旅は道連れ
ある、港町――
そこに、昼を過ぎた頃に異様な雰囲気の旅人が三人訪れていた。
ど、どうしよう。
どうすれば良いのだろう。
怒ってる?
ぜ、ぜったい怒ってるよね?
横から見れば挙動不審な行動をしながら、私はちらりと彼を見た。
「なんだ」
畳の上に座り込み、近寄りがたいオーラを発するのは黒髪の少年。
その瞳は、怒りの炎でも燃えているかのようで……。
いや、ただ単に紅色の瞳だからそう見えるだけ。
でも、やっぱり、怒ってる?
解らない。それが、とても心苦しい。
「え、えっと、その……」
「用が無いなら見んじゃねーよ。つか、離れろ」
「ご、ごめんなさいっ」
怒ってるっ。絶対、怒ってるっ。
巫五の国の中心。巫子のいる首都から離れ、私達は首都近くの港町に来ていた。
今居るのは、その港町にある唯一の宿屋。
ヤヅキ君は、なんだかんだで旅について来ることになったから、キースさんと三人で泊っている。
ど、どうしよう。
本当にどうしよう。
今、部屋にキースさんはいない。
調べたい事があると言って、朝から町に一人で行ってしまったから。
つまり、旅が始まってからずっと怒っているヤヅキ君と、二人だけという状況で……。
気まずい。
「って、ヤヅキ君?」
突然、ヤヅキ君は席を立つと外へ向かう。
「なんだよ」
「あ、そのっ、どこに?」
「どこだっていいだろ。いちいちお前に言うべき事か?」
「ご、ごめんなさい」
うぅ、言葉にとげがある気がする。
そのまま、部屋を出て行く。
「あ、待ってっ」
一応、キースさんから一緒にいろって言われたのにっ。
慌てて外出の用意をすると、ヤヅキ君の後を追った。
磯の香り、そして独特のムッとした匂い。
首都とは違うその町は、首都とは違う活気があった。
「待って下さいっ」
「……」
ヤヅキ君はさっさと先に行ってしまう。
小走りで追いついて問う。
「あの、ここ、来た事があるんですか?」
「無い」
え、じゃあ、路に迷ったりしないのだろうか。
少し心配になる。
「こういう場所に、来たことなんてない……」
「え?」
それは、どういう……?
「ヤヅキ君?」
ヤヅキ君は、すでに先に歩いて行ってしまっていた。
そう言えば、ヤヅキ君の家……人里から少し離れた所にあった。
まるで、人を寄せ付けないように。拒絶するように。
今まで気にしていなかったけど、ヤヅキ君の両親はどこにいるのだろうか?
あの家にはヤヅキ君とキースさんだけ。
キースさんは居候していたらしい。
スサノオ様の言っていた、巫子のこと。さっきの発言。
ヤヅキ君は一体何者なのだろうか?
いや、今まで会った人達、彼らは、一体何者なのだろうか?
巫五の国……ここは、一体何なのだろうか?
「しえるっ!」
「え?」
思考に没頭していたあまり、飛びついて来たその子どもに気づくのが遅れてしまった。
「あれ? 君は……」
さらりと銀髪が揺れる。
首都で見つけた、不思議な男の子。
その子が、抱きついていた。
「なんで、ここに……」
まさか、また一人?
以前、大通りを一人で彷徨っていたことを思い出す。
しかし、あたりを見回すと、その子を追うように少女が走ってくるところだった。
「な、なにしてるのっ。ダメ! 離れて!」
叫んだのは、私よりも二つほど年下らしき、黒髪に同色の瞳のその少女。
少女は……どこか異端で、なぜか懐かしい。
たぶん、彼女がヴィランだろう。
「あなたが、ヴィラン?」
「っ。そ、そう、よ」
どうしたのだろうか。
少女の応えに疑問を抱く。
なぜか、驚いて……いや、恐れている?
私を、怖がっている?
理由に心当たりが無いけど、ちょっと哀しい。
「……行こうっ」
「え、待って、ヴィランっ」
慌てた様子で、ヴィランはその子の手を引いて走って行ってしまう。
名残惜しそうにあの子が何度もこちらを振り返っていた。
そんなに慌てるなんて、一体何があったのだろう。
無意識のうちに伸ばしていた手が行き場を無くし、空をさまよう。
「あ……」
またあの子の名前を聞き忘れちゃった。
あの子とヴィランは、一体何者で、どうしてこんな所にいたのだろう。
不思議な縁を感じながら、彼等の後ろ姿を見送った。
なんだ、今の奴らは。
紅夜月にとって、シェルリーズはあまりにも苦手でなるべく近寄りたくない人間だった。
だからこそ、ここまで干渉せずに遠くで見ることしかしなかった。
まあ、スサノオの時は別問題だったが。
とにかく、夜月はシェルリーズに関わりたくなかった。
が、
『解ってるよね、紅夜月。彼女はあの海神に巫子にと見込まれた。その意味を。絶対に、シェルリーズを守りなさい』
キースとシェルリーズの目の前で、聞こえないように小声でそんな言った。
槻弓流夢薙。
夜月にとって天敵のような存在である五人の巫子の一人。
彼女の命令は、夜月にとって絶対ではないとはいえ、それなりに重要だ。
だから、本当に嫌々ながらここまで来た。
「……なんなんだ」
あんな奴がシェルリーズを危険視している。
「どうしたの?」
彼女は何も解っていない。
自分が、今なんの中心にいるのか。
「お前、解っているのか?」
「?」
首をかしげる姿はまるで小動物のように可愛らしい。が、だからどうした。
思わず抱いた感想を頭の中で振り払う。
そんな事を考える暇があったら、もっと考えなくてはいけないことがある。
「さっきの女……」
あれは人間じゃない。
妖や霊よりも……もっと危険なモノだ。
ソレに、危険視されていたこの女は、一体なんだ。
ようやくひと段落したので、再開しました。
また、週一投稿になる予定です。




