様男を無視することにした。

なのに…。


「おい!」

「……」

「さっきから聞いてるだろうが!」


うるさい。


「……」


それでも無視しているミーヤ。


「お前だよ」

「……」


くるりと背を向けたミーヤにカチンと来た男は、剣を取り出した。


「そこの野暮ったい下男、こっちを向け!いくらオレ様が素晴らしい黒髪を持っているからって、ビビるなよ。フンお前は緑色の髪だしな。まあ、力もないに等しいな」

「……フン」


くるりと男の方を向いたミーヤは鼻で笑うと何もなかったかのように、作業を開始する。

黒髪が偉いのか?

そんなに偉いんだったら、日本は偉いさんばかりで溢れかえってるわ。


「お、お前!!今、鼻で笑ったろ!! こ、コイツ、このオレ様が下手に出れば…チッ」

「……」


だまれ。

うるさい。

耳元で叫ぶな。あんたはビ☆ー隊長か?

にしては、筋肉が寂しいがな。

よ、もやし隊長って呼んでやろうか?

違うな…もやしにも悪い気がする。

あ…そういや母親が昔飼っていた犬で矢鱈吠えるヤツがいたな。

そうそう、チワワだチワワ!


「最近の若い小僧は上の者に対する言葉遣いも知らないのか!」

「……」


お前だって若いだろうが。

絶対に私の方が年上だ。

だが絶対に年なんて教えてやるもんか。


「オイ!お前の事を言ってんだよ! まだ無視するのか?! ビーツはいるかと聞いている!!」


さっきから一人でビービーとウルサイチワワだ。

黒髪だから偉いとか言ってるけど。そっちこそふざけるなだ。

こっちは朝から集中して薬を作っているって言うのに、さっきから余程暇なのか、それとも流石チワワなのか本当にギャアギャアウルサイ。


一体何のために、その顔の中央に目がついてんのさ。あ〜あんたのその目は節穴だったか〜。

母が飼っていたチワワもよく餌入れさえも見つけきれなくって、ワンワン騒いでたな。

本当にアレにそっくりだわ。

なーんでここにビーツ様がいないことぐらい分からないのかな。こいつ態とかそれとも本当にバカか天然で、見えないのか? 

ああそうか!!まさかだと思ってたけどそうなんだな。やっぱりその矢鱈目ったら綺麗な顔についているデカイ目の玉は、飾りだったのか。

ったく人の事を下男とか言って来るし。

まあ、あんたに女扱いされたら、ぶっ叩くけどね。

自己紹介が遅れましたが、私 宮前 柚羽です。

年齢ですか? 一応二十五歳にもうすぐなります。これは地球での年、ここでは何才に見られようが知ったこっちゃないけどさ。

みなさまに心の中で挨拶をしていると、また私の背後でキャンキャンと無駄吠えするチワワ。

私…男は…嫌いだ。

特にこ〜んなウルサイチワワみたいな、自分勝手な男は虫酸が走るくらい大大大嫌いだ。


「おい! 無視するな! ビーツは何処だと聞いているんだ!」


おや? やっとビーツ様がここにいらっしゃらないことを認めたんですか〜? ビーツ様はその辺に紛れ込むくらいペラペラな人でもないんですけどね。

なんせビーツ様はぽっちゃり体型で、私にとっては癒しの存在なのよ!

大きなクリクリした目に笑うとエクボが出来るところとか、これは狸の置物以上の存在なのよ!そんなビーツ様を呼び捨てにだなんて、なんてヤツ!!

そんなにビーツ様の居場所を知りたかったら、自分で探せや。何のためにその無駄に長い足があるのさ。

あ、もしかしてハリウッドスターも真っ青ってくらいのシークレットブーツとか?あれって中に上げ底が入っていて、実はハイヒールも真っ青!!みたいな靴でも履いてんのかよ!


男は自分の言いたい事だけを言うと、一人で怒ったように出て行った。

そんな忙しい男にミーヤはヤレヤレ、ウルサイのが行ったわいとため息を吐いた。

静まり返った家の中を落ち着いて見回すと床には粘土質の土の欠片がボロボロになって蠢いている。

は〜あ。

しゃあない。やるか…と立ち上がるとドアに向かって指を鳴らせばロックがかかった。

家の中に自分以外誰もいないことを探知機能魔法で確認。

「じゃあ行きますか!浄化!」

途端に辺は白い光に包まれ一瞬で埃もゴミも消えていった。


ビーツ様もそろそろ帰って来る頃だ。

今夜の夕飯は何にしようかな。

その前にこの薬を作らないと…。


ビーツ様と言うのはこの家の持ち主で、私にとっては命の恩人であり、癒しだ。

このビーツ様はたまにフラリと旅行に出ちゃうんだよね。

本当、旅番組みたいだけど、ふらり一人旅みたいな。

でも、そのお陰で私はビーツ様の家に留守番よろしくってことで住まわせてもらっているんだよね。

そうなの。

私は魔術が使えちゃうんですね〜。これには私もびっくりさ。そりゃあ、一応社会人だったし、色々と苦渋をたっぷり舐めさせられて来たからね…。

思い出すだけで顳かみに青筋が…。

握りしめたフラスコが悲鳴を上げるみたいにギシギシいってる。


ボム!!


あーあ、やっちゃった。思わず力が入ってしまったわ。

気がついたら、目の前のフラスコの中身が真っ黒。

あーだめだ。またやり直しだ。

とにかく薬を作る時には、精神集中させなきゃなんないんだよ。

なのに、あの顔だけ男が来るから、薬もろくに作れないじゃない!

全く、ビーツ様もビーツ様だ。

ちょっと行って来るが、何で一週間なんですか!

ミーヤは空中に大きな長方形を描くと、ポッケから普通のドアの取っ手取り出してその絵に取り付けた。某アニメのどこでもド◯っぽく見えるが、知らない相手や行った事もない所には使えないから、どこでも…なんて付けれないので、おでかけドアと呼んでいる。

ドアノブを開いた向こう側には、草原が見える。

背が高い草がたまに揺れているのを見て、恐らくそこに目的の人がいるのだろうと目を凝らしているとバネのように飛び跳ねる芋を追いかける虫取り網が背の高い草の間を飛んでいるのが見える。

それを見てるとさっきまで怒っていたのに、つい頬が緩んでしまう。

可愛い〜。

モエモエ〜。

そう、この宮前柚羽はゆるキャラと呼ばれるものが大好きなのだ。

この世界に飛ばされて来たのは、半年前の嵐の日。

それまで宮前柚羽はごく普通のサラリーマン家庭に生まれ、ごく普通に公立小学校、中学校、高校と大学まで進んだ。その後はごく普通の会社に就職し、ごく普通の会社員としてごく普通に一般企業で働いていた。

本当にごく普通の今時の女だ。

コピーにお茶汲み、お客様の苦情請け負い、資料作成と大学を卒業してすぐにコネで入った会社では社長である伯父様に頼らず、ただひたすら自分の能力を伸ばす事に邁進していた。入社の時には頼っちゃったけどね。

でも、そんな私にも春はやって来たのだよ。えへん!

ま…ぶっちゃけその春も最悪だったけどね。

本当に最悪も最悪。時間が戻せるならあのバカに声をかけられる前に戻りたいわ。

思い出すだけだけでも吐き気がする…。ミーヤの気分が急降下して行くとともに、空模様もどんどんと怪しくなって行った。

さっきまで元気に飛び跳ねていた芋たちも、生温い風と突然降って来た雨に体を寄せ合って震えている。

罪もない植物達に当たってもしょうがないよね…そう呟くとミーヤはドアを閉めた。

ドアノブが空中に浮かんでいたのが力を失ったのか、カランカランと大きな音を立てて床に転がって行く。

流れる涙を拭くとミーヤはビーツから言われていた事を思い出しながら、薬を作り始める。


ボロボロの大学ノートには日本語で書かれた文字の羅列が並ぶ。これはここに来てこれからどうやって生活して行くか考えるために柚羽が考えた単語帳ならぬ、手に職を付けよう帳だ。①と書かれたノートにはまず薬師になるために必要な薬の作り方を書き記した。

材料も地球とは異なるため、図に書いて説明している。

ま、この図も柚羽が書いたものではないが、彼女の魔術で記されたものだ。

このノートの至る所には、丸い字で『心を落ち着かせろ』『自然にあたるな』『集中しろ』そう書いてある。これらはビーツ様が書いてくれた。

ミーヤが泣く度に空が荒れ、森の動物達が犠牲になっていることを教えてくれたビーツ様がミーヤに教えた事は何かに没頭する事だった。

元々、研究には没頭するタイプだったミーヤは大学でも科学研究で試験管やフラスコとお友達のミーヤには薬の製作というのは心を落ち着かせる特効薬。

それを感じ取ったビーツから様々な課題を出され、それを次々とこなして来た。


「あー今日の課題が終わってない…」


緑色の頭をワシワシと乱暴に手でかくと、緑色のカツラがずれ落ちた。そこからは漆黒の長い髪がばさりと落ちる。

面倒くさいな…そう言いながらも、すぐにカツラを被るとミーヤはまた薬の製作に没頭し始める。


壁がぐにゃりと揺れると緑色に光り輝いたその中から、柚羽の身長よりも低いぼてっとした男がにこやかな笑みを浮かべて立っている。


「ミーヤ」

「ビーツ様!!お帰りなさいませ」

「うむ。留守番ご苦労じゃったな。おお!!薬もこんなに沢山作ってくれてたのか。おぬしのお陰でどれだけの人達が助かるか。ありがとう」

「ビーツ様お勤めご苦労様です」

「うむ。ミーヤ。ワシの留守中、誰も尋ねて来なかったか?」


ギョロっと鋭く光るビーツの目も柚羽にかかれば、ごまアザラシのようだとばかりに脳内変換されてしまう。


「ええ。人間でしたら誰も」


ウソではないとにっこり微笑めば、ビーツはそうかと言うだけで他には何も口にしなかった。

そう柚羽の中でビーツが留守中にやってきたあの男は人間とは見なされていない。



なのに、なんでこのチワワはまたここに来てるのよ!


「おい!そこの下男!聞いてるのか!」

「……」


あんたまだ来たんかいって言うか、いつ入って来た。

ドアの方を見れば、チワワはどうだ凄いだろうと言わんばかりに胸を張っている。

それって住居侵入だし。

何気に犯罪だし。

相変わらず柚羽に白い目で見られているのに、チワワはペラペラと今日もよく喋る。


「気位の高い私が来てやっているんだ。茶ぐらいもてなしたらどうだ。人を閉め出して一体何を考えてるんだ!私だったから良かったものの、他の奴らだったらお前のような下賎なものなど切られてたに違いないんだぞ。感謝しろよ」

「……」


頼んでねーよ。

来てやってるだと?

早くか え れ !

誰が感謝するかよ。


「おい! 聞いてるのか!!」

「……」


「ビーツはどこだ?」

「……」

「ふん。待たせてもらうぞ」

「……」

「おい私が来てやってるんだお茶くらいだせ」

ごん!

無言でテーブルに置かれたのはルーベル茶と言う毒草茶。

「……」


これで懲りてもう来ないだろうと思ったら、あの男は翌日も、その翌々日もミーヤの前に現れた。

その度に冒頭のようなことを聞いて来るのだ。そう思っていると、また、あの無駄に顔のきれいな男が凝りもせずにここへやって来た。

もう、何日目になると思う? すでに二週間も同じやりとりをやらされているこっちの身にもなって欲しいモノだ。

ビーツ様は、あんたと違ってお忙しい方だと言うのに。そんなにビーツ様に会いたかったら、七鳥が鳴く前に(地球の世界で言う七時前)にこっちに来いよな。こんな昼過ぎにあの方がいるわけないだろうが!

それにビーツ様は昨日返って来たばかりなのに、また狩りに行かれているんだぞ!お前のようなプー太郎に構う暇なんて一秒もないのさ!

まあ、言いたい事は山ほどあるが、嫌いな男とは口もききたくないミーヤは常に無言に徹している。


ビーツ様は旅から帰って来てから、ほぼ毎朝のようにまだ空に星が瞬いている中、国境近くの森の奥まで異常がないかとチェックしに行っている。

何でも半年前に私がこの世界に現れてから、国境にかけてあるバリアみたいなものが綻びかけているとか。

それらをチェックするために、ビーツ様は時々旅に出る。

本当は私も行きたいが、まだこの世界の言葉自体を操れていないし、他の人間に私の存在が見つかったら、何かとヤバいとか。

それで私は毎回、置いてけぼりで課題を山ほど出される。

ったく、夏休みの宿題かよって言いたいくらいだ。

私は毎回溜息まじりにナイフで外を指し示すが、この我が侭坊ちゃんには何も伝わっていないらしい。

この上から目線で物を言う、不躾な男を見るだけで、私は毎回鳥肌が立ってしまう。


「ん!(あっちだよ!あっち!)」


無駄に背が高いから、あんたを見上げているこっちの首が痛くなるんだよね!


「ん?何が言いたいのだ、 分からないから聞いてるのだぞ」


さりげなく自分の肩に置かれた男の手に、全身鳥肌。

全身で嫌悪感を感じた私は、無言で肩に置かれた奴の手を払いのけた。


「オマエ……本当にどこに目を付けてんだよ!」


さっきまで洞窟に行っていたせいで、喉がおかしい。声も、しゃがれたジーさんの声みたいだ。一応、生物上は女だから、バーさんか…。


「眉の下に決まっているだろうが。そのような事もお前は知らないのか」


相手の男は呆れたように眉を潜めながら、真面目な顔で答えてくる。

もうダメだ。本当この二週間、我ながらよく耐えたモノだ。


「お前は、文字も読めんのか? アホが!」


もう一度ナイフで、扉に貼ってある置き手紙を指し示した。相手は、漸く私が言いたかったことが分かったのか、溜息をつくと肩を落とした。


《森に行って来る。夕刻には戻る。帰ったら、今朝の話の続きをしよう ビーツ》


ったく、用が終わったなら帰れよな!!

私の機嫌は、今 最高に悪い!

シュル!!

ガリ! ガリ! ゴツゴツ....。

床にパラパラと散らばる紫色の塊。

私は、溜息をつきながら、また掃除をしなくっちゃと心の中で呟いた。

床に散らばった紫色の塊は、ムニムニムニ〜と動くと、移動しては土同士で結合してくっ付き、グレープフルーツくらいの大きさになると、生き物のようにズズズズ.....と動き出した。

何度も言うようだが、ここは異世界。

土まで生きてるよ。

ミミズみたいだな…いや、アメーバか? それともスライム…。

ま、イイか。でもこのスライムみたいな土は薬になる。貴族が好んで買うような薬だ。夜の…ではない。どの世界も女と言う物はダイエットと言う言葉には弱いらしい。まさにこのスライムもどきの土は、痩せたい場所に貼付けると、その部分の脂肪だけを吸い取ってくれると言う画期的なダイエット薬だ。

まあ、このままでは使えないけどね。これに私が魔術をかけることでダイエット薬になる。

何時の間にか、説教好きな無駄に足の長い男が自分の目の前に椅子を持ってくると、それに跨るように座って面白そうにこっちを見ている。


「おいお前、また性懲りも無く、洞窟に行ってたのか....ビーツがあの時お前を助けなかったら、どう言う事になってたか.....」


また始まった。

この男の説教は、長い!

その上、余計なことばかりを後で継ぎ足して来る。

お前はあたしの母親(おかん)か!?

一体何が言いたいんだ。

ゴチャゴチャと自分に文句を言って来る男の言葉を右から左に綺麗にスルーさせると、あたしは素知らぬ振りして、またナイフを握りしめる。

地道な作業を始めた。

 

 靴の裏についた泥をナイフの刃先で抉る様に取っているのは、あたし.....男の格好をしているが、一応女性である。

宮前みやまえ 柚羽ゆずは

つい半年前に、この世界に飛ばされて来た人間だ。

訳あって、今はその事に触れたくはない。考えたくもないのだ。

 

 この世界の人間は、私の名前を発音することが出来ず、「ミーヤ」で妥協した。だってさ私を助けてくれたビーツ様がかわゆく首を傾げながら「ゆ....じゅ...りは?」と言ってくるんだよ。もう鼻血ものだったわ!

でもさ私を助けてくれた恩人であるビーツ様が私の名前を呼ぶ度に毎回舌を噛ませる訳にはいかないじゃない、だから妥協したのよ。

これだったら大丈夫だと言って、その日から私の名前はミーヤになった。


 さっきのチワワが言っていたように、あの時洞窟に倒れていた私を拾って助けてくれたのが、ビーツ様だ。

この小屋の主である。

私がこの世界にやって来た時、ドレスは着てたが髪はショートボブで、この世界だと少年によく見られる髪型なんだって。

そこでビーツ様から、なるだけ少年の格好をするようにと言われたのさ。

ここは剣と魔法の世界って聞いたからには、私としては王子様って感じでブーツにシャツに厚めのコートって思ったんだけど、それは貴族の装いだって言われて、無難にブーツに白いというか少し黄色がかっているシャツ、それからサブリナパンツの用なズボンを穿いてている。

これってこの世界の小倅のような衣装らしい。しかも年齢なら10才くらいってちょっとサバ読み過ぎ。

常に男として振る舞っているんだけど、良いとこの小倅って言う設定だから自分の事は私と呼びなさいとビーツ様には言われてる。

だが、今日は普段は着けないマントに学ランみたいな服を着なきゃならないし、いつもの汚れたブーツじゃなくって、新品のを履く様に言われている。

どうしてこんな物を履かなきゃならないのだ...。

ブツブツと文句を言っていると、ミーヤの後から弓矢を携えた長髪の男が現れた。


「それは、これからこの国の王様にご挨拶をしに行くから決まっているだろうが。それよりも、ビーツは、何処にいるんだ?」


「そんなにビーツ様に会いたいのなら、もっと早く起きるんだな。ビーツ様なら今朝早く国境の防御魔法をチェックしに行くついでに薬草摘みに行った。すぐに帰って来るって言ってたぞ」


ミーヤは、眉を顰めながらも新品だったブーツの靴底にへばりついて固まっている紫色の土をナイフで削りながら取っている。

この土は、洞窟の中にある土でそれは特殊な土だった。そのままにしていると、土が物を溶かしてしまうのだ。そこに目をつけたのは私!物を溶かしてしまうなら、脂肪を溶かしてくれた方が嬉しいじゃん!と言う事で、私の研究が始まった。

そのために私はよく危険な洞窟へと脚を運んでいる。この紫色の土を丁寧にナイフで削り取るとそれをビーカーへと入れた。

この土は、一度付着した所から、剥がされると、そのまま土に還らず、飛び跳ねながらも元あった洞窟まで飛び跳ねながら、戻って行くのだ。折角の金目の物を逃がす物か!土も私の心を読んだのだろう。危機感を感じたのか、逃げ出そうとするの氷で蓋をすると一瞬で土が縮む。

この世界のモノは土までも奇妙な物だ。あたしがいた世界では考えられん。土が意思を持つか? 自分で跳ねて元いた場所に帰ろうとするか?動物ならわからないが。


「ミーヤ。お前はまた、性懲りも無くあの洞窟に行ってたのか?」


始まった……。また、この話題かよ…。

ミーヤと呼ばれた柚羽は、嫌な顔をしながらも靴を綺麗にしている。


「行ったが、悪いか? もしかしたら、元の世界に帰れるかも知れないからな」


この男は、私の親じゃないのに、色々と小姑よろしくって感じでチクチク口煩い。

顔は、イケメンのくせに、その減らず口が惜しいな。でも、あたしはあんたの顔が、この世で一番・大・嫌・い・だ!

その無駄に綺麗にカールされた巻き毛も、男のくせに付け睫毛でもしてんじゃねーのかっていうような長い睫毛も、人の心配なんか微塵もしていないくせに、そんな如何にも心配してますよって言うような雰囲気を出しているのが、大嫌い。

こんなのは、早く禿げるんだろうな。おや?おでこが後退してる。フフフ.....。

いっその事 私がそのクルクル巻き毛を全部毟り取ってやろうか?

それなら、もうおでこが後退する事なんて心配しなくても良いだろう。

ミーヤは、目の前の背の高い男の緩やかなクルクル立て巻きロールの巻き毛を見て、口の端を上げてニヤリと微笑んだ。

それを見た男は、たじろぎながらも自分の頭髪を女から守るように手で押さえる。


「じゃあ、元の世界に帰ったら、ミーヤ。お前は幸せになれるのか?」


バキっと妙な音がする。

この音は、私の堪忍袋の一の緒が切れた音。

 黒髪のクルクルパーマの男は、自分の髪をブラシで梳かしながらミーヤの方を鼻で笑いながら見ている。

こいつってば、本当バカだ。今思い切り踏んだよね私の地雷。


「幸せ?そんなんじゃない」


ただ、時間を元に戻したいだけだ。

幸せ…その言葉が脳内に木霊する度に、人生で最も最悪だったあの日の事を思い出す。


「そう、幸せ…。君はもとの世界に戻るよりもーーーだよ」


容赦なく私の地雷を踏み続ける不躾な男。

ミーヤは、『幸せ』と言う言葉を聞いて顳かみに青筋を立てると、ブーツの底に着いていた土を削り取っていたナイフを長髪の男に向かって投げた。

寸での所で、男は難なくそれを交わすと「あなたは、もうここの世界の人間(モノ)となったのですから、諦めなさい」そう言うと壁に突き刺さったナイフを手も使わずに銀色の糸をナイフに絡めると自分の手元へ戻した。


この時ほど私は自分の魔力に感謝した事はない。

私は仁王様のように背中に怒りの紅蓮の炎を背負うと、目の前に立っている男を見据えた。


「な、なんだよ」


その無駄に長い髪、ぶった切っていいよね。それとも毟り取って上げましょうか?







以前書いていた物を書き直しました。


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