第17話 作戦名、ヒコウ
大乱闘の参戦者増加という、状況の劣悪化。
対抗策を頼りに俺は頭を巡らせてーー、至る。頬の汗が顎の端から垂れ落ちたとき、考えが閃いた。
「作戦は、『ヒコウ』だ! 飛んで行動する『飛行』に、飛んで攻撃する『飛攻』だ!」
『うーっしうしうしっ! このスーパー知的お姉さんに任せときなさぁーいっ!』
声を張るや否や、躙り寄り、先んじて仕掛けたものを撃つばかりの状況を変化させる。
前者は魔導具の少女たちで、後者はぬいぐるみの魔獣、『獣魔縫包』。
中には魔導具の少女たちが、『獣魔縫包』を攻撃したり、『獣魔縫包』も魔導具の少女を襲ったりした。
後者は流石に見過ごせず、視認できる限りで援護した。
が、それが魔導具の少女たちの反感を買い、彼女らどうしの戦いに発展させたことも。
事態の収拾をとも思ったが、それはマフォルに確かめられる。
『そいつぁー骨折り損ってやつさ。止めれば君が彼女らの標的になる』
「そ、そうだけど、それがなんだよ……」
『なんだよーじゃないよ! 今一番されたらまずいのは、彼女ら全員で君を捕えることを目標にされることだよ。そうされたら、私ばっかりじゃカバーできない。もう、ヴェノちゃんもシュリちゃんも手を貸してくれないんだっ! いや、まぁ……君の頼みなら、どうだろうか……ともかくっ! 今は逃げることっ! それ最優先事項っ!』
言い分はわかった。確かに劣勢に立たされれば、勝ち目はなくなる。
だが、納得はいってない。
この状況から脱したいわけで、争いを止めたくないわけではない。
が、マフォルから一方的に会話を終わらされた以上、ごねられなかった。
今が戦闘中であることを加味しても、ごねたところで戦いが対話へと変わらないのだ。
心を鬼にして攻撃を続け、『獣魔縫包』の攻撃を止め、魔導具少女たちの仲間内の攻撃を見過ごした。
その中で見えた光明。それをすぐさま実行し、地を蹴り上げ、空を飛ぶ俺を両者共に見送るしかできなかった。
「はぁッ!」
「うっ!」
「やッ!」
『ギガァッ!?』
新たに手にした、空中戦法。
特に必要な体制もなく、地面に立つように立ち、地面を走るように走り、地面にいたときと同じくして『魔力』の放出で敵を頭上から攻撃。
手も足も出させず、一方的に攻撃を命中させる状況から名案だったとも思う。
目に見える光景からは、少しやり過ぎて可哀想にも思えた。
お人よしと言われるような甘い考えだとわかっている。
だが、どうにもこの考えを押さえつけられない。
目の前にいるのが、少女とぬいぐるみであり、可愛い者とモノを攻撃しているのもあるのだろう。
どうにか、前者だけでも攻撃ではない、無力化の方法はないか。
「ーーぁ! マフォルっ! 『魔力』をっ! 使ってっ! 拘束っ! できるかっ!?」
『んーっとんとんと……一応できなくもないけど、ずっと捕えられはしないよ……っ!』
「十分っ! えーっと……次っ! 次でいくよっ!」
手当たり次第に拳を振るって『魔力』を放しながら、タイミングを見計らい合図を送る俺。
それに従い、『魔力』に変化が生じた。半透明な色彩が濃くなり、透明感がやや無くなった矢が射出された。
「ーーっ! 動……けないっ!?」
魔導具の一人に命中した矢先が形を変え、ドーナッツ状に銅の周りを囲う。
そして、転んだ地面にも付着し、固定することで身動きを防ぐ。
「よしっ! その調子でどんどん頼むよ、マフォルっ! あぁ、でも! 『獣魔縫包』には、通常の『魔力弾』でっ!」
『ちょぉーっとちょっとちょっと! 注文多いよっ! そんな器用に分けられないんだから通常の魔力で追撃するからそれでいいでしょっ!? てか、勝手に名前つけたねっ!? 『スーパーマーボルト』ってかっこいい名前があるんだよっ!』
「え、えぇ……スーパー知的って言っておいて、その知的なお姉さんがつけた名前かそれがぁっ!? もう、どっちでもいいけどさぁ……っ!」
マフォルは俺の指示の難解さに難色を示し、俺は彼女のネーミングセンスに文句を言った。
相変わらずのやり取りを繰り広げながら、連携はうまく機能して、少女たちには拘束を、獣魔たちには攻撃していく。
このまま、徐々に戦いの場から離れられたらーー、
『ギャヴァアアアッ!』
「っ!? 後ろっ……ていうか、飛べるのかよっ!」
『鳥獣種だっ! 飛べたって不思議じゃないっ!』
虚を突かれたが鳴き声から即座に反応し、なんとか攻撃は受けなかった。
視線を巡らせれば、ほかにも翼を持った獣魔であり、ぬいぐるみたちが散見できた。
そしてそのどれもが、小さく愛らしい翼を動かして、見た目とは裏腹に、猛然としたスピードで空を翔るのだ。
「くっ! 空は安全だと思ったんだけどなぁっ! ーーづぁっ!?」
詰められた距離感に苦しめられながら、なんとか食らいついてきた俺の背後を、ついに何者かが攻撃を命中させた。
鋭い痛みは、かろうじて既視感がある。
魚の骨が喉の奥に突き刺さり、嚥下のたびに引っかかる感覚。あれの何千倍にも強めた痛みに思えた。
振り返ると視界の端になんとか取られられた獲物の一部。
それは簡易的な雫めいた輪郭で形成された銀色の針であり、白く細く、長い糸に繋がれている。
「ごめんだよ。……シュペーア。痛いだろう。痛いはずなんだ。だけど、お願いだよ。お願いだから、帰ってくるんだっ!」
糸の先には棒状の柄。
それを握るのは、黒に近い銀色で前髪も後ろ髪も針同様に曲がり、上に跳ねている癖毛の少女。
半袖の袖なしのシャツと半ズボンという開放的な装いに、それによって際立つ発育の良い体系の女性。
言動は幼く、体型は大人びた少女が、俺を別人の名前で呼び、戻ってくるよう叫んでいた。
おそらく釣り道具である釣り竿の擬人少女であり、シュペーアはその子の創造主だろう。
もはや恒例だなぁと思い、シュペーアが取り逃した、いや、取って逃した獲物は大層な大きさなんて、心のなかで舌打ちを打つ。
もはや人違いに見舞われることにも、寛容になってきたかなんて成長を噛み締めたいが、今ではない。
「早く、こっちへ、来るんだだだぁっ!」
「うぉっ! おおおおっ!?」
身を突き刺し、引っ掛けられた針で釣り上げられている状況下にする考えではなかった。
『ギャギャギャギャギャッ!』
『ギジギジギジギジッ!』
『ギゲゲゲゲッ!』
後ろから聞こえる獣魔の声が大きい。
違和感を覚えた俺は振り返り、目の前まで近づいてきた『獣魔縫包』と、その数に驚く。
「うわっ!? ちょっとっ! 『獣魔縫包』まで釣っちゃっているんですけどっ!?」
「だぁ、だどでどでぇっ! うだぁあああっ!」
「うぉあああああっ!?」
素っ頓狂で、独特な驚き方であろうことか俺ごと釣り竿を振り回した。
四、五匹着いてきて襲い掛かろうとした獣魔は、突如左右に振り回された俺に対応できず、
「ぶっ!?」
『ギャヴッ!?』
「ばっ!」
『ギャパァッ!』
「うぁあああっ!」
『ギゲッ!?』
「はぁ……はぁ……っ! あっ! ごめんだよっ! 振り回しちゃったんだっ!」
「何もっ、かも遅いわっ! その謝罪ッ!」
『獣魔縫包』を俺の体で蹂躙したのちに、自身の行いに気づき、釣り竿を振り回す手を止めた少女。
打ち払い、地面に叩きつけ、しつこいぐらいに追い討ちした後にだ。
その頃には、襲ってきていた獣魔は動かなくなり、俺の体もボロボロになっている。
頬や手足のところどころに擦り傷や出血があり、それを身に宿したマフォルが言わずして治して行く。
『全く、フイーシヤは一度焦れば周りが見えなくなっちゃうからなぁ。困った子だよ本当に』
「全員、君にだけは言われたくないと思うぞ、マフォル」
あの釣り竿の少女にため息をこぼすマフォル。
だが、俺としてはあの子のドジはまだ可愛い方で、思わずその胸の内を、口の外に出してしまった。
『はぁーっはぁはぁっ!? 私のどこが困ったちゃんなんですかぁーっ?』
ホイッスルを大きく鳴らすかのごとく怒るマフォルに、俺はやらかしたと頭を抱えて考える。
正直、どう返答しても彼女の怒りを静められない。これは確定事項だ。
顔は見えないが、きっと真っ赤に染めており、声音には普段の軽快さはなく、怒りの勢いが声量として込められていた。
常に自信を兼ね備えた彼女を言い負かすのは至難の技。
だが、謝るのはどこか違う。間違いを認めるみたいで、気が進まない。
なら、言い合うことはせずに、話し合いを断ち切ればいい。
それを、さっきのマフォルから知ったのだ。
他の策を示した、俺を意思を止めたように。
「そういうところだよ……あぁ、もうはいっ! この話終わりっ! まずはフイーシヤ? って子をどうにかしようっ!」
『もぉ……もぉもぉ! それ卑怯だよ……』
「君が言う?」
言い足りない物言いだが、俺はどの口がと小言をこぼし、目の前の少女を視線を向ける。
あわあわと視線を泳がせながらも、俺から一切目を離さない。
おそらく、俺の怪我を心配してのことだろうが、同時に絶対に逃さない意思が俺には感じられた。
同時に両手でしっかりと握られた釣り竿がそれを物語っている。
試しと、俺はゆっくりと立ち上がり、視線をそのままに釣り糸へと手を伸ばす。
「ぁっ! うぅっ!」」
「ーーッ!? いってぇ……っ!」
俺の行動に許容できないと、彼女は呻き、六色半透明な力を竿に流す。
すると手に触れていた針が突如火花をあげ、焼ける痛みと針が刺さる痛みが俺を襲う。
「あ、当たり前だよっ! 私はシュペーアに帰ってきていって言ったんだっ! だのに、まだどこかへ行こうとするんだっ! これはそのお仕置きだよっ!」
なんて、フイーシヤからお叱りを受けるが、俺は聞く耳を持たない。なにせーー、
「ーーっ! 俺はシュペーアじゃないんだけどな……っ!」
ようやく、赤の他人による誤認の弊害を再認識し、俺は今一度釣り針を引っ張ってみる。
その度にあの痛みが迫る奔流と共に全身を迸り、俺の口の端から黒い煙が燻った。
「これ、どうにかできる……っ?」
俺は釣り針から手を離し、口元に添え、ぼそりと呟く小声を隠す。
『やれるとも。だからちょっとタンマ、タンマ。ええっと、使われている『力』は水色と薄白で……いや、違ーっう違う違う……使われているのは、他にもあるな……っ!』
「こういうところはカッコよくて、信用できるんだよね……っ!」
『……っ! 人が必死なときに、嬉しいこと言ってくれちゃってぇ……っ!』
マフォルは俺を静止させ、なにやらブツブツと言いながら、相手の『魔力』の解析に入った。
内容はなんとなくわかる。つまり、なんとなくでしかわからない。
だが、信頼はできると、彼女を力付けるためにここぞとばかりに褒める。
ありきたりな言葉だが、彼女は嬉しかったようでそれが『魔力』の昂りで感じられた。
「だ、だぁあああもぉおおっ! 言っただろっ! どっか行こうなんてやめるんだって! それでも行こうとするんだっ! だったら、釣り師の極意っ! 絶対釣り上げの必殺技をッ!」
無駄な抵抗に地団駄を踏み怒るフイーシヤ。
両手に込められた力がより一層強まり、今この瞬間にまたあの力が放たれようとしていた。
いや、次はおそらくもっと強い。相手である俺を卒倒させる力を使ってくるだろう。
『解析完了ッ! 水色、薄白、焦茶だッ! 今引っ張ってッ!』
だが、その直前に、マフォルからの合図を受けた。
全身を翔け巡り、全身から放たれる力が鼓動めいた音を立てて、渦を巻く動きが感じられる。
謎めく実感に惹かれつつ、俺はすぐさま釣り針に手を取り、引っ張った。
ーー痛み。それは針にあった鋭利な箇所が身体の肉を引っ張り裂いた痛み。
「ーーしっ! 間に合ったっ!」
そしてそれは、釣り針を取っ払った痛みだと、俺は喜ぶ。
フイーシヤは失敗の事実に面くらい、俺はその隙を逃さず、拳を突き出す。
目の鼻の先にいて、拳までも触れそうな距離で振るわれた攻撃だ。
気づこうとも間に合わない距離で、何一つさせず俺は彼女を拘束させた。
「うしっ! 次はーーっ!」
一つの苦難から脱した。だが、まだまだ『獣魔縫包』も魔導具少女たちもいる。
気は抜けないと振り返ったときだった。
「おヤおヤおヤ……怖イね。落チ着ケ? 話ガ必要ダろ?」
背後、よりももっと後ろで、ぼそりと呟かれた重く低く、暗く苦しげな声。
その瞬間、俺の精神も、肉体も、何もかもが恐怖した。
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