8話
畠中 彩菜
ああそうかそうか!そうだったのか!私の目はなんて節穴なんだ!何で気が付かなかったんだ!こんなにいつも一緒にいるっていうのに!私は我慢出来ず、思わず椅子から飛び上がってしまった。落ち着くことが出来なくて、教室をウロウロと徘徊する。
しのぴーも高梨君の事が好きなのか!何てこった!高梨君!君は凄いよ!私の大好きな友達2人のハートを射止めたってことでしょ!?モテ男じゃん!凄いよ、あんたが大将だ!
「何よ!恥ずかしいんですけど!」
しのぴーが声を上げる。
「いやごめん。そうなんだーと思って。ついテンションが上がっちゃった。」
「⋯名前言ってないけど。」
「言ったようなもんじゃんか!」
私は落ち着いて自分の座席に戻った。
「そっかそっか。そうなんだ。ありがとう、教えてくれて。」
「⋯だから名前言ってない。」
「高梨雄介君でしょ?」
「フルネームで言うな!」
しのぴーが右手で私の顔面に優しくパンチしてきた。
「まあそりゃ分かるよ。分かる分かる。カッコ良いよね、高梨君。優しいし。」
「⋯冷静に分析しないでくれ⋯吐きそうになる。」
「何で!?」
ああなるほど、分かったぞ。まっすーと高梨君が映画でイチャコラするから、何か複雑な気持ちになってるんだな。それにまっすーは背が高い。だから、なんか余計にコンプレックスを感じてるって訳か。
うーむ、これは難しい⋯難しいですよこれは⋯。勿論しのぴーの事は応援したい。だけど、まっすーも高梨君の事が好きだ(確認してないけどほぼ確)。で、高梨君も、もしかしたらまっすーの事が好きかもしれない。まあ全部私の推測だけども。だけど、もしそうなら、しのぴーは分が悪い。何でこう恋愛ってのは⋯
「難しいのかねぇ。」
「何がよ。」
しまった、思わず声に出しちゃった。
「いや、これは失礼。色々理解したのよ。なるなる。」
「⋯理解?」
「嫌なんでしょ。映研の映画。」
しのぴーはバツが悪そうな顔をした。ほら、やっぱり。
「嫌じゃないよ。嫌じゃないけど⋯なんか⋯複雑っていうか。」
「うんうん。」
「最初聞いた時は見たかったよ?来佳美の演技とか超見たいし。でも、なんか⋯話聞いてたらさ。」
「そうねー、キスシーンがあるかもだもんねー。演技とはいえ、意中の人がイチャコラしてんの見んのはイヤだよね。」
「⋯彩菜は全部言うね。」
「全部正解?」
「悔しいけど、そーだな。うん、今言われて確信した。そーだよ、その通りだ。」
しのぴーはスッキリした顔になった。
「あと、さらに問題というかさ。」
「うん、何?」
「来佳美も高梨君の事が好きかもしんないんだよねー。最近、気が付いたんだけど。」
ああ〜それには気が付いてるのかあ⋯!
「それは⋯そうかもね。」
「彩菜も気付いてた?」
「うん。何となく。」
これは言ってもいいよね。
「でも分かんないよ?まっすーに直接聞いた訳じゃないし。あくまでそう見える、って話だから。ほら、まっすーって男子相手でも普通にアホみたいに話すから。」
「来佳美ってさ、黙ってりゃ美人じゃん。」
「それはそうね。いつもは馬鹿っぽいけど。」
「来佳美がライバルなら、私に勝ち目なんてないよね。」
「そんな事はない。」
真っ先に否定する。本当にそんな事は無い。
「しのぴーも可愛いよ。小動物みたいだし。何より、おっぱいもある。」
「おっぱいは来佳美にもある。てか、あいつの方がデカい。」
「とにかく私が言いたいのは!諦めるにはまだ早いだろって事よ!高梨君の気持ちがあるでしょうが!」
「高梨君って彼女いないかな。」
「た、多分いないんじゃない。」
ごめんしのぴー、それは分かんないわ。
しのぴーは、誰にも言うなよと私に念を押しながら、美術室へと戻って行った。いやあ、可愛かったな、しのぴー。なんかもう、たまらんよね。私は勝手に1人で悶えながら、長いトイレ休憩から部室に舞い戻った。軽音部は、今みんな文化祭に向けて練習してるって感じだ。ウチの軽音部はショボいので、ドラムセットが1組しか存在しない。だからバンド事に時間を決めて、交代交代で練習する。私がふらーっと部室に戻って来ると、丁度私達のバンドが練習する時間だった。
慎太郎がワクワクした顔をしている。なんと、ついに慎太郎オリジナルソング『To The Sky』が完成したらしい。これまで慎太郎は、本当に曲を作っているのか分からなかった。だって何にも言わないんだもん。ところがどっこい、コソコソと本当に作っていたらしい。なんてこった。これからその曲と歌詞を菊池ちゃんと堀之内君と一緒に確認する事になった。
『AFTER LIFE』のメンバーが集合して、床に座る。慎太郎は持参したノートパソコンを開いた。
「えー、出来ました。『To The Sky』。」
本当にダサいタイトルだ。何度聞いてもダサい。
「まあ取り敢えずメロディ打ち込んだから、聞いてくれ。」
そう言うと慎太郎は、紙ペラ1枚を用意し、それを私に渡した。ノートパソコンからメロディが流れる。私と菊池ちゃんと堀之内君は、紙に書かれた歌詞を見ながら、『To The Sky』のメロディに耳を傾けた。
『明日なんか分からない』
『未来なんか分からない』
『自分なんかもっと分からない』
『だけど、走ってナンボだろ?』
『ちっちぇ翼を広げたら』
『俺達行くんだ To The Sky』
曲が終わるまでは、取り敢えず3人とも黙って聞いた。20点くらいのメロディだと予想していたけど、実際は45点くらいのメロディだった。正直、驚いた。賛否はあれど、一応それっぽくなっている。だけど、歌詞はやっぱりちょっとダサい。慎太郎のセンスが悪い意味で光っている。
「どうよ。」
慎太郎が腕を組みながら、意見を求めてきた。
「この『走ってナンボだろ』の歌詞は、ダサいと思います。」
菊池ちゃんが珍しく、慎太郎をぶった斬った。
「そうか。」
慎太郎は素直に意見を受け入れている。
「ちょっと全体的に歌詞が、古臭いと言うか、恥ずかしいかも。令和の歌とは思えない歌詞してる。」
堀之内君が、すごい太刀を放った。
「そうかそうか。歌詞はさ、自分でもどうなんだろうとは思ってたんだ。」
堀之内君の意見も、慎太郎はちゃんと飲み込んでいるみたいだった。
「で、彩菜は?」
「え?」
「どうだった?俺の曲。」
「⋯思ってたよりも、酷くない。」
「そうか。」
「ただ歌詞は、2人が言ったみたいにダサい。菊池ちゃんが歌うんだよ?もう少しこう⋯全部を変えなくても、言い回しとかは変えた方がいいと思う。」
「分かった。」
なんだこの空気。
「直したい部分はありますけど、私はいいですよ。この曲やっても。」
菊池ちゃんが先陣を切った。
「俺もやってもいいよ。せっかく慎太郎が作ったんだったら。ここからブラッシュアップしていくならの話だけど。」
堀之内君も菊池ちゃんに乗っかった。
「俺が作ったけど、ここからはみんなの意見を取り入れたりして、良くしていきたんだ。」
なんか3人が団結し始めた。
「⋯私もいいよ。みんながいいなら。」
私がそう言うと、慎太郎は嬉しそうな笑顔を作った。悔しいけど、慎太郎の笑顔が私は好きだ。これでも一応、彼女なんでね。
「だけど、やっぱりタイトルは変えない?」
「そこは譲れない。」
そこは駄目なんかいTo The Sky!
慎太郎と2人で帰ってる途中、何となく聞いてみた。
「ねえ、そもそも何でいきなり曲つくろーとか思った訳?これまでそんな事して来なかったじゃん。」
「んー、どうせバンド組んでんなら、1回くらいオリジナル楽曲を人前でやりたいじゃん。下手くそでも何でもいいから。」
「受験となんか関係ある?」
そう、慎太郎は受験生。こう見えてコイツ、勉強はちゃんとやってるみたいだ。
「関係⋯無い⋯と思う。」
「何それ。」
「とにかく俺は軽音部で、最後にやり切ったっていう証みたいなのが欲しいんだよ。そんだけ。」
証、ねぇ。私は別に深く考えずに毎日を生きている。受験のことだって、まだ全然考えてない。慎太郎は意外と人生について色々考えているのかもしれない。とまあ、そんな事を思っていると、いきなり慎太郎に手を握られた。
「なに急に!」
「なんかそういう雰囲気かなって。」
「いや、絶好違うでしょ。」
と言いながらも、私は俗に言う、恋人つなぎをしてあげた。文化祭、どうなるか分かんないけど、まあなんかやってみますか。
ぐあああ!そういえばああ!まっすー!しのぴー!高梨君!映研!どうしよう!いや、どうもできないんだけども!




