表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/28

27話

増田ますだ 来佳美こよみ



図書室に入った瞬間、私達は床に伏せた。中川君達がこっちに来いー!って大声を上げている。そんな!中川君!先生達の走る音が過ぎ去っていく。どうしよう⋯中川君達がおとりに⋯私のせいだ。


「大丈夫ですか?」


「あ、はい。えっと⋯。」


「菊池です。」


「菊池さん。ありがとう。さっきも駆け寄ってくれて。」


「いいえ、いいんです。足怪我してるんですよね?」


「そうなんです。」


私と菊池さんは図書室の中を見渡した。見た所、誰もいないみたい。私と菊池さんは移動して、図書室の1番端に座り込んだ。ここが1番安全だ。


「彩、大丈夫かな。」


「本当に。あやちゃん、無事だといいけど。」


山崎先輩や高梨君と一緒ならきっと大丈夫。私はそう思うことにした。


「高梨君もいるから⋯大丈夫だと思う。」


「高梨君⋯高梨ですか?」


菊池さんの声色がちょっと変わった。


「高梨って、菊池さんは高梨君と友達?」


「友達というか⋯中学校が同じなんです。」


「へー、そうなんだ。」


「彼、変わってません?」


「えっ、そう?」


そう言われても、私にはよく分からなかった。でも、そう言われて興味が湧いてしまった。


「どう変わってたの?」


「よく叫んでましたよ。『この世界はフィクションだー』とか『みんな目を覚ませー』とか。」


本当に私の知ってる高梨君の話なの?それ。私は驚きを隠せなくて、反応に困ってしまった。


「へ、へー。」


「高校に入ってからは、1度も同じクラスになった事ないから分かんないですけど、かなり落ち着いたみたいですね、高梨。ぱっと見は別人みたい⋯。」


「ほ、本当に高梨君の話?それ。」


「そうですよ。あー、これ言わない方が良かったかな。ごめんなさい、聞かなかった事にして下さい。ほら、黒歴史は誰にでもありますから。」


菊池さんは申し訳なさそうに、苦笑いを浮かべた。聞かなかった事に出来ないよそれ!何それ!高梨君!『この世界はフィクション』?何だいそりゃあ。


「あ、でもこれだけ話したいな。」


「何?」


「高梨の母親、相当変わってるらしいですよ。中学の時の三者面談で⋯。」


ギイッッッ


図書室の扉が開いた。私と菊池さんは、すぐに黙り込んだ。体を出来る限り伏せて、入口の方をチラッと見てみる。中川君達じゃない。あやちゃん達でも、先生達でも、しのっちでも⋯しのっち!大丈夫かなあ⋯。


図書室に入って来たのは、見知らぬ人達だった。それも5人いる。全員頭から足下まで黒い格好をしている。まるで魔法使いみたいな、そんな感じ。誰だあの人達。


「ここにいるはず。」


先頭に立っている人が喋った。声色的に女性だ。どうしよう⋯出ていくべきかな。


「どうします?」


菊池さんが小声で話し掛けてきた。


「誰だっ!?」


先頭の人がいきなり大声で叫んだ。その人は右手をパーにして私達のいる方向に向けた。すると、なんと私達の体が宙に浮かび上がった!しかも動けない!何これ何これ何これ!?


その人が右手を左に振ると、私と菊池さんは吹き飛んで、その人達の前に転がり落ちた。痛い!数メートルは吹っ飛んだよ!マジック!?いや、超能力!?


「まだ生徒は残っていて当然か。」


この人、怖い人だ。私はすぐにそう感じた。


「あの⋯私達は⋯。」


私がそう話し掛けると、先頭の女性と目が合った。すると、その人は驚いたような顔をした。


「あなた!あなたは!増田来佳美さん!」


何で私のフルネームを知ってるの!?菊池さんが思わず怪しそうな目で、私の顔を見てくる。いや、菊池さん!私は関係ないよ!?


「えっと、あの⋯。」


「増田さんでしょう!?」


「あ、あの⋯はい。そうです。」


「やっぱり!ごめんなさいねぇ手荒なマネをしてしまって!息子がいつもお世話になっておりますぅ。」


どうやらこの人は、私の知り合いの母親だという事が確定した。


「は⋯はあ。」


「あの、息子は何処に?」


「む、息子?」


「あっ、えっと、高梨雄介です。」


高梨雄介。その名前を聞いて、私は放心状態になってしまった。この人⋯高梨君の⋯お母さん!?


ギイッとまた図書室の扉が開いた。


「ちょっと母さん!」


高梨君だ!高梨君がやって来た!黒い服の人達の前にやって来て、私に話し掛けてきた先頭の人に話し掛ける。


「何やってんの!」


「ごめん、だって連絡つかなくなっちゃったから。探すしかないじゃない。それにほら⋯。」


私と目線が合う。


「雄介がいつも話してくれてた増田さんと会えたのよ!こんな偶然ある!?」


めっちゃ喜んている。どうやら、この人は本当に高梨君のお母さんみたいだ。


「増田さん、大丈夫?」


「大丈夫。」


「良かった。あれ、菊池。」


「高梨⋯。」


「母さん、この人はもういいや。いらない。」


「あら、そう。分かった。」


そう言うと高梨君のお母さんは、いきなり菊池さんに近付くと、彼女の頭をガシッと掴んだ。そして口を大きく開けて、炎を吐き出した。それそれは凄い炎だ。火炎放射だよ火炎放射。菊池さんの、耳が張り裂けそうな叫び声が轟く。私は動く事が出来ず、ただ菊池さんの頭部が焼け焦げてい様を見ていた。ほん数秒で、高梨君のお母さんは火炎放射を止めた。菊池さんの頭部は、黒いボールみたいになっていた。バタリと菊池さんが倒れた瞬間、私は悲鳴を上げた。


「いゃぁあぁぁぁぁぁぁあああああっ!」


「そうだよね、増田さん落ち着いて。母さん!もっと違うやり方があるでしょ!」


「ごめんねぇ、これが手っ取り早くて。」


「なっ⋯なんで⋯なんでっ⋯!」


「増田さん落ち着いて。」


「落ち着ける訳ないじゃん!」


私は高梨君に大声を上げた。


「大声は止めてくれる?お願いだから。」


「きっ、菊池さんがっ⋯。」


「彼女はしょうがない。諦めて。ほら、もう死んでるよ。」


高梨君⋯高梨君⋯なの?本当に。


「一体⋯どういう事?」


「まあそうだよね。」


高梨君がいつもみたいに笑ったけど、なんかもう怖い。私の知っている高梨君じゃないみたい!


「えーっと⋯何から話そうかな。人に何か話す時って、結論から話した方がいいんだよね?」


「そうよ、雄介。その通り。」


「増田さん、この世界は崩壊します。まずはこの日本から。で、今日の放課後から、その崩壊が始まったわけ。」


「⋯何を言ってるの?」


「たから滅びるんだよ。全部。」


高梨君は至って真剣に話している。だからこそ、余計に怖くて怖くてたまらない。


「母さん、まだ時間あるでしょ?」


「あるわよ。」


「じゃあちょっとだけ増田さんと2人切りにしてよ。俺から話すから。」


「もう⋯母親は邪魔って事!?仕方ないわねぇ。」


そう言うと高梨君のお母さん達黒服集団は、図書室を出て行ってしまった。






「さあ立って。いつもの席で話そう。」


高梨君は、普段のお気に入りの席に向かい、そこに腰掛けた。私も何とか立ち上がり、フラフラと歩いて、高梨君の前の席に腰掛けた。


「大丈夫?」


「大丈夫な訳ないでしょ。」


「⋯そうだよね。」


「何なの?高梨君と、高梨君のお母さんは⋯。」


「増田さんはさ、この世界を現実だと思ってる?」


「何言ってるの?」


「そのままの意味だよ。この世界を現実だと思ってる?」


「高梨君が何を言ってるのかサッパリ分からないよ!」


「俺はね、この世界は現実じゃないと思ってるんだ。」


はい?


「高梨君⋯。」


「この世界はフィクションの世界。そうだな、それこそ今映研が撮影してるみたいな映画、アニメ、小説、ゲーム⋯。この世界は、そういう物だと思ってるんだ。つまり作られた世界って事。増田さんも、皆も、勿論俺も、作られた存在なんだよ。俺達には、原作者がいるってことさ。」


「意味が分からない。」


「フィクションなんだよ。全部、フィクション。」


高梨君は嬉しそうに両手を広げた。


「でね、フィクションって事は⋯裏を返せば何でもアリって事でしょ?だから壊しちゃおうと思ってね。で、その世界を支配するんだ。面白そうでしょ?フィクションだからこそ可能な話。俺がこの世界の王になるんだ!」


「高梨君はあれなの?」


「ん?」


「中二病って事?」


「分かってないなあ増田さん。中二病こそが現実って事だよ。」


そう言うと、高梨君は立ち上がって私にビンタした。途端に私は涙を流し始めた。


「でもその言葉は好きじゃない。二度と言わないで。」


「⋯ちゃんは?」


「何?」


「あやちゃんは何処にいるの?」


「畠中さんか。気持ち良かったよ。」


「えっ。」


「さっき畠中さんとセックスしたんだ。気持ち良かったよ。」


私から、永遠に涙が流れ落ちて来る。


「高梨君⋯何で⋯?何でそんな?」


「俺は今の世界に興味なんてないよ。もう疲れたんだ。優等生・高梨雄介でいるのは。自由がいい。映画や漫画や小説みたいに!夢溢れる世界で、夢のように過ごしたいんだ。それが出来るんだよ増田さん!この世界なら!」


「出来る訳ないでしょ。」


「さっき見たでしょ!?街を歩く巨人を!今頃巨人の他にも、大きなモンスター達が街で暴れてるよ!大人達だって理性を失ってゾンビみたいになってるでしょ!?この世界がフィクションだから出来るんだよ!彼らの存在がその証拠さ!あれは母さん達がやったんだ!」


「⋯お母さん?」


「母さんはフィクション理論会の理事長なんだ。虚構を⋯フィクションを信じ、フィクションを身に着けた女王なんだよ。何でも出来ちゃうんだ。で、俺が王子になるんだ。」


「へー⋯じゃあ⋯そのお母さん達が⋯さっきの黒い服の人達が、今の騒ぎを起こしたって事?」


「その通り。ずっと準備してたんだよ。本当は文化祭後にフィクションブレイクが始まるはずたったんだけど、随分と早く始まってしまったみたいなんだ。」


「ふうん。」


「最後の文化祭になるだろう?だから楽しもうと思って。だから映研の⋯泉屋の映画に協力したんだ。お化け屋敷も楽しみにしてたのに。見たかったよ、増田さんと中川の八尺様。」


「そっかそっか、なるほどね。」


そう言うと私は立ち上がって、図書室に入口に向かってダッシュした。逃げないといけない。今すぐに!


パンッ


高梨君が拍手した。すると、私の体は動かなくなって、その場で立ち尽くしてしまった。何なのこれっ!?


「何これ!何なのっ!?」


「あっはっはっはっ!動かないでしょ!?やっぱり母さんの力は凄いなあ!」


高梨君がゆっくりと近付いて来た。


「魔法だよ、増田さん。母さんとリンクしている俺は、母さんの力を少しだけ引き出せるんだ。君にあらかじめ魔法を掛けておいたんだ。どう?体が動かないでしょ?」


「うぅぅぅうぅぅぅっっ〜!」


何をしても全く体が動かない!金縛りに掛かってるみたい⋯!


「覚えてる?増田さん。俺達、キスしたんだよ?」


「⋯してない。」


「したよ?」


「してないっ!」


「したんだよっ!教室で!あっはっはっはっ!覚えてないよね!そりゃそうだ!」


「しのっちに⋯何をしたのっ⋯!?」


私は号泣しながら、高梨君に尋ねた。


「篠宮さんか。参ったよね。多分、母さんの魔法がちょっと弱かったんだろうな。」


「何をしたのっ!?」


高梨君にまたビンタされた。


「大きい声は止めて。」


「うぅぅぅあぅあぁぁあっ⋯。」


「それがね⋯篠宮さんに、増田さんとキスしてる所を偶然見られちゃったんだよ!だから母さんにお願いして、記憶を消して貰ったんだ。その過程で確かに口移し的な事はしたんだけど、キスはしてない。多分、そこら辺の記憶が曖昧になって、言葉になって出たんだろうね。」


「しのっちは⋯しのっちは何処!?」


「知らないよ。」


ドーンと大きな音がして、また校舎がグラッと揺れた。私の体がいきなり自由になった。私は思わず床に倒れた。


「うあっ!」


「おお〜凄いね。今度は何が現れたんだろう。」


図書室の扉が開いて、高梨君のお母さん達が戻って来た。


「雄介、もういい?」


「いいよ。」


高梨君がそう言うと、私の体は急に起き上がって、両膝を地面につくような態勢になった。多分、高梨君のお母さんがやっている。


「何するのっ!?」


「何もしないよ。一緒に終わりを見よう。」


そう言うと、いきなり図書室の壁が大きく裂け、粉々に砕け散った。


「きゃぁぁぁぁぁぁっっ!」


私が叫ぶと同時に、砂埃が巻き起こる。白煙が図書室内を覆ったけど、すぐに煙は綺麗に無くなった。これも多分、高梨君のお母さんの仕業だ。


壁が無くなって、外が見える。この学校はかなり高台にあるから、遠くの街の方まで見渡せる。高梨君の言う通り、確かにこれは、フィクションとしか思えない。黒い巨人や、巨大なモンスター達が、街を破壊しているのが見える。よく見ると空の1部が、人の顔になっていて、その口の部分から雷が落ちている。街中、炎と煙だらけだ。世界の終わり?ってほんとこんな感じなんだろうな。


「みんな壊れる。みんな死ぬ。でも大丈夫。フィクションだから。」


「そうよ!その通りよ雄介!フィクション万歳!」


「「「「フィクション万歳!」」」」


黒服集団が合唱してる。むっちゃ気味が悪い。


「でね、増田さん。」


跪く私に、高梨君が近付いて来た。


「俺と付き合って欲しいんだ。」


「は?」


多分、私はこれまで人生の中で1番の『は?』が出たと思う。何が1番なのかは分からないけど。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ