床下のノックと爪の音
「わ〜、綺麗だね!!」
「そうだね」
娘の花凛と共に新しい家に引っ越してきた。
夫は浮気をしていてあちらは常識はあったみたいで養育費は出してくれるみたいだ。
そして愛人と楽しくしているみたいだ……。
「これはこっちですか?」
「あっ、はい」
引っ越し業者の方が冷蔵庫などの重い物を運んでくれている。
「あっ、これぬいぐるみ達の荷物だったよね!ママっ」
「あら、そうだったかしら?
じゃあ開けて見ましょうか」
業者さんからデカい割に軽い箱を受け取った。
この重さからしてそうだろう。
カッターを取り出して開ける。
その中には圧縮されているぬいぐるみ達が詰め込まれていた。
「この子達、元に戻るよね?」
「大丈夫よ、けどもう少し後で元に戻しましょうか。
ご近所に挨拶しに行かなきゃ、花凛も付いてきてくれる?」
「うん!!!!」
「すみませんが、行ってきます。」
引っ越し業者の人達に声を掛けてから、手見上げを持って花凛と手を繋いで部屋から出た。
『ピンポーン』
「初めまして、隣に引っ越してきた斎と…三田実です。こちら少しの物ですが……どうぞ」
「別に良いのに………。
あら、可愛いお子さんね!」
403号室のおばさんが花凛に声をかけると花凛は私の後ろに隠れてしまう。
―さっきまで大はしゃぎだったのに笑
「ちょっと待っててくれる?」
「?、はい…」
数分後、おばさんは戻って来た。
「じゃじゃ〜ん、これをあげるわ」
「そんなっ、悪いですよ!!」
「子供は可愛いんだから〜、あっアレルギーとか大丈夫?」
「それは大丈夫ですけど………」
花凛の方を見ると、目をキラキラにさせながらお菓子達を見て私に上目遣いをする。
―ちょっとぐらいなら、大丈夫かな?
「では、お言葉に甘えて……。
花凛、ありがとうは?」
「あっ、ありがとうございます!!!!!」
花凛は今日1の笑顔を見せながらお菓子達を受け取った。
「いつでも遊びに来てもいいからね」
「はい、ありがとうございます」
おばさんは中に入って行った。
花凛は凄く嬉しそうにお菓子達を抱きしめながら眺めている。
「お菓子、一旦置いてきましょうか?」
それに花凛はこくこくと頷く、お菓子の方をみながら………。
それに私は苦笑した。
『ピンポーン』
「誰?」
疑いながらに尋ねてくる。
「404号室に引っ越してきた三田実です。
少しですが…どうぞ」
「………わざわざ2個飛びの此処は良いのに……。
まぁ、ありがとうございます。では」
すぐに扉を閉められる。
因みに花凛は“家”でお菓子達を食べている。
そして、今のは401号室の人だ。
402号室は留守なのかインターフォンを押しても扉が開かなかったので別の日にすることにした。
「次は下の人かな……。」
エレベーターは面倒なので、階段で降りて304号室のインターフォンを押した。
「誰ですか?」
髪がボサボサで目が死んでいる40代程の男性が出てくる。
「404号室に引っ越してきた三田実です。
少しの物ですがどうぞ……。」
「………わざわざありがとうございます、では。」
401号室の人よりも早く扉を閉められる。
―花凛連れてこなくて良かった〜
酷い感想だがそう思った………。
最後に下の階の人にも挨拶をして手見上げを渡して家へと戻った。
その頃には殆ど片付けが終わっていて花凛は引っ越しの業者さんの1人と楽しく話している。
話していたのは大学生程の年の女の子だったので大丈夫だろう。
だが、花凛は私が姿を見せるとすぐに駆け寄ってきた。
「あぁ、すみません、退屈そうだったので」
「大丈夫です」
「ママ、今日此処に泊まるの?」
「それは明日から、今日はいつもの所で泊まりましょ?」
「うん!
その前に…さ、あの子達………。」
花凛は指を指す。
その先には圧縮されているぬいぐるみ達だった。
「もうちょっとだけ我慢出来るかな?」
それを聞くとちょっと悲しそうに花凛は頷いた。
――――――――――――――――――――――
「ただいま〜」
「おかえりなさい」
学校から帰ってきた花凛を玄関で出迎える。
あの後は業者さん達が帰ってから圧縮されているぬいぐるみ達を解き放って一体だけホテルに連れて行った。
そして今はそれから10日が過ぎた………。
『ドンドンドンドンっ』
「こっ、怖いよ………」
そして、1日前から下から床を叩かれている。
花凛は涙目で私にくっついてくる。
「大丈夫よ」
私も怖いが、そんな事は言っていられない。
私も怖がっているという事がバレないように花凛に言う。
少しすると落ち着いた。
始めてなった昨日も数分で収まった……。
きっと、あの人もストレスが溜まっているのだろう。
花凛には悪いが私も怖いし何も言わなかった………。
――――――――――――――――――――――
『ピンポーン、ピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーンピンポーン』
「誰ですか!?」
「うるさいんだよ!!
毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日床を叩きやがって!!」
訪ねてきたのは304号室の男だった。
その言葉を聞いて、私はキレてしまう。
「そっちこそっ、いつもいつもうちの床を叩いてどういうつもりですか!!
なんでいちいち天井を叩くんですか!!!」
「はぁ〜、そんなんいちいち高い天井叩く訳ねぇだろ。はぐらかすなよっ」
「そっちこそ、はぐらかさないでください。
流石にこれ以上は我慢出来ません!!」
「ママ………」
「あっ、花凛………」
―花凛の前で……怒ってしまった
(怒鳴ってしまった………)
「その子供が飛び跳ねてるんだろ!!
ちゃんと躾ろよっ」
「はぁー、この子は大人しい娘です。
飛び跳ねてもそこまで大きい音も出ません」
「じゃあ飛んでみろよ」
花凛はなんとなく状況が分かったのか、私から少し離れて飛んだ。
トンッと可愛らしい音がした。
「ほらこの娘には無理でしょう?」
「お前も飛んでみろよ」
「っ〜〜、分かりましたよ」
『パタァン』
「………………」
「………………ちょっとスリッパ脱いでやってみろ」
「……はい」
私は正直に男を家に入れて(玄関の扉は開けたまま)スリッパを脱いで廊下でジャンプした。
『ダン』
「やっぱりお前じゃない…」
此処で男の声が止まる。
それは無理もない、遮られたのだから……。
『ダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッダンッガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ』
それはずっと続いた。
ドンッドンッ以外にも新しくガリガリと音もした。
花凛はもう涙目とは行かずに静かに涙を流していて、304号室の男は呆気に取られていて、私は呆気に取られているが恐怖が勝って男を押し倒して花凛を抱いて家を出た……。
「貴方の部屋に、人は居ますか?」
「いないです………。」
もうお互い何が何だが分からなくなり、喧嘩していた熱も冷めて敬語になった。
「っ、ぅ、ぅえええええええええ」
そこではっとした。
花凛がいることに。
「大丈夫だよ、大丈夫、大丈夫」
抱いている花凛を宥める。
流石にあんな事があったのだ、304号室の男も何も言わなかった。
「………どうしましょう」
「先ずは管理人とかに相談だろう」
「そうですね」
花凛が泣き止んで寝てしまった。
因みにあれから30分が経って、マンションのエントランスにいる。
流石に花凛が嫌そうにしていたし、男はどうだがは知らないが私は嫌だとは思っていたので移動をした。
そうすると安心したのか花凛はすぐに眠ってしまったのだ。
「この時間帯っていますかね?」
「………いないな。電話してみるわ」
「分かりました」
304号室の男はズボンのポケットからスマホを出して電話し始めた。
「どうでしたか?」
「すぐに来てくれるってさ、1人とかじゃなくて2人からの要望だからな」
「……その、なんだ……、済まなかった」
「こちらこそ、そちらのせいにしてしまいましたし………。」
「後で…その事をにも謝らないとな……」
「私も……この娘に謝らないと、ですね」
「3人の幻聴じゃないですか?」
はぁと溜息をつきながら面倒臭そうにそのマンションの管理人が言う。
「本当ですよ!!下から叩かれるんです。」
「そうだよ。毎日毎日ね、聞こえるのっ」
管理人は無愛想に、そんなのは勘違いですよと言ってさろうとしたが……
「では、管理人さんも確かめて下さい。
そうすれば分かるはずです。」
「なんでわたしが………」
「管理人だからです」
「…………はぁぁ、分かりました」
そうして管理人と404号室の前まで来た。
「開けました、どうぞ」
「私一人で?」
―何かあった時の為にだれかが行った方がいいのかな?
此処は私達の家だし、私が………。
「では、行ってきます」
「えっ、いいんですか?
そんな………」
「大丈夫…だと思いたいですね。では。」
304号室の男と管理人が…404号室へと入って行った……。
「大丈夫かな?」
「……きっと大丈夫よ」
10分後………。
管理人が飛び出して来た、涙目で………。
「なっ、なななによ、あれ!!」
後ろからは、ドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッドンッと聞こえて来る。
殆ど一定リズムの音だ………。
「これで分かりました?」
部屋から出て来た304号室の男が扉を閉めながら言う。
その問い掛けに管理人はこくこくこくと凄い勢いで頷いていた。
服を引っ張られた。
下を見ると、私の服の裾をもって涙目で此方を見ている。
「大丈夫、もう音は聴こえないでしょう?」
私はしゃがんで花凛を抱きしてる。
花凛は私の服をもってコクリと頷いた。
其処から話しは進んで行き、あの後すぐに管理人さんは管理会社に連絡をして2日後に業者の人が来た。
床を外してくれる業者が………。
その間私と花凛はホテルで過ごして、304号室の男は違うホテルに泊まっていたらしい。
流石に怖かったようだ。
そして今は平日で、3040号室の男は仕事を休んで来た。「どうせいつも有休は最後に使うので一緒ですので」と言葉を添えて………。
平日なので花凛は小学校だ。
ご近所には予め言っておいた。(1日前に……)
私達は業者さんの仕事を見守った。
今日はまだ、下から叩かれていない。
業者さんはリビングの壁際に大型のバールを突き立て、全体重をかけた。
『バリバリバリ……ッ!』
私と304号室の男、そして管理人さんの3人は固唾を飲み緊張しながら床が剥がれるのを見ていた。
『バキバキバキッ!……ゴバァッ!!』
二重床の、二重床目の床に大きな穴が開いた。
「なんだこれ?」
業者さんの背中で穴が開いた、という事しか分からないが業者さんが妙は事を言った。
「あの、此処を開けた事ってありますか?」
管理人さんが首を振る。
「此処10年ぐらいはありません。」
「じゃあこれなんだ?
ちょっと来てみて下さい、心当たりありませんか?」
私は震える足で業者さんの横に言った。
穴の中には、何かの袋があった。
長細くて、ちょっと膨らんでいる袋が………。
「こんなのっ、知りません…。」
「前の住人の方、とかですかね?
けど此処を開けて戻すだなんて………。
取り敢えず開けてみますか!!」
業者さんは手を伸ばして、袋のフックを手に持って動かした。
だが、フックを動かした途端異臭がした。
「こんな臭い、初めてだ!」
業者さんは気負うことなくフックを動かした。
私は袋とは反対側を向いた…嫌な予感がしたからだ……。
「ぅ、うわっ」
ドンッいつも聞いていた音とは少し違う音が隣でなった。
少し横目で見ると、業者さんが尻もちを付いていた。
顔をあげていくと、業者さんは凄い形相で固まって震えている。
管理人さんと304号室の男、2人共穴の中を覗いていて固まっている。
そして、この家には異臭が行き届いている。
私も穴の方を見た。
あの音は何だったのか、知りたかったからだ。
「ヒュッ」
それは、自分の喉から出た声とも言えない音だった。
私は固まった。
いや、固まるしかなかった。
固まって…震えるしかなかった。
人は、本当に恐怖を感じた時は声も出ないし動けないモノだから………。
目の前に広がる原型が殆どない、ドロドロした何かと骨が見えている人間の形をした何かを見たのだから……それは恐怖でしかないだろう。
――――――――――――――――――――――
1番最初に動いたのは、業者さんだった。
この家から走って逃げたのだ。
そしてそれに私達も体の自由を少しだけ取り戻して家から出た。
それで、304号室の男が警察に連絡をし、警察が来た。
私達は事情聴取の為に警察へと行く事になった。
途中で花凛を拾って……………。
――――――――――――――――――――――
「この方をご存知ですか?」
1人の刑事さんから写真を見せられる。
20代後半ぐらいの女性だった。
綺麗でサラサラとしていそうなストレートヘアーで、耳には星のピアスかイヤリングをしている。
笑顔で此方を見ていて、その瞳を良く見ると男の人が映っていた。
どちらも……
「知りません。」
知らない人だ。
刑事さんは304号室の男の方を向いた。
男の顔は、悩んでいる顔をしていた。
刑事さんはその顔を見て、期待している顔をしている。
「多分、三田実さんの前に住んでいた404号室の交際相手……だったと思います。
定かではありませんが……」
「前の404号室の人はこの人ですか?」
上着のポケットから、さっきと同じ大きさの写真を刑事さんは出す。
女の人の瞳に映っていた人に少し似ていた。
「その人です、引っ越した時に挨拶しに行った時に印象が悪かったので良く覚えています。」
「ご協力、感謝いたしました。瀬田、お送りしろ」
「はい!!」
刑事さんは部屋から出て行った。
もう1人いる刑事さんに着いてきて下さいと言われたので付いて行った。
「あっ、お母さんっ!!」
「花凛っ!」
1つの部屋の扉を刑事さんが開けると、花凛が飛び付いてきた。
「ねぇ、なんでけいさつしょに来てるの?
私達悪い事しちゃったの?」
うるうると泣きそうな目で見つめてくる。
扉の向こうからは楽しそうな声が聞こえていたが、緊張が解けたのだろうか。
「家にね、野良猫さんがいたの。
ドンッドンッとかガリガリって聞こえてたでしょ?」
それに花凛は頷く。
「その野良猫さんが“助け”を求めてたんだけど、奥にいて中々助けられてないの。
だからしばらくホテルに泊まろうか。」
「…猫さん、大丈夫かな?」
「きっと大丈夫だよ、野良猫さんを助けようとしてるのはプロの人達だから!!」
花凛は頷いて、早く行こと私を急かしてくる。
私は花凛の手を握って、花凛と遊んでいたであろうお姉さんに一礼をした。
「お姉さん、ばいばい」
「ばいば〜い、花凛ちゃん」
「前と一緒のホテル?」
「そこは部屋が埋まっていたから違う所だよ」
「楽しみ〜!!」
手を繋いでいる花凛は、本当に楽しみそうに夜なのに深夜テンションだった。
「ここが新しいおうち?」
「そうだよ〜」
家の下から遺体が発見されてから1カ月、新しい家に引っ越して来た。
ちなみに、犯人は捕まったらしい。
前の家の主だった404号室の人がやったそうだ。
花凛には猫は見つかったけどなんで猫が入れたのかを調査したり修繕したりしないといけないから引っ越すという嘘をついた。
これが本当だとしたら、普通に修繕が終わればまた住めるのだが………。
304号室の男は引っ越さないらしい。
20年も暮らしているらしいので、引っ越たくないそうだ。
それにもう叩かれる音はしなくなったらしい。
ただ、1つ問題があるとすれば誰が叩いていたのか。
私達があの部屋に引っ越して来た時にはもう亡くなっていたらしい。
聴いた話だと、元404号室に住んでいた男は遺体となっていた女の人と婚約者だったそうだ。
殺した理由が愛人が出来ていて、女の人にバレたが親にバレたくなくて殺したらしい。
女の人は…半年もの間行方不明だったそうだ。
―愛人……………。
私も…私達も、一歩間違えてたら死んでたのかな…?
目の前ではぬいぐるみとおままごとを楽しそうにしている花鈴がいる。
住んでいる所は変わったが、花鈴が通う学校に変わりはない。
友達が出来たと喜んでいたので、学校は変わらない所にした。
私的に手続きとか面倒かったのもあるが……第一の理由はそうだ。
私は座っている椅子に、更にもたれた。
恋人関係や夫婦関係は一気に崩れてしまう。
不倫、家庭内暴力、性的暴行などで。
1回やると信用が出来なくなって崩壊して行く。
親にバレたくなかったから婚約者だった人を殺した。
この事はもう報道されていて、ネットでは色々な言葉が並んでいた。
『不倫してさらに殺すなんて酷い』
『話し合いで解決しようとしないのが意味わからん』
『これだから他人は信じられない』
『隠す為に殺したのにそれが見つかったら意味ないだろ』
『最低だな』
『不倫するなら婚約なんてしなかったら良かったのに』
『不倫みたいリスクする必要ないだろ』
『不倫して更に殺すなんて親不孝過ぎる』
『被害者も不倫が分かったんならなんでもっと早く連絡しなかったんだろ?』
『住んでた人トラウマもんだろうな』
―なんであんな事言うんだろ………
この人達は関係がない、一切。
それなのに言う。刃を出す。刃で人を刺す。
『話し合いでの解決』
―そんなものが出来たなら苦労はしないよ
『もっと早く連絡すべき』
―そんなの人それぞれ事情があるじゃん
『これだから他人は信じられない』
―世の中には優しい人だって必ずいるはずだよ
『婚約なんてしなかったら良かったのに』
―その時は好きだったのかも知れないじゃん……。
その時、は………。
人は飽き性だ。
やる事が一緒だったら飽きるし、毎日同じ食べ物だったら飽きるし、その人が飽きたのかも知れない。
人は……勝手な生き物なのだ。
このコメント達も勝手だ。
事情も知らないのにずけずけと批判のコメントばっか。
そういう私も勝手だ。
そういうコメント達に批判しているのだから。
そしてもう1つ勝手に思っている事がある。
―幸美さんが叩いてたのかな?……
幸美さんとは遺体で見つかった人だ。
床を叩いていたのはその幸美さんだと勝手ながらにそう思っている。
それが[見つけて]なのか[助けて]なのか[復讐して]なのか[復讐させて]なのか……。
それは分からないが……私には見つけてと思えた。
本当に自分も勝手だ。
―トラウマもの………。
確かにトラウマものだ。
過ごしていた床の下に遺体があったのだから。
その遺体と私達が暮らしていた板が叩かれていたのだから……。
だが、事件を知っても其処まで怖いとは不思議と思わなかった。
幸美さんは私達を襲おうとはして来なかったからだ。
もしかしたら出られなくて襲って来なかったのかも知れない。
だが、音は業者さんが来てくれた時には止んでいた。
床に音を響かせた時に酷く叩かれていたのは[見つけて][出して]なのだと思った。
「ママもやろっ」
花凛に腕を掴まれた。
花凛は遺体の事なんて知らずに笑顔で過ごしている。
「良いよ」
「ママは私のママねっ」
「おままごとじゃないじゃない笑」
「ママはずっと私のママだから!!」
(この娘には、来る時になったら話そう。
来る時が来なかったら一生話さないでおこう。
花凛の為に…………。)
――――――――――――――――――――――
[見つけてくれて………ありがとう]
その優しく穏やかな声は、花凛にも私…心良にも届いてはいない。
だが彼女は確かに言ったのだ、ありがとうと。
例え、向けた本人達に届いてなくても………。
この人は304号室の人にも大家さんにも業者さんにも警察の方にもお礼を言った。
だが、残念な事に誰にもその言葉は届いていない。
それでも幸美は言えたという事だけで良かった。
良かったのだ。




