惨劇の後に
その日、朝から雨が降っていた。
雨天の為に見えにくい視界の中、私達は獣道を進んでいた。
周囲は雑木林。
そこらじゅうに落ち葉が積もっている。
獣道と言っても人がよく通る道らしく、踏み固められた路はそこまで歩きにくくはない。が、水に濡れた落ち葉に足を取られかける。
そこを、キースさんは普段同様に颯爽と歩く。
それに続いて――
「あっ」
「何度目だ……」
足元の地から出た根に躓きかけて、支えられる。
気づくとヤヅキ君が私の手を取って頭から倒れかけるのを止めていた。
「ご、ごめんなさいっ」
慌てて体勢を立て直して、離れる。と、やっぱり不機嫌そうなヤヅキ君が呆れた様子でさっさと行ってしまった。
「大丈夫かい、シエル」
「あ、はい」
こちらの様子を見に戻ってきてくれたらしいキースさんと共に、先を急いだ。
雨足は強くなるばかり。
早く、その里とやらに行かなければ……。
「……? おい、キース……」
先に行っていたヤヅキ君が振り返った。
困惑の顔。
その先には、――黒い、煙?
「あ、あれは……」
まるで、何かが焼かれて――
「ま、まさかっ」
キースさんの顔色が変わる。
ヤヅキ君が眉をしかめた。
「血の……匂い」
「え?」
血の匂い?
注意深くあたりを確かめると、どこか鼻をつく焼けた匂いが風に乗って香る。
「シエル、すまないね、急ぐよ」
「は、はいっ」
まさか、火事?
いや、でもなんでヤヅキ君は血の匂いがすると?
早足になったキースさんとヤヅキ君の後を、必死に追いかけた。
「っ――!!」
思わず、息を飲む。
雑木林のその先で、私たちを待っていたのは悲惨な光景だった。
家が、燃えている。
所々、地面に赤黒い者が飛び散っている。
小さなその村で、襲撃があったことが見て取れた。
「なっ、いったい、なにがっ?!」
キースさんの混乱した声。
ヤヅキ君は、冷静にあたりを見回していた。
まるで、警戒をするように。
いや、実際にしているのかもしれない。
まだ、襲撃者がいるかもしれないっ――?!
「キースっ!!」
ヤヅキ君が警告するように叫んだ。
すぐにキースさんははっとしたようにあたりを見回す。
私も、あたりをぐるりと見回して警戒する。
腰の剣を思わず握りしめる。
そして、三人での探索が始まった。
壊れ、火の放たれた家。
外も中も血が辺りに飛び散っている。
それなのに、人がいない。
静かな村に無言の炎が燃え雨が降る。
誰も、いない。と思って気を緩めた、その時。
『―――――』
「っ?」
ヤヅキ君の動きが止まった。
続いて、キースさんと共に一点に警戒する。
小さな物置き小屋の前に、人が倒れていた。
幸い、焔はその物置小屋には燃え広がってはいない。
けれど、それも時間の問題。
「だ、大丈夫かいっ」
キースさんが駈けよった。
私もそれに続く。
倒れていたのは、壮年の男性だった。
なんて、酷い。
前から斜め袈裟斬り。さらに、幾つもの致命傷となる大きな傷。
真っ赤な血が胸に全体に広がっている。
手の施しようが……無い。
「ぅ――あ―――――」
末期の力を振り絞り、かすれた声を出す。
そして、手を小屋に向けた。
「ユウ、を――」
ユウ……?
その言葉を最後に、手が落ちる。
「っ……!」
なんで。
どうして……。
誰が、こんな事を。
キースさんは、無言で男性の目を閉じさせる。
そして、小屋の扉をためらいもなく開けはなった。
中には何もないように見える。
藁や道具が雑多に押し込まれたその小屋の中。
「キース、さん……」
「静かに」
「……」
中に、キースさんは一歩、踏み出す。
かさ
「?」
音が、した。
積み重なった藁をキースさんは無造作にほうる。
その下にいたのは――幼い少女だった。
「おとうさま? おかあさま?」
心細いと目じりに涙をためて、少女は震えていた。
「だぁ、れ?」
震えた女の子の声。
見知らぬ私たちを、こわごわと見ている。
どこか桃色がかった金髪に海のような青の瞳。
私やキースさんと同じような色彩を持つ少女。
ただ、肩まで伸びる髪から少し見える耳は、私達のそれとは異なった形をしていた。
「エルフ……」
ちょうめいしゅ。……そうか、長命種ってエルフの事なのか。
こちらだと、名称が変わって呼ばれているみたい。
私の国では、エルフや森の民と呼ばれていた。
名高い魔法使いの多い。そして、魔力に優れた種族だとも聞いたことがある。
昔は精霊だったとも神の一族だったとも、様々な噂があるけど、会ったのは初めてだ。
少女はこわごわと聞く。
「おとうさまは? みんな、どこ?」
それに、答えられなかった。
誰も、いない村。
いたのは、すでに亡くなった男性と……このエルフの少女だけ。
一体、なにが……この村で起きたの?
結局、焔に包まれたその村で見つけたのは、息絶えた男性と幼い少女だけだった。




