神域の番人
ヴィランと男の子と出会ってから、なぜかヤヅキ君はさらに不機嫌になってしまった。
話しかけても上の空で、仕方なくついていくことしか出来なかった。
ぶらぶらと町の中を廻ってから宿に戻ると、丁度キースさんが戻ってくるところだった。
「シエル、夜月が変なことしなかったかい」
「い、いえ」
「ちょっとまて。お前、合流早々、言う事がそれか」
「あんたがそんな顔をしているからだよ」
ヤヅキ君は、不機嫌そうな顔で半眼になっていた。
「それで、どこ行ってたんだよ」
宿屋に入り、少し休憩した後、ヤヅキ君は
「ん? あぁ、神域に行くのに、道案内を頼もうと思ってね」
「道案内、ですか?」
神域に行くのに、道案内が必要なようだ。
そこに行くだけならすぐに行けると思っていたけど、大変みたい。
「ここから少し行った所に、長命種の里があるらしい。そこに元番人の奴がいるって聞いてね」
長命種とは、エルフ達のような存在の事なのだろうか?
少し気になったが、きっと会えばわかることだろう。
「じゃあ、これからそこに行くんですか?」
「そう言うことだね」
「神域に、番人なんてのがいるのか?」
横から聞いて来たのは、ヤヅキ君だった。
巫五の国の人なのに、知らないらしい。
意外と知られていないのか……。
「一応ね。神域の近くに長命種の里が幾つも点在しているんだよ。それで、神域に安易に近づかないように、そして神域からもののけや妖が人里に下りないようにと見張ってんのさ。神域の事なら彼等に聞くのが一番だ」
「そうなんですか……」
そんな人達がいるのか。
シェンラル王国は神域から少し離れた場所にあったから、神域については全然知らない。
知っていることと言ったら、ただそこに神域が在り、其処に神々や魔族、魔物たちが住んでいることくらいだ。
キースさんの話を聞いて、ヤヅキ君は少しの間考え込んでいた。
「まあ、今日はこの町でゆっくりしよう」
どうせ、そろそろ夕暮だしね。
確かに、すでに時刻は遅い。
「じゃあ、これくらいにして、何か食べに行くかい?」
そう言って、キースさんは笑った。
「おい、キース」
深夜。
草木も眠る丑三つ時とまではいかないが、町の灯りが消えたその時刻。
その風景をニ階の窓辺から眺めていたキースが振り向くと、相変わらず不機嫌そうな夜月がいた。
「なんだ、夜月。眠れないのかい?」
「うっさい。それより、あいつは一体誰なんだ」
「さあ? 拾ったあんたがなに聞いてんだい」
「……」
「それに、シエルからしたらお前もあたしも、一体誰なんだ状態だと思うけどね」
その言葉に、夜月は言葉に詰まる。
反論できずに、くるりと後ろを向くとキースから離れようとした。
「なあ、夜月。あんたがどうしてついて来たのか知らないが、一つだけ言っとくよ。たとえ、なにがあったとしてもお前のせいじゃない。あたしが消えたとしたら、其れはあたしがそれを選んだからだ」
「おまえ……」
思わず足を止めていた夜月の顔が、硬直する。
それは驚きか、恐怖か。
それに苦笑したキースはわざと明るく言った。
「夜月、私が消えたら、シエルを頼むよ」
「ふざけんな。あんな危険な奴をなんで――」
「夜月」
夜月の言葉を遮ったキースの声は、まるで優しく諭すようだった。
「お前は、優しいから。どうせ言わなくてもやってくれると信じてる」
「……お前は、この旅に……馬鹿か? 神に喧嘩を売るつもりか?」
「ははっ、まさか。カミサマ相手にケンカを売るつもりはないよ……」
キースのその笑いは、どこか乾いた笑いだった。




