再会は
次に私が目を覚ますと、少年が顔を覗き込んでいるところだった。
「あ……」
「うぉっ」
びくりと少年――私と同じか年上の少年が身を引く。
漆黒の髪に紅玉よりも澄んだ真紅の瞳。
見覚えがある。
「あ、貴方は……助けてくれた……?」
「意外としぶとい奴だな」
なぜか眉間にしわを寄せて言い募る。
十六・七にしては似合わない笑みを浮かべていた。
「死んでくれるかと思っていたが……運のいい奴だ」
呆気に取られる私を置いて、彼はさっさと部屋を出て行ってしまう。
「……え?」
今の、何?
「ちょ、夜月!! なにを言ってんだい、あんたはっ。会わないとか言っときながら会うし、しかも会ったら会ったで死ねとかっ」
呆然としていると、部屋の外からキースさんの声が聞こえた。
そして、騒がしい足音共にさっきの少年とキースさんが現れる。
「すまないな、シエル。こいつがこの屋敷のあるじ、紅夜月だ」
「……」
「こらっ、夜月。会ったんだから、きちんと挨拶ぐらいしろ!」
少年は半眼でキースを睨んでいたが、キースによって無理やり頭を押さえつけられる。
くれない、やづき……?
不思議な名前。
「ちょ、なにすんだよ」
「なにするとかじゃないだろ。なにが意外としぶといだ。死ぬとか一応まだまだ安静にしなきゃいけない病人に言うな!! ほんとすまない。こいつ、外見ともどもまだまだガキでな」
「い、いえ。そんな。気にしてませんよ! むしろ、助けていただき、ありがとうございます。ヤヅキさん」
そう言うと、ヤヅキ君はなぜか目をそらす。
「?」
彼は、こちらを見ずに吐き捨てるように言った。
「……死んだ方がましだったんじゃないのか? ここは、お前のような者がいる場所じゃない」
「や、づ、き! あんたはなんでそういうことしか言えないんだ!!」
「うるさい。そもそもお前がああだこうだ言わなければ、こんな迷惑この上ない事が起こらなかったんだぞ」
「だから、なんであんたはそう言うことをいうのかな?!」
二人の言い争いは続く。
迷惑、この上ない……か。
「ごめん、なさい。でも、すぐに出ていきますから」
このまま、お世話になるつもりはない。
準備ができたらすぐにセレスティア王国に行くつもりだ。
早く、シャラに会わないと。
「神域を、通るつもりかい」
「はい」
神域。それは人を拒む神々の聖域。
そこを通ってでも、行かないといけない。
あれは私のせいで起こったことだから。
それを聞いたヤヅキ君は、無表情になると無言でキースさんを突き飛ばして出て行ってしまった。
キースさんはたたらをふみつつ、苦笑する。
「まったく、あいつは。シエル、行くのなら、あたしも行くよ」
「え?!」
「心配だからね」
「で、でも」
神域は神の場所。私達にはある意味異界だ。
足を踏み入れた者は、神々の怒りをかうとされている。
それなのに……キースさんは……。
「あたしも、いろいろ思うところがあるんだよ」
はぐらかされているけども、それ以上聞こうとは思わなかった。
私も、言っていないことが多すぎたから。
人は、嘘をつく生き物。
私は、嘘をついて、秘密を騙り、真実を閉ざす。
それがやさしい嘘だとしても、それが明らかになったとき人々は傷つきあうのだろう。
神様。
人間達が『神』とすがる『神』様。
もしも本当にいるならお願いです。
どうか、私の願いを叶えてください。
シャラを殺さないでください。
シャラは確かに開けてはならない箱を開けてしまいました。
争いの火種をまき、人々を殺しました。
でも、それはすべて私のせいなのです。
それがダメなのなら、せめて、私に贖罪をさせてください。
いえ。
どうか……シャラをお救いください。