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第13話 私の彼であり、貴方の彼であり。


                   ★ ☆ ★ ☆


「さぁー……ってさてさて……どうしたものかなぁ……?」


 一人の少女が顔を片手で覆いながら、考えを巡らせていた。

 今後の動きを悩んでいるのは、その少女、マフォルが自らが侵してしまった失態が原因だった。


 早い話、話に夢中で大切な人を誘拐されてしまったという、凡というには程度を超えたミスだった。


「まぁーったく、自分の警戒心の無さはよくカエルムに叱られたっけか……へーっへっへ……いかんいかんっ!」


 懐かしいひと時が脳裏に浮かび頬が緩むが、マフォルは首を振って掻き消し、だらしない表情を両手で叩いて整えた。


「兎にも角にも、まずはカエ……ニーゴ君を探そう」


 マフォルは目標を再認識する、が、大きくため息をつき、引き締めた顔を緩めて、肩を落とす。


「その、ニーゴ君がどこにいるか、さぁーっぱりわかんないんだよぉお……っ!」


 彼女の最大の失敗。それは、奪われた新居吾がどこへ行ったのか、誰が奪ったのかを視認できなかったのだ。


「一旦お城に行って、みんなに強力してもらうかなぁ?」


 城の中には擬似化する道具たち、いわゆる魔導具たちは沢山いる。

 助けを求めれば、何名かは協力をしてくれるだろう。かーー? 本当に。


「い、やぁ……っいやいや……協力はしてもらえないだろうなぁ……っ 帰ってきた新居吾の困った体質は……」


『人違い』。だと、新居吾は言っていた。


 私にはどう見てもカエルムに見えるし、どう考えてもカエルムだし、声も行動も、見た目もカエルムそのものだ。


 だが、それすらも体質なのだと、彼は言う。

 なにを言っているのかさっぱりわからないが、他の子達もそうなのだろう。


 そんな状況下で助けてなんて言っても、そんなことよりも、自身の最愛の人との再会が先だと、聞く耳を持ってくれないはずだ。


「しーっかも、私、嫌われてるんだよねぇ……」


 彼との会話中も、周囲からの視線が鋭かった。 

 彼が皆にとって最愛の人に見えてしまう、体質なのもその原因だったはずだ。


 だが、それだけではない理由がある。

 最愛の人にベタベタしているのが、私であるのが最も問題なのだ。


 私は『魔力』。魔導具の生命力とは別の、道具本来の使い道が力のなった元たる存在。


 つまりは、最愛の人との出会いに、一枚噛んでいる。

 包み隠さず言うのであれば、彼女たちが最愛の人と出会っているよりも先に、その人に出会っている。


「人で言う、好きな人を先に関係を持っているビッチってやつなのさぁ……私はぁ……っ」


 自身の在り方に、ため息をこぼし目尻に涙を浮かべる。

 だが、最も悲しいのは、それを否定できない自分がいた。


 なぜなら、紫色の少女が叫んでいた名前は、聞き覚えがある、知り合いの名前だ。


 彼の顔や姿、最初に出会ったときのリアクションと、今まで交わした会話や、好みや曲げられないものまで知っている。


 だからこそ、私は彼女らと彼との橋渡し。果たしたつもりだ。

 けれど、馴れ馴れしくしすぎた。嫌われたって当然だ。


「でぇーっもでもでも! 私は諦めないっ! 助けがないのなら、助けなしでやるっきゃないっ! 頑張るぞぉーっ! 私ぃーっ!」


 お得意の元気を持って、悲しい今に蓋をする。

 今できること、それを探して、今なければならないことを、必ずやしてみせる。

 拳を掲げて決意の揺らぎを抑え、強固にする。新居吾との再会という悲願を。

  

 ーーだが、そのときだ。

 

「うがっ!?」


 掲げた拳が途中でなにさ固く、妙な音と立てるものに堰き止められた。

 骨身に締める痛みは、同じ人の身を叩いているようでーー、


「お前……お前お前ッ! 人の大切な奴を奪ってきただけに飽き足らず、ついには暴力暴行をしてきやがったか……ッ!」


「え、あ、わぁあーっわあわあっ! ヴィノレエナちゃんっ!?」


 いや、叩いていた。私はヴィノレエナの下顎を深々と叩いて掬い上げていた。


 緑と紫の恐怖を掻き立てる二つの目が、より一層恐く鋭くこちらを細められた。


「ちがぁーっう違う違うっ! 私はヴィノレエナをぶん殴りたかったんじゃないよっ! 私はただ」


「知ってるわっ、あんたに敵意害意が一切合切ないことくらいっ! ただ、私がティアラの野郎に『王権』で飛ばされて、そこにあんたの拳があったってだけ……全く、嫌がらせが姑息すぎるんだよ」


「へ、へぇ……そんなことがあったんだ……ていうか、なんでティアラが『王権』を?」


 どうやら、一悶着があってここに強制移動されたようだ。

 だが、ヴィノレエナともあろう『魔剣』が、ティアラともあろう『冠』と関わったのは妙だ。


 普段であるのなら、関わることなど限りなく少ない。関わらないと言っていいほどに。

 だが、今の私に絶対にと断言できない。関わる例外が脳裏に浮かんでいた。


「もしかして、ヴィノレエナはあったの? ニー……ギョークにっ!」


 私はヴィノレエナに新居吾がいたのか、と問いかけた。

 だが、その名前では望んだ答えは得られず、誰よりも鋭く恐ろしい目を光らせてしまう。


 幸いにも、彼女にも通用する、いわゆる共通名を思い出し、『ギョーク』という名で問いかけた。

 

 彼もまた、髪を二色に分け、二つの目は常に鋭く睨んでいた。


 いつも元気でテンションの高かったカエルムとは、とても似ても似つかわしくない。

 けれど、カエルムに似た新居吾を見比べてみると、瓜二つのようによく似ている。


「ーーん、あれ?」


 自分の中に巡る思考に、私が自ら疑問を抱く。


 新居吾は私のカエルムによく似ている。だが、カエルムとギョークは似ても似つかない。


 だというのに、ギョークと新居吾はよく似ている。と今でも思える。


 だが、この思考はおかしい。

 新居吾とカエルムが、そして、新居吾とギョークが似ているのなら、カエルムとギョークも似ていて然るべきだ。


 だというのに、思い返してみても、二人の共通項を見つけ出せない。

 髪色と身長は不思議と一緒だったけど、言動、行動、思想など、なにもかもが違っている。

 

 まるで、別人。そう思って疑わない自分がいるのだ。


 変だ。だが、いくら考え直しても、この考えに行き着いてしまう。


「おーいっ! 聞いてんのかっ!? 返答応答しろよっ! バカマフォルッ!」


「え? あぁ! ごめんごめん。えぇーっとえとえと、それで?」


「聞いてねぇのかよっ! ……もっかい言うぞ。ギョークはいた。だが、もうすぐ城にはいなくなるだろう」


「えぇっ!? な、なんでっ!?」


「また説明ッ! 解説ッ! しなきゃならんのかよォッ!」


 ギョークに見られた新居吾の存在を過去形にし、今はいないと断言するヴィノレエナに私は目を見開き、顔を近づけた。


 だが、対する彼女は驚きの表情に怯みもせず、こちらを睨み凄む。

 結果として、私の方が恐怖で後退り、遠ざかってしまう。


 だが、考え事で聞こえていなかったのは、事実だ。


 感情や言い回しでこれが覆るわけじゃない。返って面倒なことになる事態だって想起できる。


 故に私は顔の前で両手を合わせ、言葉にせず頼み倒すしかなかった。

 ヴィノレエナは怒りや恨みに、呆れのような感情を眼差しに込めて、深く、深くため息をつく。


「もう一度だけだぞ。ギョークは今、最後の王様、バジェと見間違えられて、今度こそ王様を守る実力力量があるものを見定める、『王の武器決定戦』が執り行われるそうだ。だからギョークは後に闘技場に行くだろう。本意不本意関わりなくな」


「確かに……今の王女様同然のティアラちゃんは、なかなか強気な子だからね」


「濁さず誤魔化さずに言えよ。ヒステリックだって」


 ヴィノレエナの情け容赦のない評価に、私は苦い顔をする。だが、否定はできない。

 彼女の経緯もさることながら、今の彼女はなかなかに荒れていた。


 気に入らないこと、自身の意図とは違うことが一つでもあれば、硬い性質を利用し、拳を四方八方振り回してくる。


 彼女以上の硬さを持つものはなかなかおらず、あの城のものたちはどこかしら壊れている。


 あの城に近づこうとしないものもいるが、至って自然な判断だろう。


「うーっむうむうむ……っ! 近場にいてくれて助かったけど、どうやって会いに行くかだよね……いっそ参加者として優勝、狙っちゃうっ!?」


「狙えるわけねぇだろ。そもそも私もあんたも参加資格ないはずだ。あんたは目の前で攫われて、私は攫おうとして撃退された性質だ。真っ直ぐ実直に行って、はいどうぞで入れてもらえるわけがない」


「あぁ……確かにね……」


 私のさっぱりとした考えに、致命的な指摘を入れるヴィノレエナ。

 確かに私たちは参加できない。その理由も彼女に納得させられた。


 できる限り荒波を立てずに合流したかったが仕方ない。


 そもそも合流できても、ヴィノレエナとも問題になるし、他の少女たちとも問題になるだろう。


 今の彼は、もう、私の知り、私の最愛の『彼』ではない。皆の最愛の『彼』であるのだ。

 合流できたら、全てが丸く収まる問題ではない。


 のなら、どうすれば解決できる問題なのか。


「今のニーゴ君の『人違い』は、どうにかできるものじゃない……」


 再三、彼はその問題に苦しんでいた。

 万が一に解決できるなら、彼は手を打ってあるはず。


 であれば、その『人違い』の問題を残したまま、合流し、彼女らを振り切る策だ。

 逃避するにはどうすればいいか。


 侵入、合流、そして、逃亡。それらが無策で上手く行くはずもない。

 

 なにか策をと、おでこに手を置き考えるが、先に首の下から込み上げてきた熱さにやられた。


 顔を赤く染める熱で体がくるくると回り、回転が止まった頃には熱も引いていてーー、


「ならさ、こうしようよ。相手がなにを言っても私たちは参加者だって入る」


「いや、だから絶対確実に入れてもらえないんだって」


「入れてもらわずに、入ればいいんだよぉーっ!」


「入れてもらわずに……っ?」


 そう、彼女は辞めたのだ。

 考えることではない。誤魔化すことを。


「さっきあなたに言った言葉、あれ嘘だから」


「は?」


「あなたもギョークに会ったのかって聞いたけど、実際に会ったのはカエ……ニーゴ君だから」


「いや、ニーゴって誰だよ。私も知ってて会ってるみたいに」


「そう! あなたが会ったのはギョークじゃないっ! ニーゴ君なんだよっ!」


「はぁっ!?」


 ついに、私はヴィノレエナに、彼女自身が見たのはギョークではないと、新居吾であると伝えた。


 無論、信じてもらえないだろうと思っていて、想像した通り、聞いた言葉に憤慨するように彼女は声を張り上げた。

 

 だが、私はこの主張をやめない。

 たとえ間違っていたとしても、もう言い切ってしまえと決めたのだ。


「だから、私はニーゴ君に会いに行く! あなたは?」


「勝手なこと言って抜かすなっ! あれはギョークだっ! 私がすることなすことなど決まってるっ! ギョークに会うこと! それ以外にないっ!」


「なぁーっらならならっ! 話は決まりっ!」


「はぁ……っ!?」


 目的を発し、剣幕をより鋭くするヴィノレエナに、私は手を叩いて静止、強制的に話を畳む。


「私たちは強制参加。闘技場が熱気に包まれてる最中に破壊して戦いに乱入し、私はニーゴ君を、君はギョークと再開を求め戦う。オーケー?」


 紆余曲折はあったが、互いの目的を合わせて、互いに大切な人の合流方法を伝える。

 目を瞬かせて、表情再び険しくさせるヴィノレエナ。


「やっぱり、お前の言ってることはわからねぇよ。あいつはギョークにしか見えねえ。ニーゴなんだと言われてもな……」


 やはり、納得がいかない様子を見せるが、天を仰いだ彼女が地を見つめてため息をつくと、


「……だから、そんな説明せず最初からそういえ馬鹿阿呆。それなら文句ねぇっつうの」


「ひーっひっひっひっ!」


 目的に賛同してもらえて、私は不適な笑みを浮かべた。これが、あの戦いの乱入の全てだ。

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