9話
中川 輝之
お化け屋敷って、言うのは簡単だけど、実際準備するとなったら大変だ。まずは教室内に設定するルートを考えなきゃいけない。その後は、何処にどんな仕掛けを用意するのかを考える。
正直に言おう。俺は面倒臭いのだ。文化祭が嫌だとか、お化け屋敷をしたくないとか、そういう事じゃない。そういう事じゃないんだけど、バスケ部の活動は普通にあるわけで、ほんのちょっとだけ手伝いが出来れば、あとはみんなに自由にやってもらいたい。お化け屋敷、行った事もないからよくわかんねーし。
取り敢えず、誰が言ったか分かんないけど、誰かが八尺様の格好をする事になった。詳しく知らないけど、背が高い女の幽霊みたいなやつらしい。
「ちょっと待って!何でみんな私の事見てんのよ!?」
増田がクラスの大衆圧力に抵抗している。
「まっすーが1番背が高い女子じゃん。」
「コスプレなんだから、男子でもいいでしょうが!中川君がやります!」
「嫌だよ!巻き込むな!広澤がやれ!」
「何でだよ!俺、坊主だから!」
「ウィッグとか被るから関係ねーよ!」
「はいはいー、増田と誰がやるんだー。」
担任の須藤先生が、場を整理する。
「何で私は確定なんですか先生!?」
とはいえ確かに、文化祭中ずっと増田が八尺様をやり続けるのは可哀想だ。
「はい、中川君が八尺様でいいと思う人ー?」
増田がいきなりアンケートを取り始めた。クラスのほとんどの皆が手を挙げやがった。
「お前らふざけんなよ!」
「はい、では八尺様は中川と増田で。」
そう言いながら、文化祭委員の本田がメモを取った。
「いいじゃんいいじゃん中川君!きっと似合うよ、八尺様!」
「嬉しくねーんだよ!」
「中川君、手足も長いし、まっすーより八尺様似合うんじゃない?」
「私、それは何か悔しいんですけど。」
まあいいよ。八尺様やるんだから、それまでの準備は多少任せていいだろう。当日コスプレすんだから。俺も、そこまで空気が読めない男じゃない。文化祭委員の本田と野口さんを中心に、お化け屋敷制作委員会が結成された。ようはやる気があって、クリエイティブな人材がそこに集まったってこと。
「じゃあ皆さん、部活動で忙しい人もいると思いますが、年に1度の文化祭です。みんなで連携して、協力し合い、最高のお化け屋敷にしましょう!」
野口さんの締めの言葉で、拍手が巻き起こった。
「B組何すんだっけ?文化祭。」
ストレッチをしながら、笹木が聞いてきた。
「お化け屋敷。E組は?」
「脱出ゲーム。」
「すげーじゃん。面白そう。」
「そうか?だけど、脱出ゲーム好きの1部の女子達は盛り上がってるわ。」
「当日絶対行くよ。」
「おお、よろ。」
ウォーミングアップのシュート練習が始まる。皆がそれぞれボールを持って、自由にシュートを打ち始める。今日はスリーポイントシュートがいい感じに入るな。
ふと視線を感じた。体育館の入り口付近に男女のペアが立っている。女子の方は眼鏡を掛けている。見た事ないな。男子の方は⋯泉屋だ。何してんだアイツは。しかも、どう見ても俺の事を見ている。なんだなんだおいおい。
「なあ、入口の2人、中川の事見てねーか?」
先輩から声を掛けられる。
「あ、やっぱりそう思います?」
ちょっとだけシュート練習を抜けて、泉屋の所へ向かう。
「何してんだよ。」
「お疲れ中川。」
「うん。だから何してんの?」
中川の隣にいる眼鏡女子が、俺の事をじーっと見つめてくる。何だこの人は。
「見てたんだよ、お前の事を。」
「気味がわりーな。」
「こちら、3年の尾崎先輩。映研の部長。」
「こんにちは。尾崎です。」
「あ、どーも。」
映研。増田と高梨をメインに据えて恋愛映画を撮ろうとしている事は知っている。面白いに決まっているので、当然文化祭での上映を楽しみにしている。
「尾崎先輩、どうですか?」
「中川君のクラスって、ほんと揃ってるわね。」
この人は何を言ってるんだ?
「中川、話がある。」
嫌な予感がする。
「俺、部活中だから。」
「中川。」
「お化け屋敷、八尺様もやるし。」
「中川、頼む。」
いやいやいや止めろってマジで。
「お前は背が高い。」
「イケメンさんですよね。よく言われませんか?」
尾崎って人が、無表情で褒めてくる。
「ピッタリなんだ。」
「何だ、ピッタリって。」
「まもなく撮影が始まる。頼む、助けてくれ。」
「待て待て待て。それは、出ろって言ってんの!?映画に!?」
「映研を助けてくれませんか?」
さっきからなんなんだこの眼鏡の人!
「無理だし嫌だ!悪いけど俺は⋯。」
映研からやって来た2人の刺客の後ろから、土屋先生が現れた。何してんだという目をしている。そりゃそうだ、練習サボってこんな所でお喋りしてんだから。
「練習戻るからな俺⋯!」
「土屋先生。」
尾崎さんが土屋先生に話し掛けた。マジかよ!?
「尾崎か。体育館で何やってんだ?」
土屋先生は尾崎さんの事を知っているようだった。後から聞いた話によると、土屋先生は尾崎さんのクラスの担任だったらしい。尾崎さんはゴニョゴニョと小声で土屋先生と話し込んでいる。体育館に響き渡る様々な音のせいで、何を話しているのか全く分からない。ただ、尾崎さんも土屋先生も、俺の事をずーっと見てくる。
「中川。」
土屋先生に呼ばれた。
「はいっ。」
土屋先生は怖い。怒られんのか俺?いやいや!どうして怒られなきゃいけないんだよ!
「尾崎から話は聞いた。映画研究部の撮影に協力する事を許可する。」
「はい?」
普段だったら、土屋先生にこんな返事は出来ない。でも、思わず出てしまった。
「だから許可するって言ってんだよ。」
「ありがとうございます、土屋先生。」
「ありがとうございます。」
映研2人が頭を下げた。
「待って下さい先生⋯!お、俺には何の話かさっぱりです。映研の映画に出るなんて話、俺はしてませんし、そもそも出るつもりなんてないんです!」
「映研困ってるらしいぞ。顧問の遠山先生も、部員が頑張ってるみたいだから、何とか力を貸してやりたいと言っていた。別に毎日撮影がある訳じゃないんだし、せっかくの文化祭なんだから協力してやればいいじゃないか。バスケ部だって、直近で大きな大会も無いんだし。駄目なのか?」
土屋先生は、至極真っ当な責め方をしてきた。えっ、俺が悪いの?絶対違くない?どうやら土屋先生、昔から映画が好きなんだそうだ。
「ということで、中川にも映画に出てもらう事になりました。」
泉屋がそう報告すると、俺の周りにいる奴らがおおーっと拍手をした。教室にいるクラス全員が、中川が映研の映画出るらしいよという視線を送ってくる。
「そうかそうか中川君!黒歴史製造隊へようこそ!八尺様同士、カメラに黒歴史を残そうじゃないか!」
「うるせえ!」
増田がとんでもなく嬉しそうだ。
「よく出る気になったね、中川君。」
篠宮が増田の机に座りながら、ニヤニヤしている。その隣いる畠中もウケるウケると爆笑している。
「出る気になってねえよ!映研の2人が土屋先生を上手く操ったんだ!」
「まあいいじゃん。俺は嬉しいよ?」
「俺は嬉しくないんだよ高梨。」
映研は今、せっせと撮影準備をしているらしく、1週間後にクランクインの予定らしい。
「そろそろ出演者の皆さんにはセリフを覚えたり、芝居の練習をしてもらいたい。」
泉屋の顔は、いたって真面目だ。手段を選ばない策士め!
「今日の放課後は、ここで練習をするぞ。増田、高梨。」
「マジですか監督。」
増田がゾッとしている。
「練習するの!?実際にやってみるってこと!?」
「その通り。ド素人から素人くらいにはなってもらわないと。」




