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散策を




「あ、ありが、とうございます……」

はぁ。

疲れ果てて大きくため息をつき、その場に座り込んでしまった。

そこに、手を差し伸べてくるのは……。

「ス、スサノオ、様」

「呼び捨てでいいって言っただろ?」

昨日と変わらず、その神様は笑って言った。

よ、呼び捨てなんてっ。神様相手に、そんなこと畏れ多くてできない。

と言っても、昨日、思いっきり大変なことを言ってしまった気がするけど。

「お前、どんくさいんだな」

「なっ」

ま、まさかそんな事を言われるなんて。

ちょっとショックだ。

「あれくらいの人ごみで何やってんだ」

「いつも通りなら普通にいけました!」

武術とか習っていたから、体力には自信がある。と言っても、このざまだったけど。

……何日も寝込んでいたから、しょうがない。それに、あんな人ごみ、初めてだったし。そう、言い訳をしたい。

でも、スサノオ様はまったくそんな事を知らないで言ってくる。

「へぇ、まあいいや。で、なんであんな所でもみくちゃになってたんだ?」

「シキさんの店に行こうとしていたんです。昨日、スサノオ様のせいでいろいろ大変だったんですよ」

皮肉をこめて言ってみる。

「ん? そうか? で、様付けやめろ」

なれないことはするものでは無いらしい。

まったく気づいてもらえなかった。

「……で、でも」

一応、神様なのに。

よく考えて見ると、辺りにはまだ人通りも多い城下町。そんな場所に神様がいるのって、いいのだろうか。

なんだか、場違いな感じがするけど、スサノオ様は神であることをうまく隠して解け込んでいた。

どこからどう見ても、そこらへんにいる町人にしか見えない。金髪のせいで周りから浮いている私よりも普通の人だ。

どうしてこんなところに……。

「さてと、シエル。ちょっと付き合えよ」

「……ぇ」

ど、どうすればいいのだろう。

私は抵抗する事も出来ず、なぜか笑顔のスサノオ様に手をひかれていった。





気づくと、お祭り騒ぎのような町中で、私はなぜか神様と一緒に買い物をしていた。


「なぁなぁ。これなんかシエルに似合うと思うんだけど」

スサノオ様が出してきたのは、薄桃色の飾りのついたかんざし。

たぶん、かなりの値がする物を、無造作に渡してくる。

「あ、あの……」

「ん? お、こっちの方が綺麗か?」

さらに、蒼色の花をあしらった簪を出して来て言った。

「いや、その……」

「うん。こっちの方が良いかも」

そう頷きながらそれを買おうとしている。

「……」

そろそろ、限界だ。


「ちょっと! なんだってんですか! いきなり店に連れて来たと思ったら、散々人をひっぱりまわして!! こっちは病み上がりで昨日なんかどっかの神様のせいでいろいろあって疲れてるって言うのに! 何笑ってんですか!!」


我慢できずに叫ぶと、スサノオ様はますます嬉しそうに笑い始める。

この店に来るまで、スサノオ様は見た店全部入り、着物や櫛、とにかくなんでも見ては私をひっぱりまわした。

こっちは昨日のことでも大変だったのに……。

もう、疲れ果ててへとへとです。とっとと帰れ。

叫んだせいか、周りからの視線が痛い。

ちょっと恥ずかしくなって顔を伏せた。

さっきよりも小さな声で言う。

「本当に、どういうつもりなんですか」

「やっぱり、シエルは楽しいな」

「なっ。遊んでいたんですか!!」

ここまで疲れさせて、遊んでいたなんてっ。

「いや。そうじゃなくって」

ますます意味がわからない。

「じゃあ、どういう意味ですか」

「お前、オレの巫子にならないか?」

「なりません! ……は?」

え?

今、なんて言いました?

おもわず、ならないと宣言したけど、今、なんて?

「予想通りだな。んじゃ、行くか。休めるところとか近くにあるかな……?」

「ちょ、なんだって言うんですか」

訳もわからないまま腕をひかれ、私達は店を出た。

「……あ」

手をひかれながら路を進んでいくと、ある店を見つける。

「ん? なんだ、シエルはあんな物に興味があるのか」

「そ、その……」

店頭に並ぶのは、見た事のない形の剣。

反った長い刀身には片刃しかない。鋭く光る白銀の刃に、思わず魅せられる。

「そもそも、刀なんて女子が振り回すもんじゃないだろ」

「カタナって言うんですか……確かに、少し振り回しづらそうです」

以前から、ルカ様に剣術の手ほどきしていただいていた。

今回だって、本当ならルカ様から預かった護身用の剣を携帯していた。

「でも、ルカ様から預かった剣を無くしてしまったので……」

たぶん、今その剣は海の藻屑となっているだろう。

思わずため息をつきかけた時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「シエルっ!!」


「あっ、キースさん」

慌てた様子のキースさんに、思わず罪悪感がこみ上げてくる。

「見つかったか」

後ろから、シキさんまでやって来た。

「す、すみませんっ。また、迷惑をっ」

二人に駆け寄ると、スサノオ様が何とも言えない顔をしていた。

「いや、シエルのせいじゃない」

そう言うと、キースさんはスサノオ様を睨む。

まるで、仇敵を見るように。

「キース、さん?」

シキさんが酷く真剣な様子で私を止める。

「あんたが、スサノオだね」

「……お前、人間じゃないな」

え?

スサノオ様は、キースをつまらなそうに眺めながらそんな事を言う。

人間じゃ、ない?

思わずキースさんを見てしまう。

「だからなんだって言うんだい」

いつものキースさんじゃないみたいだ。

怒って、いる?

「キース。……お前が『キース』か」

スサノオ様は、キースさんを知ってるみたいだ。

でも、興味が無いようで、ちらりとだけ見ただけ。

「あ、の。キースさん、スサノオ様は、その……助けてくれたって言うか」

散々振り回したスサノオ様だけど、一応助けてくれた。また誘拐したとか思っているのなら、訂正しないと。

慌ててそう言っても、キースさんの様子は変わらない。

シキさんが小さく言う。

「キースはカミが嫌いなんだ」

「そ、そうなんですか?」

神様が嫌い……ヤヅキ君と、同じ。

なのに、何か違う気がした。

「……シエル」

「は、はいっ。ななな、なんですか、スサノオ様」

「さっきの事、考えておいてくれよ。あと、様付けいらん」

様を要らないといわれても、スサノオ様は神様だし……。

「さっきの事? シエル、まさかこいつに何か言われたのかいっ」

「い、いえっ。その……巫子になれとか言われただけです」

「なんだってっ?!」「なんだとっ?!」

二人の声が、重なった。

「え……?」

い、いったい?

「みこって、巫子か?」

「は、はい? たぶん」

「……」

いきなり無言になってしまう。

いったい、どうしたのだろうか。

そんな中、聞き覚えのある声が辺りに響いた。


「やぁっとみつけたあああっ!!」


「ル、ルムナさん?」

空からふわりと降りてきたのは、昨日会ったばかりのルムナさん。

「げっ……」

静かにどこかに行こうとしていたスサノオ様が嫌な表情をする。

「げっ、てなに。それにしても、昨日はよくも城を吹き飛ばしてくれちゃって」

「お前が出てくると、よけい話がややこしくなんだよっ! じゃあなっ、シエル」

「は、はい……?」

ルムナさんが来たとたんだった。

私が何かを言う前にスサノオ様は姿を消してしまう。

「まったく、慌ただしい神様ね!」

「あんたの方が慌ただしくてうるさいよ……」

キースさんは頭を抱えていた。

「一体全体、なんなんだい」

「ん? あぁ、シェルリーズちゃんに用があって」

「私、ですか?」

「そうそう。ねぇ、いつ神域に出発するの?」

「ま、まだ詳しい事は決まっていませんが、近日中に……」

昨日、キースさんとその事で話をしていた。

本当はすぐにでも出発したかったけど……一応出発は五日後と言う事になっている。

「そう……じゃあ、またね(・・・)

「は、はい」


その時、ルムナさんの瞳が悪戯をする子どものように煌めいていたことを、私もキースさんも気づけなかった。





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