逢い見えて
逢い見えて
シエルが去って行く。
気配が感じられなくなって、ようやくキースは……彼に呼びかけた。
「アラヤ……久しぶりだね」
笑みを浮かべながら。
「あと、ごめん」
あたしはね……恐かったんだ。
周りは虫の声一つしない。
命の無い石とかした町中で、一人たたずむキースは独りごとを語る。
本来なら彼がそこにいたはずなのに。たった一人で語る。
「あの化け物がね、怖くて……此処に来ることすらできなかった。ほんと、シエルには申し訳ないことをしたよ」
先ほどまでシエルのいた場所を見るキースは、自嘲的な笑みに変えていた。
「彼女をだしにしたんだ。恐かったから、彼女が神域に行く事をあたしの理由にもしたんだよ。そうでもしなければ恐くてここにも来ることができなかったんだ……あんたが馬鹿なら、私は臆病者さ」
恐くて怖くてこわくて。だから、ここに来れなかった。
アラヤの事を見る勇気が無かった。
石になってしまった彼を。
またアレが現れるかもしれないという恐怖があった。
神域に行って、どうするのか……アレに復讐をしたかったのか、それとも何をしたかったのかが解らない。
シエルがこの国に流れつかなければ、夜月が拾わなければ、ここに来なかっただろう。
ずっと、首都で暮らしていたのだろう。
それが容易に想像できてしまった。
「アラヤ……」
キースがその名を呼んでも、答える人は誰も居ない。
だから、応えなどは求めていない。
それでも、彼を目の前にして呼ばずにはいられなかった。
どれくらい、そこに居たのか分からない。
ただ、ぼんやりと石の町並みを眺めて、ただ佇んでいたキースは、ふと身を翻した。
「じゃあね」
そろそろ戻ろうと、足を進めた。
が――
「……っ、誰だっ?!」
慌てた様子で後ろを振り返る。
しかし、誰も居ない。なにもない。
キースはそれでも警戒を解かない。
少しずつ、一歩一歩と後ろに下がって行く。
「……」
気のせいだったのか。
眉をひそめ周囲を見回して、警戒を解こうとした。
何も無いと判断してしまった。
「アラ、それでいいの?」
「――っ?!」
瞬間、後ろから組み伏せられ、首筋に冷たい刃を押し当てられていた。
文字通り、手も足も出せない。
唯一動かせた首を持ち上げると、目の前に少女がいた。
そして、キースを組み伏せていたのは青年。
只者ではない。こいつらは、危険だ。
そう判断したキースだったが、だと言って何かが出来る訳ではない。
今、動けば殺される。
言われた訳でもなく、そう感じていた。
そして、黒髪の線の細い少女が笑って――。
「……シエ、ル?」
なぜ?
ぽろりとこぼしてしまったその言葉に、少女は笑みを消す。
「あんた……いったい」
なぜ、似ている?
その纏う色も気配も笑みも、シェルリーズとは似ても似つかない。
それなのに、シェルリーズとよく似ていた。
「そう、ワタシの事は知らないのネ。シエルは何も言ってないの……ふふ。いいわ、プルート。帰りましょう」
「はい」
いきなり拘束を解かれたキースはバランスを崩して地面に倒れた。
「ま、まて」
いったい、彼等は誰なのか。
キースがおき上がった時、拘束していた男は既に少女の隣に。少女はキースから背を向けて去って行くところだった。
「あんたたちは一体……」
「誰だと思う? ワタシはただの……ヒトの為の救世主よ」
キースは動けない。
その声が、あまりにも暗すぎて。
憎しみさえ込められたその言葉の意味を計りかねて。
クスリ
少女は笑う。
耳障りな笑い声。
それが、いつまでも響いていた。
「良かったのですか?」
プルートと呼ばれた青年は、少女に声をかけた。
その顔には不可思議だという疑問のみ。
あたりはすでに町の中では無い。ただの森。
キースの姿もない。
「ふふ……なにがかしら?」
対する少女は愉しそうに笑う。
「彼女を殺さなくて、良かったのですか?」
「物騒ね。いいのよ、楽しめそうじゃない。今まで動かなかった海の神にワタシ、偽物に……シェルリーズ。ふふっ、これからどうなるのかしら? ねぇ」
くすくすと笑いながら少女は言う。
「シャラ。アナタはどう思う?」
笑う少女の問いに答える声は無い。
「嘘は言ってないわヨ……ふふ、うふふふふっ」
『ヒトの為の救世主』を語る少女は、最後にくすりと笑って姿を消した。
「あの子たちが世界を知るとしても、もう戻れない場所まで来てしまったのだから。もう、どうにもできないまでに、物語は進んでしまったのだから。ねぇ、プルート?」




