舞い降りて
酷く、殺伐とした空気。
私とユウちゃん、キースさん、ヴィランちゃん、そしてルゥイ君。
そんなわたし達と対するのはシャラとプルート、そして数十もの自動戦闘機兵。
くすりと笑ったシャラの声から、戦闘がはじまる数瞬前。
そこに、彼女は舞い降りた。
「じゃっじゃーん! こんな空気の中に現れるのは、空気を読まない……槻弓流夢薙よっ?!」
酷く、場違いな声だった。
「ル、ルムナさんっ?!」
な、なんで、なんでここに?
ルムナさんは首都にいるはず。そもそも、巫五の国を支える五人の巫子の一人であるルムナさんがどうしてここに居るのか。
解らない。解らないと共に、少しだけ安堵をしている自分がいた。
「ふーん。貴方がシエルの……」
当のルムナさんはシャラを見て、何やら頷いている。
空からの突然の来訪者に、シャラは眉をひそめ、プルートは警戒し、人形のような兵隊たちは微動だにしていなかった。
「そんでもって、貴方が世界を壊そうとしている張本人なんだね」
「え?」
今、ルムナさんは、いったい……なにを言った?
「世界を、壊す?」
誰が?
ルムナさんはシャラを見ている。
シャラは微笑みを浮かべているだけ。
否定を、しないのだ。
「シャ、ラ? 世界を壊すって、どういう、こと……?」
尋ねると、声が震えていた。
「言葉の通りだけど、どうしたの?」
まるで、当たり前のことを当たり前に行うように。
なにをいまさらとばかりに、シャラは無邪気に尋ねて来る。
まったく、しかたないなぁ。なんて言葉が聞こえてきそうな、憐れんだような視線。
後ろで、ユウちゃんが震える。
「ネェ? どうしたの?」
突然、ユウちゃんが手を引いた。
一瞬だった。
眼の前で、銀色の刃が光る。
手を引かれて、一歩後ろに下がっていなかったら、間違いなくその剣は私の首を切り裂いていた。
「おや、逃げられてしまいましたか」
眼の前で、プルートが嗤っている。
その手には眼の前をつい先ほど通過したばかりの剣。
いつの間にか距離を詰められてすぐそばまで近づかれていた。
それと同時に自動戦闘機兵が一斉に動き出す。
ぱっと散り、得物を抜いて襲ってくる。
「シエルっ! ユウを連れて逃げろ!」
「で、でも」
わたしも、戦える。
今は不意をつかれてしまったけれど、それでも足手まといにはならない。
自動戦闘機兵の攻撃を、抜いた剣で受け止めてかわす。
そのまま一太刀。入れたと思っても既に逃げられた後だった。
「ルゥイとヴィランも連れてっ」
「そんなっ……」
そんな事、出来ない。
それでは、キースさんとルムナさんを見捨てて逃げることになる。
それに……。
見るのは眼の前のプルートでも自動機兵でもなく、親友だったはずの少女。
「シャラ……」
「逃げないの? シエル?」
「……っ」
くすりと笑いながら、そんな事を言って来る。
「あれ? 逃げるのは、君じゃないの?」
お茶らけた様子で言うのはルムナさん。
余裕の笑みを浮かべてそんな事を言っている。
その右手は刀印が組まれ、左手には一枚の札。
剣を掲げる相手に心もとない姿でも、決してひるむことがない。
その横にキースさんは立つ。
此れまでもそうして来たように、当たり前のことのように。
以前も、そうして戦っていたのだろう。
そんな、自然な姿で。
挑戦的な視線はシャラをとらえている。
そして。
「最初に言っておくけど、私がいる限り、この国はあんた達の良いようにはならないからね」
その言葉を言った瞬間、まるで計っていたようなタイミングで、全員が動いた。
シャラとルムナさんがぶつかる。
一方は剣。もう一方はなんと素手。
ルムナさんは刀印を組んだだけの手でシャラの剣を受け止めていたのだ。
ありえないような事でなのに、みんなは驚きもしない。
そして、キースさんはプルートの前に躍り出ると、剣戟を重ねる。
何度も。何度も何度も。数えきれないほどの金属と金属が叩きつけられるような音が繰り返された。
襲ってくる自動戦闘機兵たちを撃退しながら、ふとヴィランちゃん達を見ると――ルゥイ君を引き摺って、ヴィランちゃんが逃げようとしていたところだった。
キースさんが逃げろと言ったからではない。
ただ、畏れていたのだ。シャラを。
「シャラ……っ」
どうしてっ。
どうしてこんな戦いをしなくてはならないの?
一体、シャラは何を――ルゥイ君に求めているの?
不意をつかれ、自動戦闘機兵の剣が眼下に迫る。
それを弾いたのは一条の光。
ユウちゃんがぎりぎりで発動した魔術だった。
よろめき、体勢を崩した自動戦闘機兵に一太刀浴びせる。
やみくもに切るのではなく、彼等の急所を。
機械であるがゆえに彼らには中心部の核と呼ばれる場所がある。
そこを壊せば動けない。機能停止。
以前、ルカ様に聞いた話を思い出しながら、剣を奔らせる。
ようやく、一体。
完全に機能停止に追い込んだ。
その時、小さな悲鳴が聞こえた。
後ろのユウちゃんを確認しようとして、首元に刃があてられているのに気づく。
「あぁ、動かないように。うっかり、殺してしまいそうだから」
そう言ったのは、プルートだった。




