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星無し


シキさんの家は、面白いほど小さかった。

正面は、人が三人両手を広げたくらいの大きさ。その代わり、二階建てだ。

両開きの玄関があり、そこには開店中と書かれた木の札がぶら下がっていた。


「ホシナー、帰ったぞー」

シキさんがそう叫ぶと、中から少女が現れる。

「お帰りなさ……キースさんっ! どうしたんですか? と、そちらは?」

肩まで届く黒髪に、真紅の瞳。どこか、ヤヅキ君と似ている少女だった。

なんにもない所で躓きかけながらも、奥から走って来た。

なんというか、可愛らしい。

「よう、ホシナ。こっちはシエル。ちょっといろいろあって世話してるんだ」

「ど、どうも」

「シエルさん? よろしく、ホシナです」

小さく小首を傾ける。

小動物のような仕草に思わず微笑んでしまう。

「ホシナ、今日は仕事を頼みに来たんだ」

「そうなんですか。どうぞ、あがってください」

ホシナさんが後ろを向いたすきに、キースさんに気になったことを聞いてみた。

「あの、ホシナさんとシキさんって、恋人なんですか?」

「いや。まだ、だな。あの二人はなんだかんだでまだ友人だな」

「まだ、なんですか」

「あの、どうしたんですか?」

「いや、なんでもない」

「な、なんでもないです!」


そんなやり取りをしながら中へ入ると、意外と広くてすこし驚く。

なんだか、奥が以外と広いのだ。

「あ、なるほど、長細いのか」

「おう。気づいたか」

シキさんはにこにことかなりご満悦だった。

「まったく。こんなことを自慢してどうするんだい」

「そうですよ」

キースさんとホシナさんは顔を見合わせて苦笑いをしていた。

「いいだろ。個人の自由だよ。で、今回の依頼はなんだ?」

「あぁ、ちょっと旅に出たいんだ。道具を一式用意してくれるかい?」

「わかった。ホシナ、二人と待っててくれ」

「はい」

そう言うと、シキさんはすぐにどこかへ出かけて行った。

「キースさん、旅に出るんですか?」

「あぁ、ちょっとね」

「神域に、行くつもりですか?」

ホシナさんは、気づいていたようだった。

もしかしたら、私が来る前から、キースさんは神域に行きたいとか言っていたのかもしれない。

「そうだよ。そんな顔をするな。もともと、ここにいることがおかしいんだから」

キースさんは笑っていた。

どこか、哀しそうに。

どうして、神域に。

シェンラル王国でも、神域は人が行ってはならない禁忌の地だった。

それなのに。

「キースさん、これを」

奥から何やらごそごそと探し物をした後、小さな布袋のような物をキースさんに差し出した。

「これは?」

「お守りです。道中、様々な厄災を祓ってくれますように」

「そうか、ありがとうホシナ」

そんなやり取りをしていると、外から大きな爆発音がした。


私たちが外に行くと、先ほどまでキースさんと共にいた大和城の方から煙が上がっていた。

まさか、城で何かあったのだろうか?

「いったい、どうしたんだい?」

辺りの道でたむろしていた人々に、キースさんが聞く。

「それが、突然城の方から爆発が……」

あの爆発音に気づいた人々が、どんどん外に出て来ている。

騒ぎが起こる中、誰かが言った。

「おい、あれ!!」

見ると、城の煙の出ている辺りから、何かが飛んでいくところだった。

「いったい……」

キースさんとホシナさんを見ると、二人はきついまなざしでそれを見ている。

二人とも、何かに気づいている。

「すまない、シエル。あたしは城に戻るから、ホシナと一緒にここで待っていてくれ」

「え、でも」

「わかりました。御武運を」

「え」

キースさんはそのまま走って行ってしまう。

ホシナさんはホシナさんで、私の袖を持ってキースさんを追おうとする私を留めていた。

「キースさん!」

「あんたはシキが来るまで待ってな!!」

そんな言葉を残して、キースさんの姿は雑踏に消えた。

「あ……」

一人残されてしまった。

いや、ホシナさんもいるけど。

「中に戻りましょう、シエルさん」

「は、はい」

よく考えると、キースさんって一体何者なのだろう。

巫子の方々と顔見知りで、ヤヅキ君の家に居候している。

どう見ても、巫五の国の人ではなさそうだし。

それに、神域に行こうとしている。

私はどうしても国に帰りたいからだけど、キースさんが神域に行く理由は?

「ホシナさん、あの……キースさんはどうして城に」

「キースさんは人よりも正義感が強い方ですから。それよりも、聞きたい事があるんじゃないですか?」

「……」

察しの良い人だと思う。

訪ねようと口を開いた時、異変に気づいた。

なぜか、先ほどまでいた部屋に見ず知らずの青年がいた。

「てめぇが、紅の餓鬼の女か」

「え?」

白髪に、海のような深い青の瞳。その姿はどこか異端。

思わず、あとずさる。

この人は……危ない。

彼の発言をよくよく考えるとかなりおかしいのだが、そんな考えを持つ暇なんてなかった。

「あ、貴方、は」

「オレか? オレは、ただのカミサマだよ」

「シエルさん、退いてください」

ホシナさんが震えながら私の前にでた。

「この御方は――」

「黙れ、ニンゲン」

ホシナさんの体が横に吹き飛んだ。

「ホシナさん!!」

駆けよって様子を確かめる。

ただ、気絶しただけのようだ。

よかった……。

「何のつもりですか。貴方が本当に神だと言うのなら、その力を弱き人に向かって振りかざして、恥ずかしいとは思わないのですか!!」

「え……あぁ? 恥ずかしい?」

青年は、はじめて知ったように目を丸くして聞いて来た。

「力なきものに力を振りかざすのは、ただの暴力です」

「……」

ルカ様とリア様はシェンラル王国に滞在している神様だ。

私にとって、大切な……友人でもある双子神。

この世界で神と言う存在は絶対だというけれど、神様本人と会う事はほとんどない。ほんの一握りの人の間に姿を現すのだ。

私は、たまたまルカ様とリア様と出合った。他の神様と話したこともあったこともない。

だから、私にとって神様と言うのは、ルカ様とリア様のような存在だと思っていた。


「へぇ……」

なぜか、彼は面白そうに笑っている。

「お前、名は?」

「え? ……シ、シエル、です。シェルリーズ・アヴィア」

すると、彼は子供のように笑う。

「ならシエル。ちょっとオレにつきあえ」

つつつ、つきあえ?

それは、どういう意味でのつきあいでしょうかっ?!

思わず思考停止してしまった私の様子に、何を思ったのか彼はニパっと笑って手を取る。

「いくぞ、シェルリーズ」

「え? えぇっ?!」

無理やり体を抱き寄せられると、問答無用で横抱きをされる。

そのまま彼は、シキの家から飛び出した。





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