弱くて
シェンラル王国。
冬には雪に閉ざされることから、白き王国と呼ばれるその国が、私の生まれ故郷。
とても、美しい国だった。辺りの国々と諍いを起こす事もなく、とても平和な国で。
でも、神々の争いが少しずつ大きくなり、数年前大きな転機が訪れた。
軍事国家、セレスティア王国。その国は神の加護の享受することができず、神の血をひくと言われ加護厚き国シェンラル王国の姫を娶ることで神の加護を得ようとした。脅迫という強硬手段で。
シェンラル王国は逆らう事も出来ず、姫を差し出すしかなかった。
それが……親友だったシャラ。
シャラージュ・ブルーネル。
シェンラル王国、王位第二継承者の姫。
私は、彼女を……堕としてしまった。
「どう、して……」
「ここは、あんたの住んでいた場所とは、遠く離れ過ぎている」
「そんなっ、私は、とめ、ないと……私の、せいなのにっ……どうしてっ」
どうして、こんな事になった?
なにが悪かったの?
シャラを、止めないといけないのにっ。
「……落ち着きなさい」
「行かないとっ、あの場所に行かないとっ。シャラを、私のせいなのよ。私が、私が!!」
私が、傷つけた。
私が、あんなことを起こさせてしまった。
「落ち着きなさい!!」
その一喝に、ようやく正気を取り戻す。
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……」
全て、私のせいなのだ。
全て。
シャラが、セレスティア王国を操り戦争を起こしてしまったのも、神々と敵対してしまったのも。
静かにキースは私を抱きよせて、優しい声で言った。
「あんたのせいじゃない」
キースは、ただそれだけを言った。
ただ、それだけ。
その一言が、たぶん私は欲しかったんだ。
自分のせいだとわかっていながら、そんな一言が欲しかった。
「……ごめんなさい」
私は、なんて弱いのだろう。
自分は悪くない。そう、誰かに言って欲しかった。
「今は、ゆっくりお休み」
キースの優しさが、胸を抉った。
その様子を少年が影で見ていることも知らず、私は泣きじゃくった。
「……なんで、会わないんだい」
シエルが聞いてないことを確認しながら、キースは彼に向かって声をかける。
「会ってどうなる」
真紅の瞳が陰った。
彼は、いつでもこうだ。
「まあ、この子の性格からすると、あんたにお礼を言うだろうねぇ」
「……」
「それが嫌なのかい?」
「……うっさい」
酷く慌てた様子で、この館のあるじである少年はその場を後にした。
「まったく……」
少年が去ってしまったのを見て、キースはため息をつ。
少年がシエルに会わない理由を知っている彼女は、それ以上強要はしない。
ただ、眠っているシエルを見て呟いた。
「可哀想に……」
ここは、巫五の国。
神の巫子が治める国。
彼女の住んでいたはずのシェンラル王国は、神々が住まうとされる『神域』の向こう側にある国。
たぶん、海を漂流してここまで来てしまったのだろう。
あの荒海をここまで無事に漂流して来たのは、運がいいと言うか悪いと言うか……。
『神域』を人が越えたと言う話は聞かない。
あの荒海を無事に越えられるほどの船はこの国に無い。
彼女はきっと、そのシェンラル王国とやらに帰ることはできない。
そのシャラと言う者にも会えないだろう。
「……どうするかねぇ」
屋敷の主……あの少年に、要相談だろう。
彼女の今後は、どうなるか分からない。
一番の理由は、彼女を見つけた者が悪かった。
よりにもよって、あの少年だったのは、最悪だ。
キースはまたため息をつくと、少女の眠るその部屋から退場した。