紅の悩み事
紅夜月は、困惑していた。
眼の前の難敵相手に、どう対応して良いのか解らなかったのだ。
相対したことの無いソレは、あまりにも弱く、儚すぎた。
少しでも力を入れれば折れてしまいそうで、どうすればいいのかまったくもってお手上げ状態。
これがキースやスサノオならば問答無用に切り捨てればいいのだが、それもいかない。
なにしろ、何もしていないというのに目の前で泣きかけているのだ。
ちょっとまて、なんで涙ぐんでいる。
オレは何もしてないぞ?
なんでそんな顔でこっちを見るっ。
ふ、震えるなっ。
さながら、自分が悪人になったような気分だった。
目の前の難敵――まだ幼い女の子ユウという未知の存在に、夜月はほとほと困惑していた。
なにしろ、子どもと接したことが無いのだ。
そもそも夜月の幼少時代は殺伐としていて、同い年の子どもと遊ぶ機会などとんと無いのだ。むしろ大人の中に混じって子どもが聞くには汚すぎることをやってきたものだ。
そして、現在も人里から離れて住んでいる。
なるべく人と関わらないように。
それがいったい、何の因果でこんな事になってしまったのか。
場所は森の民の隠れ里から少々離れた場所にある小さな町。小さいながらも活気ある町の診療所の近くにある公園だ。
なぜ診療所の近くと言えば、熱を出して倒れてしまったあの正体不明の子どもを診てもらっているからだ。
ヴィランとかいう、あの見た目人間のくせに得体のしれない少女とキース、そしてシェルリーズは診療所に居る。
そして、自分はというと……
「……」
「……」
目の前には今にも泣き出しそうなユウ。
自分はほんきで一体何をやっているんだ。
『ちょっと、あのヴィランとか言うのに説教をして来るから、ユウちゃんをたのんだよ』
そうキースに言われて早一時間。
未だ、診療所からキース達が出て来る気配はない。
「……」
「……」
会話が無い。
どうすればいいのか解らない。
子どもなんて、接したことが無いからどうすればいいのか解らない。
正直言って、怖い。小さいし、良く解らないし、なにを考えているのか解らない。
考え込めば考え込むほど顔が不機嫌そうな顔になっていく。それがユウにとって怖いのだと、彼は気づかない。
どうすればいいのかを考えるだけで手いっぱいなのだ。
それが怖がらせているのだが。
それにしても、キースはこの子をどうするつもりなんだ。
森の民と人の血を継いだ半端者。どちらにも属することが出来ない彼等は少ないながらに存在するが……。
「あ、あの、ヤヅキ君っ」
「ん?」
そんな中、救世主が降臨する。
「シェルリーズ、ちょうどよかっ――」
「って、なにユウちゃんを泣かせてるんですか!」
「え、いや、オレは――」
「ご、ごめんね、ユウちゃん。今、ちょっと手が離せなくて……ヤヅキ君は顔が怖いかもしれないけど、ちょっと何考えているのか解らないかもしれないけど、声とかも怒っているようにしか聞こえないかもしれないけど、優しい人だから」
「っ!!」
なん、だと?
顔が、恐い……? 何を考えているか解らない、い? 声が、怒って……。
衝撃的な事実だった。
「って、ヤヅキ君?! ど、どうしたんですかっ、頭抱えて……だ、大丈夫ですかっ?!」
「……そうか、だからか……」
「ヤヅキ君っ?!」
意外と夜月は繊細だった。
膝をつき、手を地につけ、顔を伏せる。
「い、いったいっ……?!」
シェルリーズが驚愕しているが傷心中の夜月にはよく聞こえていない。
「……ユウちゃん、なにがあったの?」
「わからない」
シェルリーズは夜月の様子を見て衝撃を受ける。
そしてユウちゃんはさらに怯えていた。
「オレ、怖かったのか」
ぽつりと呟く夜月に、シェルリーズはさらに衝撃を受ける。
「……ヤヅキ君、小さい子とふれあったことが無いんですね」
「城を往復するか、人里離れた場所に行くくらいしかしていないからな」
「……そう、ですか」
今まで他の町に行ったことが無かった。
首都から離れた場所に行ったとしても町には立ち寄らなかったからだ。
理由は簡単、なるべく人に接したくなかったから。
普通に人と接することを拒んできたというのに、子どもと一緒に居るというこの状況……。
「……辛い」
精神的に。
そこに、小さな手が差し伸べられる。
泣きそうになっていたユウだった。
「こ、こわく、ない、よ」
「……そう、か」
震える声で言ってもあまり説得力が無い。
が、夜月はその言葉に嬉しいやら哀しいやら、ちょっぴり複雑な顔をしていた。




