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さようなら




あなたの願いごとを叶えてあげる。


どうしても叶えて欲しいとみんなが頼むから、叶えてあげる。

それがワタシの……存在理由だから。


ねぇ、あなたの願い事は?


そう言って、名前の無いそれに声をかけたのは、黒の少女だった。




冷たい。

久しぶりに自分の血を見た気がする。

そばで誰かが戦っているのが解る。

きっと、あのキースとかいう人魚だ。

たちあがると世界が歪んで見える。


黒い世界。


白と黒、そして灰色しかない視界。

いつもと変わらない。

「ヴィランっ」

あの子が必死になって呼びかけて来る。

大丈夫だから。こんなことでは、私は死ねないから。

そう、答えたくても答えられない。

それはきっと、近くにあの女がいるからだ。

あいつ、前よりも力を強めている。

影響がまだこちらにまで来ていないのが幸いだ。が、それも時間の問題だ。

「ヴィラン……ねぇっ」

そろそろ、本当に答えてあげないと。

「はな、れて」

うっすら、笑みを浮かべてそう言う。言ったはずなのに、離れる気配はない。

「ねぇ」

「なに、ヴィラン?」

「ごめんね」

不思議そうに首をかしげる少年の顔が見えた。

どうしてなのか解らないのだろう。何に謝っているのか、解らないのだろう。

けれど、きっとほんとは解ってる。


私が、彼女と同じ存在だと。





暗い闇が蠢く。

黒が、集まっていた。

その中心はヴィラン。

負傷していた場所が、闇で覆われていく。

そして、最期は全身を。

が、ソレは一瞬のうちに霧散して、それでもうっすらと霧のように周囲に漂っている。

淀んだ闇を纏い、少女は立ちあがった。

「絶対、お前にだけは……渡さない。渡してやるものかっ!!」

「へぇ……おかしいわネ」

「おかしいのは、狂っているのは、お前だっ!」

「ええ。そうよ。でもそれはアナタも同じでしょう?」

キースと戦いながら、ヴィランに答える。微笑みながら。

それに、キースは苛立ちを見せた。

「まったく、私をなめてるのかね」

「いえ。それは無いわ。ただ、貴方はどうせワタシを殺さないでしょう? 優しいから」

死に笑みにあったのは、確信。

キースはシャラを殺さない。それを確信していた。

「さあ、どうぞ? 二人でかかってきてみなさい?」

「キサマッ……」

キースとシャラの戦いの間に、ヴィランが参戦した。

暗い闇が少女を中心に展開され、放たれる。

キースをも巻き込んで。

「ヴィランっ?!」

慌てて回避したキースに、先ほどのヴィランの攻撃を直撃したにもかかわらず、なにも感じていないらしいシャラの刃がつきつけられる。

「なんでっ」

絶望。そんな声色で、ヴィランが呟いた。

シャラにヴィランの攻撃は意味をなしていないのだ。

むしろ、キースを追い詰めている。

それに気づいているのか居ないのか、ヴィランはさらに闇を集める。

収縮。そして放つ。それを繰り返そうとして、

「さすがに、煩わしいわネ」

シャラを中心として、風が渦を巻いた。

木の葉を散らし、その風は勢いを増していく。

魔力を含んだ風はうっすらと発光し、近づく物すべてを拒む。

中心で笑う少女は、小さくつぶやいだ。

「行け」

風が和らぐ。

まさか、失敗したのか。と、思うような現象だった。

消えたのだ。

先ほどまで渦巻いていた全ての風が。

ソレに気づいたのはルゥイのみだった。


「キース! 逃げてっ!!」




爆発が起こったかのようだった。

先ほどまでの風とはまるで違う。

まさに、爆風。

さらに、木々あ薙ぎ払われていく。

早く。ただひたすら早く、そして鋭い風が、周囲の木々を伐採しているのだ。

放射線状に、シャラを中心としてそれはあたりを蹂躙していた。




ルゥイが気づいた時、目の前に居たのは……キースのみだった。

「ったく、なんだいあれは……っと、大丈夫かルゥイ」

「……うん」

周囲の木々が無くなってしまった。それに眉をひそめつつ、キースは問う。

ヴィランは姿が見えない。

大方、吹き飛ばされてしまったのだろう。

なぜキースが飛ばされていなかったのか、その原因は彼女の種族にあった。

――人魚(マーメイド)。足を手に入れたとはいえ、キースは人魚だ。

そして、人魚は死してのち、風に変わると言われている。

故に、水の眷族にして、風の眷族と呼ばれていた。

それは、きっと不幸な事。


「だれ? キース……? 変なの。マーメイドのくせして足があるなんて……いや、おかしいのは私か……」


第三者の声だった。

ソレを見て、キースは何も言わなかった。言えなかった。

なぜこんな事になっているのか、解らなかったからだ。


『彼女』と会った事、それがキースの不幸。


「お前は……なぜ?」

訳のわからない状況。それを知る為に問いかける。

「私の名前は――――――。……でも、もう意味を為さない。ねぇ、お願い。私の願い事を叶えて……いやダメね。願いは自分で叶えないと意味は無い。だからこんな事になってしまった」

第三者はそう言って、微笑みかける。

それは、視る者に憐れみを誘う微笑みだった。

儚く、可憐で。

「……人は願い事を際限なく願うけれど、それはどこに行くのか。……知っていますか?」

そう、問いかける。

風が破壊しつくしたその中心で、泣きながら。

そして。

「まさか、おまえは……いや、だとしたら、シャラは――」






――さようなら






そして、彼女の物語は、終わりを告げる。


何もできないままに。

最愛の人を助けることもできずに。

彼女を知り、真実を知ってしまったがゆえに。





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