希望の言葉
「キース、さん」
ようやく、キースさんに声を掛けられたのは、日が暮れたあたりの頃だった。
野営の準備が一段落して、二人っきりになった所。
「どうした、シエル」
いつも通り、いつもとなんら変わらない様子で応えるキースさんは、つい昨日のことなど何も無かったようにふるまう。
それが、少しだけ辛い。
これから、聞こうとしていることを考えると、苦しくなる。
でも、それでも聞かなければ……。
「あの、聞きたい事が。あの、石は……襲ってきたという化物は、どのような姿をしていたのでしょうか?」
はっとした様な顔をする。
そして、思い出したくもない物を思い出したように、いや本当に思い出して顔をしかめる。
「それは……」
「とても、大切なことなんですっ。辛いとは思います、が……」
「……」
顔をそむけるキースさんは、今どんな表情をしているのだろうか。
自分まで、苦しくなって来る。
静かな時間だった。
長い永い沈黙。
心を整理するための、小休止。
「……あの、あのばけものは……巨大な鳥だった」
震える声で、キースさんは答えた。
か細い、今にも消えそうな声だった。
でも、それも言葉を放つに従い、力強くなり、大きな声になる。
「大きな体躯。神の化身の金烏がいるのなら、あのような姿を、いやありえない。あんな禍々しいモノっ」
それは、叫びだったのかもしれない。
今まで、貯め込んできた恐怖と畏怖の入り混じった嘆き。
「人の体など容易に包み込んでしまうような、白と黄の混じったような色彩の翼に鋭い凶爪だった。嘴は鋭利で、その眼光に晒されたモノはっ」
圧倒的な理不尽に晒され、生き残った者の叫びでした。
「全て、全部、すべからくっ、石に……なった……」
「……」
「あたしが覚えているのは、それだけ、だよ……」
嗚呼、やはり。
キースさんの話を聞いて、確信しました。
そして、ほっと、一息つきました。
キースさんからすれば、当時者からすれば酷い事でしょう。
でも、希望が……見えたのです。
「キースさん……もしかしたら、助けられるかも知れませんっ」
「――え?」
一瞬、私が何を言っているのか解らないとばかりに、キースさんは世にも不思議なことを聞いたかのような声を出しました。
そして、次第にその顔が驚愕の色に染められていくのが、傍目からもわかります。
「どうして……」
「その化物はたぶん……私の知っている魔物、かもしれません」
もしも蛇のような姿をした化物だったらバジリスクかもしれないと思っていました。
が、『とり』。
「それは、私の国の近くに住む魔物です」
見た物を石と化す鳥。
ならば、それはきっと――。
「凶鳥コカトリス……」
なぜ、コカトリスがこの地に来たのでしょうか。
元々、私達の国でもそこまで姿を現さない魔物であるというのに、なぜ……。
考えても仕方が無いけれども、それでも考えてしまう。
「私も直接会った訳ではありません。が、たしか、聞いた話では、その魔物を殺せば石化した物は元の姿を取り戻すと聞いたことがあります」
「っ!!」
しかし、コカトリスが見つかるとは限らない。
見つかっても、倒せるのか。殺しても、そのコカトリスが違うコカトリスだったら。
いや、もう考えても詮無い事。
「じゃあ……アラヤは……」
アラヤ……知らない名前だ。でも、きっとあの人の名前なのだろう。
「助かるかも、しれません」
全ては『かも』の話し。もしかしたらの、根拠の無い話。
それでも……。
「こかとりす……コカトリス……あの、とり?」
空が、とてもきれいな夜。
とおい星はいつものようにひかっていて、手をのばせばとどきそうだけれど、ぜったいにとどかないとおしえてくれたのはヴィランだけ。
「やっぱり、かみさまは……」
きっと、このひとりごとはだれも聞いていない。
「みんな、うそつきだ」
――ずっと、おもっていた。




