くすりのりすくのそのに
なんとなく「くすりのりすく」の続きが書きたくなったので。
あたしは所謂「魔女」である。真の名は他人に明かしてはいけない。
普段あたしはばあちゃんやかあちゃんから教わった魔法薬を作り、
それを露店で売って生計を立てている。高額だけど売れるのよ。
魔法薬は一般の薬と違って、病気や傷に効果がある訳ではない。
その代わり、服用者に一風変わった効果を齎すものとなっている。
例えば「どんな不味いものでも美味しく食べられるようになる」、
「語尾が必ず『ですわ』と付くようになる」など意味不明のものだ。
教わった時は正直、作っても使う人いるのかいなと思ったんだけど、
世の中にはそういうものをピンポイントで探す人も結構多かった。
ちなみに「ですわ」薬は今までに十本以上売れている。
しかも全て違う人達にである。そして男性が圧倒的に多い。
何に使ったのか気にはなるが、興味を持てば何かに負けた気がする。
そういうのに比べれば、今回はかなりまともな部類だろう。
目の前のご婦人は「惚れ薬」と「媚薬」が欲しいのだそうな。
◆
なんでも、ご婦人には結婚して数年目の旦那様がいるそうだ。
しかし最近ごぶさ…げふんげふん、愛を営む回数が激減していると。
ここいらで一度どかんと溜め込んだものを吐き出しておきたい。
なので旦那様に一服盛ってやろう、とおっしゃておられます。
一応はお上品な言葉だったが。要約すればこんな感じだ。
あたしにとっては、というか魔女にとってはどちらも初歩の薬だ。
材料が揃えばよそ見しながらでも作れそうなものである。
しかし感情を左右するような魔法薬は使い方に注意が必要である。
間違った使い方をされると結構面倒な事になりかねない。
念には念を入れて、販売する前にご婦人へは丁寧に説明する。
「惚れ薬」は、飲んだ人が最初に見た相手に惚れる事を。
「媚薬」は、飲んだ人が見境なく異性を欲する事を。
故に使用する好機を間違えないように、と。
なにせ魔法薬はどれも効果がやたら強い。
しっかし、こう言っちゃなんだけどその旦那様おかしくないか?
ご婦人はぱっと見で二十代中盤、間違いなく美人の部類だろう。
すらりとしていながら出るところはきっちり主張しているし。
背が伸びたけど胸が慎ましやかなあたしと比べるのもアレだけど、
あたしが男性だったらこんな奥様一晩でも放っておかないぞ?
浮気とかもあるかもだが、これ以上の美人ってそういないと思う。
もしかして男性の一部機能に問題が生じてしまったとか、
あるいは女性に興味が持てなくなって同性に突っ走ったとか?
…いや、人様のご家庭の問題を邪推するのはやめておこう。
あたしは注文された魔法薬を、使い方の説明して売るだけだ。
◆
ある朝、露店を出す前に借りている部屋で新聞を読んで仰天した。
領主夫人が領主様を腹上死に追いやってしまったと。
ここの領主様は七十過ぎの御方だが、夫人は後妻で初婚だった。
普通はいやいや嫁がされたのかと考えるが、実は夫人のベタ惚れ。
幼少時からの憧れで、二十年越しの恋を実らせたんだそうな。
前領主夫人が亡くなったと同時に猛攻を仕掛けて後妻に入り、
成人した孫までいる相手に日夜求め続けていたらしい。
…カマキリかジョロウグモみたいな女性だ。
最近は年齢ゆえ落ち着いていたはずが、数日前から状況は一変し、
食事も摂らずに三日間休憩なしに励んだ挙句の惨劇だったと。
いやお年寄りに対して何やってんのよ…。
あのご婦人は名乗らなかったし、新聞にも姿絵は載っていないけど、
間違いなく魔法薬を買っていった相手はこれだろう。
そりゃ愛も営めませんわ。しかもぶっ通しとか。
あたしはただ魔法薬を売っただけだし、罪に問われないはずだけど。
さすがに気まずいので今からこの町を後にする。
今度からは使用する相手の年齢も聞かないとなー…。
ご婦人は「惚れ薬」と「媚薬」をブレンドして旦那様に投与。
混ぜるなめちゃくちゃ危険。




