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巫子は





城というのは、私が見た事の無いような代物だった。

そこについた途端、思わず見惚れてしまう。

「どうした?」

「あ、あの……これが、城?」

「あぁ、ここが、大和城(やまとじょう)だ」

私が知っている石壁の城とは、まったく違った造り。

白の壁に、ところどころ見える木の柱。黒っぽい屋根は八の字に作られている。

シェンラル王国の王が住まう城が近寄りがたい孤高の城だとすれば、ヤマト城はどこか親しみ深い。

「すごいだろう」

「は、はい」

そんな様子を見ていた橘が、ため息をついた。

「行きますよ」

「まったく、風情が無いねぇ。ちょっとはこの大和城の素晴らしさを見せてあげようとは思わないのかい?」

「時間が押していますので」

「はいはい。じゃあ、行こうか」

「あ、はい」

馴れた様子で、キースは城の中へと入っていく。

それを、慌てて私は追った。




幾つもの部屋を横切り、ようやくついたその部屋には誰かがいた。

誰かと言うのは、判らないからだ。

男なのか女なのか。むしろ、本当にそこにいるのかも。

なぜかカーテンのような物でその人は隠されていた。

「あの、これは?」

「偉い奴は、その姿をさらしちゃいけないって言うそれは面倒なしきたりがあんのさ」

「たしかに、面倒ですね」

そんな会話を、少女の声が遮る。

「申し訳ない。いいだろうか?」

「なんだい、タガエか」

カーテンが上げられて、少女の姿が露わになった。

私と同じくらい。いや、それより下ほどの凛とした少女だ。

この国には、私とキース以外に金髪の人はいないのだろうか。

烏羽色の首元で切りそろえた短い髪が、少女とよく似あっていた。

なんだか、人形さんみたいだ。キースに見せてもらったイチマツ人形。

流夢薙(るむな)様が、また、脱走した」

タガエと呼ばれた少女は、淡々と言った。

「またかい。懲りないねぇ。しかも、人を呼び出しておいて」

「まったくだ」

二人で、うんうんと頷く。

ルムナ様?

それより、脱走したってどういう事?

「そうそう、彼女がシエルだ」

「そう。初めまして、シェルリーズ様。私は『(たが)え』の巫女。名前はない。タガエと呼んでくれ」

「は、はい」

名前が、ない?

この国の風習だろうか。

「流夢薙様が君を呼んだのだが、脱走した」

「だ、脱走ですか」

「まあ、よくあることだ。一週間ぐらい見つからないだろう」

「い、一週間も?! そ、そんな、大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。むしろ、これですぐに帰ってこられたら、明日は雹が降る」

その言葉が終わるか終らないかのうちに、窓の外で何かが落下していくのが見えた。


『やっほーっ! 帰って来たよっ!!』


「すまない。明日は雹が降りそうだ」

深々と頭を下げるタガエは、すぐに窓の外を見た。

「あのばか」

それに続いて、キースも窓辺に向かう。

「え?」

私が外を見ると、庭には大きなクレーターと、その中心に女の人が見えた。

「あ、あの人は?」

「あいつが主神の巫子、流夢薙だ」

呆れた様子のキースは、大きなため息をついた。



「ちわーっす!」

開口一番、私よりいくつか年上そうな少女はそう、拶して来た。

やっぱり黒髪で、黒の瞳。

「ど、どう、も?」

「あのね、うちはるむなっ。るむなっちって呼んでね!」

「え、あ……」

こ、この人、一応この国を支えている人なんだよ、ね?

なんていうか、戸惑う。本当に、この人が?

「まあ、それは置いといて。たがえちゃん、人払い」

呆気に取られている私を置いて、流夢薙はちゃっちゃと話を進め始める。

「私に命令しないでください」

そう、冷たく言いながらも、タガエはキースを掴んで外に出ていく。

「ちょ、なんだい。あたしまで外に出ろと?」

「うん。外でて、キース。三時間くらい、たがちゃんとかと戯れてて」

「戯れるか!! しかも、たがちゃんって誰だ」

「たがえちゃん。略してたがちゃん」

そんな二人のやり取りに目を白黒させながらも、事態の展開に焦る。

え、二人だけ?

この、人と?

キースとタガエの姿が完全に見えなくなると、流夢薙は言った。


「君が、シェルリーズ・ブルーネル。今、世界を壊そうとしているシャラージュ・ブルーネルの妹だね」


もう、驚かない。

たぶん、私の名前を知っている時点で、それを知っているだろうということは予測できていたから。


「私は……」

私は、シャラの親友だった。

親友だと思っていた。

私はただの城下町に住む町娘で、シャラは御城に住むお姫様。

そうだと思っていた。


「この国では、どうなんですか? 双子は、吉兆ですか? 凶兆ですか?」


私の国では、双子は凶兆。

双子が生まれた時は、すぐに次に生れた子を殺す事が決まりだった。


私は、殺されたはずだった。


「質問を質問で返すのは感心しないなぁ」

「あ、ご、ごめんなさい。……私がシャラージュの妹なのは確かです」

「やっぱり、そっかぁ」

「あの、でも、なぜ知っているんですか?」

私とシャラが双子であることを知ったのは、半年ほど前。

シャラがセレスティア王国に嫁いでからのことだ。

知っているのは、神聖ラル王国の国王……私の事実上の兄であるディウス・ブルーネル様とルカ様、リア様の双子神、私のお母さん。

本当に、一握りの人間のみだった。

「ん。聞いたの」

誰に。とは聞かない。

やっぱり、神託で聞いたのだと確信する。

「まあ、うちはぶっちゃけなんでもいいの」

「え……?」

どういう、こと?

「うちはシェルリーズちゃんと会いたかっただけだし」

「あの、それはどういうことですか?」

その問いにルムナは、ただ笑って答えなかった。






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