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第12話 囚われし偽物の王の武器決定戦


「さぁさぁさぁさぁっ! 皆のものご注目っ! 白熱した『王の武器決定戦』も、ついに決勝戦となりましたっ! 最後まで、大いに盛り上げていきましょうっ!」


 ーー城の背後には、円状の闘技場が負けずとも劣らない大きさと広さで聳え立っていた。


 赤茶色がよく似合うレンガで積み上げられた、円状の壁に仕切られた中に、もう一つの円を作るように、無数の観客席が中心から広がっていた。

 

 元いた世界では、壁に沿うように観客席が並べられているが、ここではその逆、中心の観客席が逆さに向けたお椀のように並んでいるのだ。


 観客席と壁の間にある輪状の戦闘場は、力の六色に染まった砂が敷き詰められていた。

 

 そこで俺は、多くのモノたちの激闘を見た。


 剣、槍、鉾、銃、籠手、砲台、杖、鎌、刀。

 

 あらゆるモノでできた少女たちが、俺と見間違えた誰かのためとその名を呼んで、戦っていた。


 時折、目があった少女たちが、ウインクをしたり、手を振ったりと思い思いの愛情表現を示してくる。


 その度に胸が雑巾みたく絞られる思いをする。 

 加えて、中心で頂点に位置する特等席にて、隣で座るティアラに握られた腕もギチギチと爪を立てられる。


 精神と肉体が同時に悲鳴をあげてきて、俺はもう限界だった。

 涙目になりながら必死に終わることを祈るしかできない。


 もはや、ティアラから与えられた『宝蜜飴』の味なんて忘れてしまった。

 今はただ、喉の奥が渇き切った痛みと不快感しか感じない。


 お前までもが俺を苛ませるのかと、恨みを募らせる。

 

「ご紹介いたしますっ! 赤の武器っ! 『王槍シュリレカ』ッ! 人類滅亡のそのときまで、王を守る兵士の元で守り続けた槍っ! それが今日、再び現れた最後の王、バジェを守る槍となれるかァッ!?」


 壁の両扉が開かれて、あの槍の少女が現れる。

 その少女の紹介をする実況者、俺とティアラの一つ前の席で立ち、喉に手を添えて声を張り上げる少女の言葉に、俺は静かに驚く。


 黒の瞳に、黒の髪、黒の男装衣服に、黒の丸ぶちメガネの少女が、言い放ったのだ。


 この異世界から気づいていた異変。

 自分以外に人間が居ないという異変に、可能性は思い浮かんでいた。


 だが、この街にいる道具の擬人化少女たちに明言されたことで、その残酷な事実となってしまった。


 人間はすでに滅亡していて、そんな異世界に俺は召喚されたという事実が、証明されたのだ。


 思考を巡るなぜという疑問と、あり得そうな可能性。

 

 不治の病。未曾有の大災害。人類の戦争や紛争。もしくは、魔獣や他種族によって滅ぼされたのか。


 だが、答えは見えず複雑な心境に、顔を曇らせながら、下向く先で行われる戦いを眺めるしかなかった。


「青の武器っ! 『賢杖エトレム』ッ! かつては大賢者ニェーボの相棒として、いくたもの魔法を開発、発動させて、世界を進歩させてきた杖っ! 今度こそは王の杖として、『巡りゆくノヴァヤ・イグラ』を対抗する魔法を生み出すのかァッ!?」


「めぐりゆく、なんだって……?」


 次に紹介され、左手を高く掲げ、逆の手を胸元に置きながら天を仰ぐ少女。

 茶色の髪に、前髪は中央分けにして、後ろ髪は三つ編みならぬ渦巻き編みをして、麻紐で毛先をくくっている。


 目はぱっちりで、癖なのか、口も半開きの不思議な子だと印象を抱いた。


 身長も体重も平均的で、黒い布を巻きつけて、腕を通る穴を開けたようなもの。

 あまりに大胆さが目立つ黒い衣服だが、時折、青にも赤に見える光が唐突に現れ、不規則な軌跡を描いて消えていく。


 全身でも不思議を具現化させるような少女だが、俺の注目はやはり彼女を紹介する実況者へと向いた。

 

 皆の常識の如く、未知なる名称に悩む俺。


 巡りゆく、まではわかる。

 何度となく起きてきた出来事は、観客を沸き立たせる実況から災害だと言えるだろう。


 人類を滅ぼし、擬人化する道具たちが震撼するほどの災害だ。


 だが、災害の名前である四文字が、どうも災いのスケールや詳細を予想できない。


 のゔぁや、いぐら?


「ううん……頭の中で何度も重ねても、どんな災害だったのか、想像できねぇ」


 人が滅亡し、モノたちは次があった。

 つまり、命あるものたちから、命ないモノに命が転用される災害なのだろうか。


 となれば、人類の滅亡も、道具の存続も納得がいく。人がいない街にも頷ける話だ。


「ねぇーえねぇーえ! バジェはどっちが勝って欲しい?」

 

「いッツ!?」


 と、ここまで巡らせた思考が、隣に座るティアラの質問に遮られる。

 だが、実際は、彼女が何の気無しに腕を引っ張ったのが原因だ。


 腕の肉か腱かが、ミチミチと千切れた音が聞こえた。


 今までの経験から幻聴だとは見過ごせず、反射的に思考を遮断した。

 本能的な危機感知とも言えるほどの速度で、言葉を考えーー、


「そ、そうだねぇ、ティアラ。俺としては、さっき助けてもらったシュリレカかーー」


「違う……?」


 口が素早く動き、適切だと高速回転で脳が導いた問いを発するが、彼女の無表情に急停止。


 小さな呟きに、小首を傾げる仕草。


 あのときの訝しむ姿が重なってきて、頭はすぐさま言動の訂正を行う。


「い、いやぁ! 俺としてはどちらにしても、自信を守ってくれるのだから嬉しい限りだよっ! ティアラ! けど、負けた側はその望みを叶えられないのは、少しかわいそうだと、思うな……俺、は……」


「ーーそーだよねぇーっ! いやぁーいやぁーやっぱりバジェは優しいねぇ優しいねぇ。ナデナデするぅ。後でナデナデしてぇ」


 次の言葉は間違いではなかったようで、ティアラのご機嫌を取り戻し、なぜか頭を撫でられ褒められた。


「わ、わー……い、ありがと……う、ティアラ。わかった……お返しでするねぇ……」


 嬉しさなど指先程度。感情の大半は安堵と、頭の頭頂部で感じる謎の高熱への苦しみだ。


 だが、彼女の要望も聞き漏らさなかった俺は、お返しと彼女の頭に手を置き、左右に動かす。


「むっふふふふっ……」


 彼女の笑みは今まで以上に惚けたものになり、火すら起こせそうな愛撫は止まった。

 どうやら、一難が去ったようだ。


「ーーちっ!」


「ひっ!?」


 下の観客席から一斉に大音量の舌打ちが聞こえた。だが、俺が恐怖するだけでティアラは気にも止めずにニマニマしていた。


 一難去ってまた一難とは、昔の人はよく言ったものだ。

 このようなシチュエーションがあったのだろうか。いや、あってたまるか。


 別人の愛情や嫉妬を差し向けられ、一挙手一投足で一方からは好かれ、別の一方からは嫌悪をされるなど。


 あったと宣うなら教えろ。

 経験則から得た対抗策を。


 今の俺は極限を超えた罪悪感に、心臓が裂けて飛び散りそうなんだ。

 そうなれば、口や目から、血を吐いて死んでしまうだろう。


 だが、それすら楽になれるかもしれないと思えてしまう俺は、もはや末期だろうか。だろうな。


「さぁ! 決闘ッ! 開始ィツ!」


 実況者の言葉に、戦いが始まった。

 鏡合わせのように立っていた二人が、合図を受けて走り出す。

 

 槍であるシュリレカは左へ、杖であるエトレムは右へ。


 双方反対方向に進むが故か、距離は縮まらない。


 どちらが攻め込んでいるのか、どちらが逃げているのかわからない状況下だったが、すぐに変化が生じる。


「ーーはッ!」


 短く声を発し、シュリレカは地を蹴ったと同時に元の姿、槍へと戻る。

 走っていた勢いが乗った槍は、一人でに空を切り裂きながら突き進んでゆく。


 だが、このままでは弧を描く壁に激突ーー、

 

「な、ぁ!?」


 する、と不安を抱いた俺を裏切る、槍の軌跡。

 壁に激突するよりも早く、緩やかな放物を描いて、槍が進んでいったのだ。


 周囲の驚愕に、エトレムは振り返り、背後の光景に驚く。

 そして、彼女は自身の宿敵が背後まで迫ってきていると思い知った。


「くっ……」


 してやられたと、声を漏らしながらも、エトレムは決断したのか、逃走する足を止めた。

 シュリレカの方へ振り向いたと同時に、拳を向けて口から息を吸いーー、


「『魔法・橙』」


 魔法を唱えた。

 

 拳が橙色に染まり、開いた手のひらから、手のひらサイズの渦巻く奔流が放出される。


 ゴウと、空気を唸らす流れと、近づくたびに感じるひりつく痛み。


「炎、かっ!」


 俺の思考をシュリレカが言い当て、彼女の槍は空中で旋回しつつ、その奔流へ突撃してゆく。


 回転による、炎たりえる力の流れを掻き消そうと橙色の力の渦へと突っ込んだ。


「残念。魔法使いの思う壺だよ」


 水色に染まった矛先が触れた途端、槍の先が渦に固定された。

 予想外の出来事に俺は目を見張り、槍からも声を張り上げる。


「な、なんで……っ?」


「魔法が息をしていた時は常に、最速最短最強の三拍子を求められていた。だが、魔法使いの中には、こういうやり口で戦うものもいるのさ。火みたいな熱を持ち、火みたいな音を立てて、火みたいな渦で放たれた氷を生成する魔法。仕組みは『カレイキャク』? ってやつらしいけど、ともかく、視覚や聴覚、感覚で惑わされちゃダメだよ?」


「ーーっ! クソッ……が……」


 動きを止められたシュリレカだが、槍は一向に動きを見せない。

 彼女らしくない口の荒さから、どうにか抵抗を試みてはいるが、一切動けないようだ。


「あぁ、君君。今と水色の力で抜け出そうとしているだろう? 言ったじゃないか。視覚や聴覚、感覚で惑わされちゃダメだよって」


「ーーっ! 先の魔法の、色すらも……っ」


「当たり前じゃないか。杖は魔法発動し、魔玉から魔法の光を放ってしまう。それを魔法使いが対策しない理由があるかい? 同職のみならず、他の者すらそれを頼りに戦いを有利に進めるというのに」


「『橙』」


「今更無駄無駄。君は今まで、水色の力を使い続けた。同色効果ってのを、知らない?」


「……同じ色の力をぶつければとき、勝る力は劣る力を吸収し、より強力な力と化す」


「正解正解。だから君は弱い力でも対極の色で力を分散させる反色効果を利用してるんだろうけどさぁ」


 魔法の知識でシュリレカとエトレムに叩かれながら、俺の知的好奇心は満たされゆく。

 だが、先の一件もあり、シュリレカの勝利を密かに望んでいたからか、彼女の危機に奥歯を鳴らしてしまう。


 まずい、このままでは、やられてしまうと。


「許しておくれ。私の主、ニェーボが今見てくれているのだ。だから、この一撃で終幕終了と行こうか」


 拳を突き上げた彼女が見せたのは、光なき漆黒の菱形を形作る奔流。

 だが、シュリレカはすでに動けず、対抗しうる手立てももはや無い。


「ほざけ……彼は、我が創造者にして、最初で最後の私の適材者、ファランギ、だ……」


 エトレムの言葉を否定するしか、なかったのだ。


 だが、エトレムは鼻を鳴らし、その激流に拳を振るって、発動指示。

 ゆっくりと、だが今、シュリレカに漆黒の力が触れてーー、


「どっかぁああああーっん!!」


 シュリレカもろとも、付近の壁が爆ぜて、周囲が土色の煙に包まれた。


 もはや、漆黒の力など関係ない。

 全員その煙に咳き込み、なにが起きたかわからず、目の前でなにが起きているかも視認できずにいた。


 だからこそ、一刻に煙が晴れない状況に対応が遅れる。


「ーーっ! みんな、速く『薄白』の力を振るって煙を晴らしてっ!」


 ティアラの指示が飛ぶまで、周囲の擬人化少女たちは動けずにいた。だが、俺もまた動けずにいる。


「やぁーっやぁやぁっ! ニーゴ君っ! お待たせしちゃったね。心細かったろう? 君は常に忘れられずにいた、スーパー知的お姉さんが助けに来たよっ!」


「あ、あぁ……うん。ありがとう。マフォル」


 俺を担ぎ、相変わらず独特な言い回しで、見透かしたような言動をするマフォル。


 俺は、彼女のされるがままになった。

 本当は周囲の急展開に揉まれ、その名前すら頭の片隅に出てこなかったなんて、言えなかった。

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