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雨は止んで





村に放たれた炎は、雨で消えつつも何時までも燻ぶり続けた。

私達は、炎から逃れるために村から離れた木の下、雨を凌げる場所を探して一夜を過ごした。



雨が止んだのは、次の日。

夜になるに従い強くなっていく雨によって消火された村には、炭化した建物の跡とだけがあった。

あったはずの血汐は、雨であらかた流されてしまったのだ。


その様子を、少女は何も言わずに見ていた。

虚ろな瞳で。


なんと声をかければよかったのだろう。

彼女は、一夜にして全てを失ったのだ。


あの男性は、少女の父親だったらしい。

あのままにしておけず、村にほど近い所に夜月君が墓を作った。

それを見て少女は泣きながら、そう言った。


惨劇の跡は余りにも深く、少女の傷を残した。




「……名前、なんて言うんだい?」

昼になる頃、キースさんは女の子に聞いた。

村を周り、他に誰かいないか、何か残っていないか調べた後に。

女の子は、真っ赤に腫らした目でキースさんを見ると小さく……鈴の鳴るような声で答えた。

「……ユウ」

「そう、ユウちゃんかい。……なにがあったのか、聞いてもいいかい? 辛いのなら、無理に言わなくてもいい。知らないのなら、解る範囲でいい。……教えてくれないかい?」

「キースさん……」

それを、この子に聞くのは酷なことじゃないのだろうか。

なんて考えても、ここで何があったのか知っているのはこの子しかいない。

「……とつぜん、しろいふくの人たちが来て……おじさまたちとけんかしたの」

それだけ言うと、ユウちゃんは下にうつむく。

つらそうに。

その姿が痛々しすぎて、もうそれ以上言わなくてもいいと声をかけたくなる。

それでも、ユウちゃんは口を開いた。

「そしたら、おとうさまとおかあさまがユウは……ここでかくれんぼをしてなさいって」

かくれんぼ……この子は、親の機転で助かったのか。

でも、助かったとしても、誰も居ないなんて……しかも、目の前で父親が死んでいたなんて……。

「それで、かくれてたら、こわいみんなの……こえが……」

その先は、なんとなく察してしまう。

悲鳴。

怒声。

乱闘。

そんな悲劇を、あの小屋で一人聞いてたのだろう。

なにが起こっているのか解らず、ただ震えながら。

「そうだったのかい……すまないね。辛い事を思い出させて」

「……」

下を向いたまま、首を振る。

その拍子に、涙がこぼれて地面に落ちるのを……私は見てしまった。

「みんな……どこにいったの?」

「……」

解らない。

この子の話を聞く限り、誰だかが来て襲ったことしか解らない。

ただ、予想はある。

この村にいた他の人々は……逃げ延びたか、襲ってきた人々に捕まったのだろう。

そんなこと、言えるはずが無い。

逃げ延びているのかもしれないのならともかく、捕まったなんて。

もしかしたら、すでにこの世にはいないかもしれないのだ。

「……キース、どうするんだ」

夜月君は、明後日の方向を向いたままキースさんに問いかけた。

その問いには、いくつかの意味が込められている。


この少女をどうするのか。

この村の現状をどうするのか。


そして、聖域に行くために、どうするのか。


そもそも、ここに来たのは聖域の案内人を探すため……。


「シエル」

「は、はい?」

酷く、真剣な声でキースさんは私を呼びました。

「すまないね」

「……いえ。そもそも、私が言い始めた事にキースさんが付き合ってくれているだけですから」






結局、少女――ユウちゃんは私達と共に行く事になった。

最初は、港町に戻って預けたりするのかと思ったけど、そうもいかないらしい。

エルフ――巫五の国では長命種と呼ばれている彼等は、ふつうの人達から良い感情を抱かれていないのだそうだ。

なぜかと聞くと、キースさんは困った顔で言っていた。

この国は、五人の巫子が支えている。

五人の巫子が崇めている五柱の神。

彼らを、エルフたちは認めていないのだそうだ。

ほかの神々を崇めているため、巫五の国の人達は異教の者たちとあまり好意的には受け入れられていない。

だから、ほかのエルフ達が住んでいる場所に向かう事になったのだ。

神域の番人を探さなければいけなかったから、今後の目的が大きく変わった訳でもない。


それにしても、なぜあの男の人はいたのだろう。

あの人は、人間だった。

……しかも、ユウちゃんのお父様。

つまり、ユウちゃんはエルフと人間のハーフと言うこと?

変わらない森の中。私には判らないような獣道をユウちゃんと一緒に歩きながら考えていた。

前には道を知っているらしいキースさん。後ろは不機嫌すぎる夜月君だ。


ユウちゃんは、こちらの事を警戒はしていないけど、やはりまだ信用しきれてないようだった。

当然だろう。

私達は、ユウちゃんにとって、ついさっきまであったこともなかった人だ。

肉親を失って、誰もいなくなった寂しい村を燃やされ、いきなり知らない人達とどこかも知らない場所に向かう事になってしまった。

……泣いて私たちを拒絶したり、私たちを敵視したりしていないだけ、いいのだろう。

「……っ! なにかが、くる?」

「え?」

キースさんが、私と侑ちゃんを庇うかのように前に立った。

森の中で、何かが爆発したような音が聞こえた。

結構な距離を感じさせる小さな音。

でも、それにユウちゃんは怯える。

「夜月、シエルとユウちゃんを見てみてくれ。見て来る」

「なっ、危ないですよっキースさん!!」

あの村の惨劇が、脳裏をよぎる。

犯人は誰なのか、まだここら辺にいるのではないか。不明なことが多すぎる。

そんな中で、ばらばらになるなんて危険すぎる。

「でも―――」「助けてっ!」

キースさんの声を遮って、悲痛な叫び声が聞こえた。

「今のは……?」

「誰かが、襲われているのかもしれない……とにかく、夜月、たのむ」

「……わかった」

「キースさんっ」

停止の声をかけても、大丈夫と言って爆発があった方角へと走って行ってしまった。

助けて。助けて。それだけを、繰り返しながら、走っている音が聞こえる。

でも、一人で行くなんて。

キースさんの後を追おうとすると、夜月君にむりやり手首を掴まれる。

「お前が行って、どうなる」

「でもっ」


「シエル……?」


助けて。

そう、叫んでいた声はいつの間にか消えていた。

森の中を、木々を押しのけながら走る音も。

その代わり、私達の前に、あの少年がいた。


「助けて……」


名前を、未だに知らない銀髪の男の子。

ヴィランと呼ぶ少女と一緒に、突然現れる彼は――私に抱きつきながら、叫んだ。


「ヴィランをっ、助けてっ」








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