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外出を




「本当に、良いんですか?」

「いいのいいの。こういうのは何着も持ってるし、似合うやつが着たほうが良い」


あれから、数日たった。

夜月とはあの日から一度も会っていない。

そして、ようやく私は完璧とは言わないものの、歩き回れるくらいには回復していた。


「あの、その……これ、すごくきついと言うか……」

「ほら、じっとしてなさい。っと、うん。我ながら完璧だ」

なんでも、巫五の国での一般的な普段着だと言う着物を着せられたのだが、これがきつい……。

「大丈夫かい?」

「は、い」

ちょっと、息を吸うのにむせた。

その様子に、少々キースさんは苦笑していた。



とりあえず、リハビリという事で町に出る事になった。

それとともに、この国のことを知るためにと言う事で着物を着たのだが、どれもこれも全てキースさんから借りもの。お世話になりっぱなしだ。

なにか、お礼をしたいけど、何も無いし。

海に落ちた時、持っていたものはほとんど藻屑と消えたようで、今手元にあるのは肌身離さず持っていた路銀とちょっとした私物のみだ。

お金なんて、きっとキースさんは受け取らないだろう。ヤヅキ君の方はどうか分からないが、あの分だとキースさんに怒鳴られて受け取らないだろうし、持っているお金もたかが知れている。

「さぁ、町に出ようか」

「は、はい!」

キースさんに促されて、私は初めて屋敷を出た。



屋敷は、森か何かの奥に在ったようだ。

外に出ると、小さな道があるばかりで、あとは木々が生い茂っていた。他に人が住んでいる屋敷はない。

久しぶりの外にすこしはしゃぎながら、出てすぐに立ち止まった。兵士たちがいたのだ。

なぜか、みな黒髪に黒眼。私とキースさんのような金髪は誰ひとりとしていない。

「え……?」

思わずキースさんを見ると、彼女も知らなかったのか思いっきり嫌な顔をしていた。

「なんだい、(たちばな)。ここが紅の屋敷だと知っての愚行かい?」

橘と呼ばれた青年が、突然私の前で膝をつく。

やはり、この人も黒髪黒眼だ。この国の男の人は、黒髪なのだろうか。

「突然の無礼をお許しください、キース殿。そして、シェルリーズ・ブルーネル(・・・・・)殿。主神の巫子様より神託が下されました。シェルリーズ殿、どうか我々と共に城までお越しください」

「……っ」


なんで、知っている。


「シエル?」

キースさんが私の変化に気づいて、心配そうに顔を覗き込んでくる。

それに、答えられない。

「な、なんで……」



なんで、この人は私も知らなかった(・・・・・・・・)本当の名前を、知っている。







「この国は、なぜ巫五の国と呼ばれているか……シエル、わかるかい?」

「い、いえ」

私とキースさんは、馬車のような物に乗せられてどこかに連れて行かれていた。

主神の巫子がどうのと言った途端、キースさんが苦虫をつぶしたような顔をして、ついて行くことを了承したのだ。

この国では、巫子の言葉は『絶対』らしい。神の言葉を人々に伝える者だから。


「この国は、五人の巫子によって支えられているからさ。だから、巫子が五人の国……天之御中主神の巫子に伊邪那岐(いざなぎ)の巫女。天照大神(あまてらすおおかみ)の巫子。月読命(つきよみのみこと)の巫子。建速須佐之男命(すさのをのみこと)の巫子の五人」

どこか自嘲ぎみにキースさんは言う。

どうしてそんなに哀しそうに言うのだろうか。

「今、その巫子がいる場所に向かってんだよ」

「そ、そうなんですか」

五人の巫子に支えれられている国、か。

でも、なんで私の本当の名前を知っている?

そんな疑問に気づいたのか、キースさんは私が何かを言う前に口を開いた。

「巫子たちは自らの神から神託を受けることが出来る。大方、神託で神に伺ったのだろう」

たぶん、キースさんはなぜ私がここまで怯えているのか解っていない。

ブルーネルの意味を、知らないだろうから。

「神様に神託を、ですか?」

「あぁ。でも、まあ大丈夫だよ。心配しなくても、あの夜月の客だからな。悪いようにはされないよ」

「そう、なんですか」

ヤヅキ君……あの人の客だから?

キースさんはそれ以上言わなかった。

「でも、なんで私のことを神様は」

「なにはともあれ、城につきゃあわかるさ」

「はい……」



神は絶対の存在。

この世界は、神によって支配されている。

数える事も出来ないほどの神々によって、遊ばれているとも言えるかもしれない。

巫五の国は巫子の言葉が『絶対』だと言ったけど、それでも神の言葉には逆らえない。

どんな国でもそうだ。


多くの神々がいがみ合いながらも、ある程度の平穏を紡いでいた。

しかし、それは壊れてしまった。

シャラのせいで。



不安と戸惑いの中、私達は確実に城へ近づいていた。






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