人込み
あの後、ヤヅキ君に連れられて屋敷に戻ると、キースさんが一足先に戻ってきていた。
とても心配させてしまったようで、なんだかんだといろいろ言われてしまった。
ホシナの方は、気絶していただけで無事だったらしい。
話を聞いているその間に、ヤヅキ君は姿を消していた。
この家はヤヅキ君の家なのに、なんでいつもいないのだろう……。
私が居るからなのなら、本当に申し訳ない。
そんな事を考えている内に、夜は明けていった。
「……どうしたんだい、シエル。なんだか変なことを考えているんじゃないかい?」
朝食をいただいていると、キースさんにそう問われた。
丁度、昨日寝ている間考えていたことをもう一度考えている所で、思わず慌ててしまう。
「え? い、いえ。それよりも聞いて良いですか?」
「なんだい?」
私が話を逸らそうとしているのに気づいているみたいだったけど、キースさんは何も言わないで私の話を聞いてくれた。
「この国には五人の巫子様がいらっしゃるんですよね?」
「そうだな」
「ルムナさんは主神の巫子様と言ってましたけど、他の方々は?」
「あぁ、主神である天之御中主神の巫子。伊邪那岐の巫子に天照大御神の巫子、月読尊の巫子。天照と月読の巫子は双子だよ。まったく、めんどくさいほど似ている。そして、最後に素戔嗚尊の巫子さ」
な、なんだか覚えるのが大変。
でも、あれ?
「スサノオ……ってことはあの神様が」
「そうだよ。でも、あいつはここ最近巫子を選んでいない。だから空席になっている」
「そうなんですか」
「まったく、困ったもんだよ。巫子は五人。それが決まりだって言うのにね」
「……じゃあ、ヤヅキ君は」
スサノオ様は言った。ヤヅキ君を巫子と。
この国に、巫子は五人。なら、ヤヅキ君は、一体?
「そうそう、後でまた町に行くけど大丈夫かい?」
「え?」
「昨日はドタバタしてたから、偲祈に買ってもらったもんを全て置いてきちゃってね」
「あ、はい」
話をはぐらかされてしまった。
「それに、あちらにもいろいろ迷惑かけたしね」
「す、すみません」
ホシナさんの前で誘拐されてそのままこっちに戻って来たのだ。
ホシナさん達に要らない心配をかけたに違いない。
「謝らなくても大丈夫だよ。ぜんぶ、あのバカ神のせいなんだから」
「は、はぁ」
バ、バカ神……。
思わずキースさんの顔をまじまじと見てしまった。
神様相手に、そんな事を言えるなんて……。いや、思い返すと私もいろいろ言ってしまった気がするけど。
町に行くと、昨日と変わらず賑わっていた。
「うわ……」
いや、昨日よりも賑わっているかもしれない。
「大丈夫かい?」
「は、はい……あっ」
大きく人の波が揺れた。
強い力で押し流されかけて、思わず目を閉じる。
目を開けた時、すでにキースさんの姿は見えなかった。
ど、どうしよう。さっそく迷子に、なった?
「きゃあ」
また前に後ろに押されてもみくちゃにされる。
いつもの服や履物ならもうちょっと反応できるのにっ。
こう見えても、ちょっとした武術の心得はある。でも、なれない人ごみに何もできず、流されていく。
「っえ?」
その時、大きな手が私の手を引いた。そのまま、人が少ない方へと引っ張っていく。
誰だかわからないし、何処に行くのか分からないけど、とりあえずその手の持ち主に従った。
「……で、シエルが行方不明。と」
自分の呆れた声を聞き、自己嫌悪に陥る。
あんだけ人がいることは分かっていたのに、キースは何をしていたんだか。
前に居るのは疲れた様子のキース。隣には心配そうなホシナが居る。
キースがここに来たのはつい数分前のことだった。
なれない人ごみにもまれ、疲れた様子で店に入って来た、彼女。
昨日渡せなかった品物を取りに来たのかと思えば、シエルが行方不明になってしまったらしい。
「そうなんだよ。いろいろ目立つからすぐ見つかると思ったんだけどねぇ……偲祈、頼む」
「了解した」
偲祈がホシナに目くばすと、ホシナは無言で頷き奥の部屋に下がって行った。
ホシナは、腕はいい陰陽師だ。
だから、すぐにシエルの場所を見つけてくれるだろう。
「それにしても、彼女、厄介事を引き寄せそうだ」
昨日の彼女を見ての感想だ。
「もう引き寄せている気がするのは気のせいかね」
「どうだろうか」
最近のことについて少々話していると、ホシナが終わったのか隣の部屋から顔を出した。
「どうだった?」
「それが……何かに邪魔されて、きちんと見えないんです」
「どういうことだい」
「誰かが、私の術の邪魔をしています」
嫌な予感が的中したようだ。
「つまり、またなんかの厄介事に巻き込まれていると」




