失い難き者
どうする――?
ルムナさんが現れて、何かが変わると思っても何も変わらないこの状況。
いや、むしろ悪化しているこの場。
どうすればいい?
首筋に刃を当てて来るプルートの眼は、限りなく冷たい。
個人的に怨みを抱いているかのように、睨んで来る。
彼の事を私は知らないし、会ったこともないはずだ。なのに、なぜ?
うっかり殺してしまう、じゃなくて、うっかりとみせて確実に殺そうとしている。そんな、気配がする。
これはただの勘。でも、間違っていないはずだ。
「それくらいで」
ルムナさんが動く。
その手にはいつの間に創ったのか、光の球が幾つも灯っていた。
それにいち早く気づいたのはキースさんだ。
「ルムナっ、やめ――」
止めようとする。
今、シャラをルムナさんが攻撃をすれば、プルートは私を斬るだろう。
だから。
でも、止まらない。
「そんなことくらいで、私が止まると思う?!」
それは、放たれた。
眩い光。見ることも叶わないそれは、視界を焦がす。
幾つもの光が筋となって放たれたと解ったのは、その数秒後。プルートの手が離れた時だった。
「っつ!」
後退。
私の横すれすれを光は過ぎて行く。
地を焦がし、破壊している。
これが少しでもそれていたら。まかり間違って私に当たっていたら。
ぞっとするような痕だった。
「っち、逃がしたか」
「ルムナっ、あんた、何考えてんだいっ!!」
「うーん。シエルちゃん助かったから結果的に問題な」
「問題オオアリだよ!!」
二人は器用に言い争いをしながら戦っていた。
どうしよう。
どうする。
どうすればいい?
ヴィランはひたすら自らに問いかけていた。
目の前に現れた、アレ。
このままでは、彼女の大切な物が奪われてしまう。
「ダメ。それだけはダメっ。この子の為だけに、ここにいるのにっ」
そう、ダメなのだ。
それだけは許容できない。
どれだけ奪われても構わない。自分という存在が消えたとしても。
それでも、自分を見てくれた彼だけは。
「ルゥイ、だけは……」
「……」
握りしめたその手を、ルゥイはじっと見つめていた。
「ねぇ、ヴィラン」
小さな声だった。
すぐ耳元で聞かなければ聞こえないほどの。
「ルゥイ、ほんとは……ほんとはね」
本当は、全部――。
「あら、どこに行くのかしら?」
「――っ、貴様っ!!」
木々がなぎ倒される。
その中心に居たのはシエルと似た少女、シャラだ。
あたりに風が巻き起こり、長い髪が翻る。
「まったく。最終的には何も変わりはしないのに、どうしてそこまで拒むのかしら? 訳が解らないわ」
倒れた木の幹を踏みつけ、ヴィランを睨みつけた。
まるで、蛇に睨まれた蛙のように、その身体は震え、停止する。
「だ、だって、お前は……私の……」
何かが、飛んだ。
一瞬で、あまりにも早すぎて、反応などできず。
血しぶきが舞った。
「ヴィランっ?!」
握られていた手が離れる。
真っ赤になった視界の中で、確かにルゥイは見た。
切り裂かれて地面に倒れた少女を。
「さて、そこの邪魔ものも殺したら、帰ろうかしら」
くすくすと耳障りな声が響く。
ルゥイは動かなかった。動けなかった。
震えながら、少女に手を伸ばす。
さっきまで、確かに自分の手を握りしめていたその手は、血に塗れている。
赤い。
地面に、血だまりが広がっていく。
「ヴィ、ヴィラ、ン……ねぇ……」
手が重なった時、微かに指が動いた。
「一人、しないって、ルゥイ、約束した、のに……」
ヴィランは応えない。
「ルゥイを、連れて行ってくれるって、言ったのにっ」
落ちた滴が、血だまりに混じって解らなくなる。
いつの間にか、広がることを止めていたそれは、黒ずんでいく。
「なら、私が連れて行ってあげる。あのカミサマの手の届かない場所に」
手が、差し伸べられた。
「ちょっと、それは無いんじゃないのかい? シャラとやら!」
「きーす……」
顔を上げたルゥイの前に、キースがいた。
不機嫌そうなシャラに不遜な笑みを見せていた。




