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2話

篠宮しのみや かえで


また夜更かしをしてしまった。布団に入ったのは、深夜の2時過ぎだったと思う。好きなアニメが登録してあるサブスクに入ったのをいい事に、変な時間から全話イッキ見を決めてしまったのだ。昨今のテレビアニメは、基本的にワンクールで完結する物が多い(例外もあるけど)。ワンクールだと、大体全部で12話くらい。1話辺り24分くらいのランタイムだから、その気になれば最終話まであっという間に見終えてしまう。


私は別にアニメオタクではない、と自分では思っている。でもオタクのほとんどは、自分はオタクじゃないと思っているに違いない。私も、そんな勘違いオタクの1人かもしれない。なんか嫌だな。


最寄り駅から高校までは、歩いて10分くらい。でも、私は歩くのが遅いし歩幅も小さいから、歩くと15分は掛かってしまう。次から次へと、同じ制服を着た人達に追い抜かれて行く。そんなに急いで学校に行ってどうするんだ。いや、周りが早いんじゃなくて、私が遅いのか。


「おっはよぉーん。」


後ろから、何やら背丈のデカい女が朝の挨拶をしながら、私の前にジャンプして登場した。


「おはよう。」


「テンション低いな。」


「来佳美が高いんだよ。朝だぞ、朝!元気だなあ。」


なんでコイツはこんなにテンションと背が高いんだ?やっぱり沢山寝てるのかな。


「来佳美、昨日何時に寝た?」


「昨日?何時だろ。12時くらいかな。何で?」


「背が高いから、やっぱり沢山寝てんのかなって。」


「別に普通だよ。ちなみに身長が高いのは、親からの遺伝だから。」


「そうなんだ。」


「お父さんは181センチ、お母さんは172センチ、お兄ちゃんは184センチあるもん。」


「増田家デカっ!来佳美、小さい方じゃん。」


「そうなの。だからさあ、いうてまだ私達って成長期じゃん?まだ身長が伸びる気がして嫌なんだよねー。もうこれ以上身長なんか1ミリもいらねーっつの。あ、これ嫌味じゃないからね。」


「別に気にしてない。諦めてるから。」


私の身長は149.9センチ。ギリギリ150センチに届かない。もはや150センチだと言っていいと思うけど、健康診断とかの時に、ハッキリと149.9センチと記載されるから、本当にモヤつく。そこは融通を利かせて、150センチと書いてくれればいいのに。


「とはいえなー⋯あと5⋯いや3センチでいいから欲しいな。来佳美、少し身長頂戴よ。」


「いいよ。ノコギリかチェーンソー持ってきな。切り落としていいから。頭から切る?足から切る?」


「こわっ。」


そんなふざけた話をしていると、気付けば校門が見えてきた。生活主任の山下先生が腕を組みながら、登校する生徒に挨拶をしているが、あまりに睨みを利かせ過ぎている。いやいや、そんなに睨まなくても。私と来佳美がおはようございまーすと軽く挨拶すると、低く野太い声で挨拶を返された。山下先生も身長が高い。多分、180センチあるかないかくらいだと思う。正直言うと、ここまで身長差があるとさすがに怖い。しかも強面の男性相手なら尚更だ。


私達の教室は校舎の2階、2年B組。来佳美と教室に入ると、既に他のクラスメイトがちらほらと席に着いて、自由行動を始めている。私の席は教壇の斜め前。つまり、1番前の席だ。普通ならハズレだと思うこのアリーナ席だが、私の場合、身長と座高の関係て、このアリーナ席じゃないと黒板が見えない。まあ、他の席でも見えない事もないんだけど、あまりにも不便極まりない。だから席替えの時に、自ら立候補して先頭の席に座る事にしている。アリーナ席を率先して取るんだから、他のクラスメイトは私に感謝して欲しいものだ。


とはいえ、私は普段真面目に授業を受けているから、このアリーナ席で何ら問題ない。隠れて漫画を読んだり、スマホをいじったり、格好つけてBluetoothイヤホンで音楽を聴いたりしないから、勉学に励むにはもってこいの席だと思う。


「ねえ、しのっち。おしっこ行こ、おしっこ。」


来佳美がまた後ろから現れる。


「御手洗いって言えよ。少しは上品に聞こえる。」


「便所行こ、便所。」


「何か、和式トイレ感が出るなそれ。」


来佳美と御手洗いに行くと、隣のクラスと思われる生徒が、鏡の前で何やらやっている。薄く化粧をしているようだ。髪の毛もいじいじと触っている。


「増田じゃん。おっはー。」


「おお、おはよー。」


何だ、お前の友達かい。来佳美は本当に顔が広い。私は話し始めた2人を置いて、すぐに個室に入った。今の子も、身長がそれなりにあったな。来佳美よりは低いけど、多分165センチくらいはある。


用を足して個室から出ると、手を洗いながら、ふと鏡を見た。髪の毛がぺったんこな気がする。もう少しこう、トップに膨らみを持たせたら、少しでも背が高く見えるだろうか。そんな事を考えていると、すぐ後ろの個室から来佳美が出て来た。


「ねえ、さっきの子は?」


「友達の友達みたいな感じ。」


「陸上部とかじゃないんだ。」


「うん。えっ、なんで?」


「別に。」





朝のホームルームも終わり、授業が始まったが、やはり昨晩の夜更かしが効いている。耐えれるけど、その気になればすぐに寝れる、そんな絶妙なフワフワ感が続いた。


数学の時間、前に出てこの問題をやって下さいという、今野先生からの誰も受け取りたくないキラーパスが飛んできた。誰も手を挙げなかったため、今野先生は適当な理由を付けた数字の足し算をして、生け贄を決めた。当てられたのは高梨君だった。彼は嫌な顔をせずに、黒板の前に立つと、一呼吸置いてスラスラとチョークを使って問題を解き始めた。彼が書く計算式を目で追い続ける。うん、うん、合ってると思う。高梨君が答えを書き終えると、今野先生が正解ですと、嬉しそうに褒め称えた。


高梨君は成績が良い。学年でもトップクラスのはずだ。私も数字は他の教科に比べて得意な方だけど、高梨君には到底及ばない。高梨君、前の数字のテスト、確か95点とか言っていた気がする。逆に何処を間違えてしまったのか、聞きたくなった覚えがある。


実は、高梨君はアニメが好きだ。1学期の時、私のアリーナ席の隣の席に高梨君が運悪く決まってしまった時があった。同じアリーナ席仲間になった訳だが、私は彼と1度も会話した事が無かった。のだが、高梨君は休み時間、隣にいる私に、普通に話し掛けてくれた。驚く程穏やかに、スムーズに会話をリードしてくれて、私は全く人見知りをしなかった。すると、何かの会話をした時に、たまたま趣味の話題になった。私の趣味なんて、せいぜいアニメかゲームくらいのものだが、何故かオタク基質を隠さねばというアンテナが働き、アニメが好きとだけ答え、ゲームが好きだとは答えなかった。すると、高梨君もアニメが好きだったらしく、その時に放送していたアニメの話で盛り上がった。高梨君って、こんな風に笑うんだと言わんばかりの眩しい笑顔だった。私はチョロい女だと思う。それだけがキッカケで、私は高梨君の事が気になっているのだから。


午前中の授業が終わり、昼食の時間になった。私と彩菜は持参した弁当を持って、来佳美の席に集まり、近くの机を借りて、座席同士をくっつけた。


「お腹空いたあ、たあたあたあ。」


「弁当弁当〜嗚呼、弁当〜。」


来佳美と彩菜が、馬鹿みたいに騒ぎ出す。


「ねぇ待って、5限英語じゃん。終わった。私、絶対寝るわ。無理無理。」


来佳美がハンバーグを頬張りながら嘆く。


「ご飯食べた後の小林先生はキツいわ、確かに。」


彩菜が白米の上に乗った梅干しを、口を尖らせて食べながら共感する。


「小林先生だから楽じゃん。何言ってんのか分かんないけど。」


「だから辛いのよ。何言ってんのか分かんないから。」


「小林先生たまに独り言みたいに話すよね。あれ、授業してんのか、独白が始まったのか分かんない時あるわ。」


「もはや、独白だとしてもバレないんじゃない?」


私は食べるのも人より遅い。来佳美と彩菜はもうすぐ食べ終わるというのに、私はまだお弁当の半分も食べ終わっていない。いやまあ、こいつらが食べるのが早いという可能性も、かなりあるんだけど。それを差し引いても私は遅い。昔、お母さんに『咀嚼してゆっくり食べる事は、良い事なんだよ』と言われた事がある。にしたって限度があるだろう、お母さん。


「私、御手洗い言ってくる。」


食べ終わった彩菜が、席を離れた。


「彩菜、『御手洗い』って言ってるじゃん。マジか。」


そう言いながら来佳美も、最後の白米を口に放り込んだ。


「ごめん、食べるの遅くて。」


「いいのいいの。ゆっくり食べる事は、良い事なんだよ。」


「ウチのお母さんみたいな事言うな、来佳美は。」



5時間目の小林先生の英語の授業は、いつにも増して何を言ってるのか分からなかった。変に発音が良いせいで、話している単語がBなのかDなのか分からない。『ゔいぇー』と聞こえる。今解いているこの選択問題の正しい答えは、果たしてBなのかDなのか。


6時間目は体育の授業。先程から僅かに雨が降ってきたから、今日は体育館でやるらしい。運動全般好きじゃない私にとって、あまりにも退屈で憂鬱な時間だ。結局運動が好きで得意な人が、自分のポテンシャルを自慢する時間。それが体育だ。私みたいに小柄で運動神経も無い人間にとって、あまりにも酷な時間だと思う。だから、どうせならせめて遊びみたいな運動が良い。


「マットだったら、やだなー。」


「分かるー。マットつまんない。バスケかバレーがいい、私。」


ええっ、絶対に嫌だ。私の人権が剥奪されるやつじゃないか!


「そりゃ来佳美は背が高いからでしょ。私はバスケもバレーも嫌だね。」


「じゃあ、しのっちは何がいいの?」


「ドッチボール。もしくはキックベース。」


「小学生の体育かよ。」


人権剥奪決定。体育の授業はバスケの試合をする事になった。嫌だ、嫌過ぎる。誰が何と言おうと、身長が高い人が有利で輝くスポーツでしょ。そりゃバスケをしている人の中で、小柄な人もいるだろうけど、149センチでバスケをしている人はいないはずだ。


チーム分けの結果、私は幸い来佳美と同じチームになった。これはラッキーだ。来佳美こそ、まさにこういった種目で輝ける逸材だ。


「しのっちパス回すからね。」


「ええっ、いいよ。いらないいらない。私が圧倒的に不利なスポーツなんだからね?」


「部活じゃないんだから、関係ないって。」


「いいからほんとに。私ボール持ったらトラベリングするよ?むっちゃ歩くから。」


「それは困るな。迷惑だわ。」


早速試合が始まる。両チームとも、バスケ部の人間が1人ずついるけど、気を利かせてパス回しに専念している。そんなのいいよ!どんどんシュートかましてくれ!ほとんどが非バスケ経験者のため、試合展開は非常にスローリーだ。おぼつかないドリブル、おっそいパス回し、シュートなのか、ただぶん投げてるだけなのか分からない謎の動き。頼む来佳美、お前がこの試合を支配してくれ!


来佳美は非バスケ経験者にしては、とても動けていると思う。ドリブルとパス回しもそつなくこなしている。やはり運動神経が良いなあと、来佳美を見ながら羨ましく感じる。彼女は上手くドリブルをして、ディフェンスをかわし、そのままゴールへと突き進み、レイアップシュートを決めに行く。


「あっ。」


来佳美が情けない声を漏らした。周りに誰もいないのに、思い切りレイアップシュートを外したのだ。いや、何でだよ!決めないんかい!外れたボールは何故か私の目の前で1度バウンドして、私の手元に収まった。マジかよ。いらないよこんなオレンジの玉。しかし、まだ来佳美はゴール下にいる。今度こそシュートを決めやがれ!私は渾身のパスを来佳美に向かって放った。えっ、ちょっとお前何処見てんだよ!


「来佳美!」


名前を叫んだが、時すでに遅し。私が放った渾身のパスは、よそ見をしていた来佳美の顔面にクリーンヒットした。バシーンという音が体育館に響き渡る。来佳美は何とかその場に踏み止まったが、私はすぐに彼女の違和感に気が付いた。川内先生もストップの笛を鳴らす。


「ねぇ来佳美!口から血出てる!」


「えっ。」


やってしまった。唇か口の中を切ったらしい。川内先生が来佳美に保健室へ行くように指示を出した。


「ごめん来佳美。」


これは痛いに決まっている。私はすぐに来佳美に謝罪した。


「大丈夫大丈夫!気にしないで気にしないで!」


しかし周りの反応は、意外にも冷ややかだった。


「いや、完全に増田がよそ見してたよ。」


「増田ちゃん、上の空だったよね。」


「増田が悪い。」


「急にバスケしてた事、忘れたんじゃないの。」


心配しろやと文句を垂れながら、来佳美は保健室へと向かって行った。あいつには悪い事をしちゃったけど、一体何をぼーっとしてたんだ?来佳美が向いていた方向では、男子達が私達と同じ様にバスケの試合を行なっていた。高梨君が機敏に動いているのが見える。まさかあいつ、男子の事を見てたんじゃないだろうな。


そんなこんなでチーム交代、私は観戦組に回った。すると、来佳美が小走りで私の隣に帰って来た。無駄になっがい足を折り曲げて、あぐらをかいた来佳美は、えへへーと笑みをこぼしている。


「戻って来るのはやっ。大丈夫?」


「大丈夫。唇が少し切れただけだよ。」


「まさかあんなに綺麗に顔面にヒットするとは思わなかったよ。ごめん。」


「しのっち、あんな豪速球パス出せたんだね。私、鉄の塊が衝突したのかと思ったよ。」


来佳美に悪い事しちゃったなと思いながら、私は体育座りの姿勢を取り、ぼーっと向こうの方を眺めた。高梨君が、頑張って動いているのが見える。高梨君は、男子の中では背が低い方だと思うけど、私がスーパーチビだから、全く気にならない。それよりも、自分よりも背が高い男子達相手によく動いている。あ、凄い、シュート入れた!高梨君って確か帰宅部だよね。運動神経良さそうだから、何か運動すれはいいのに。





放課後、ちとダイエットしてくるわと言いながら部室に向かった来佳美を見送り、私も部室という名の美術室へと向かった。美術部の活動は、まあそりゃ絵を描いたり描かなかったりするわけだが、この学校の美術部は緩い。文化祭とか何かしらのイベントの際に、広告ポスターを描いたり、たまにあるコンクールに向けてちょっとマジの雰囲気の絵を描いたりする。だけどそれ以外の時間は、基本的にフリースタイル。部活というより、同好会に近い気がする。好きな物を、好きな時に、好きなだけ描く。ぶっちゃけ何もしてない時間とかもある。私は別に絵は上手ではないけど、描くのは好きだからこの部活に所属している。アニメも好きだしね。


美術室に入ると、すでに何人かがやって来ていた。誰も絵を描いたりしておらず、お喋りしたり、スマホをこそこそいじったり、寝ようとしている奴までいる。


「お疲れー、篠宮。」


その寝ようとしている奴に、声を掛けられた。隣のクラスの森田だ。涅槃像ねはんぞうみたいなポーズを取りながら、右足をエアロビクスみたいに上げ下げしている。横から回って見たら、多分パンツ丸見えだろう。


「お疲れ。パンツ見えるよ。」


「いいよ、別に。ベージュ色で熊ちゃんのアップリケが貼り付けられた毛糸のパンツさ。」


「だっせー。」


森田の前に座ると、私も何だかどっと疲れが襲って来た。寝不足とさっきのバスケのせいだ。


「ねえ、そう言えばさ。昨日の放課後、橋本さん、野球部の田中に告られたらしいよ。」


「マジ!?」


「マジ。田中フラレたらしいけど。」


橋本さんとは、2年何組かにいる橋本杏奈さんの事。おそらく学内で、トップレベルに可愛くて美人な女の子。“1000年に1人の美少女”というキャッチフレーズでお馴染みの、あの女性芸能人と1文字違いという事もあり、話題に欠かないアイドル的存在だ。それはそれはモテモテで、彼女のファンは学内に多い。女子の私から見ても、確かに可愛いんだから納得だ。


で、田中というのは野球部に所属する、森田と同じクラスの男子のこと。丸坊主で、ガタイが良く、身長も高い、野球部の化身みたいなビジュアルをしている。私のどちらかというと苦手なジャンルに属する男子だ。


「田中は無理だよな。うん。橋本さんと並んで歩いてるイメージないもん。」


「アイドルの横に、ムキムキ巨大ゴリラが歩いてるみたいな感じになるよね。」


「それはそれで見てみたいけど。」


結局、森田とダラダラお喋りをしている内に1時間くらいは経過した。果たして、美術部の活動とは。中には真面目に絵画に勤しんでいる者もいるけど、談笑しながら描いてるから、この部活はまあやっぱりそんな感じだ。


結局、私は森田とお喋りを終えると、家に帰る事にした。別に強制される部活じゃないし、何かもう今日はいいやという気分になってしまった。森田はというと、家に帰っても暇だから残るわと言って、他の友達とまたグタグタし始めていた。


美術室を出て、廊下を歩く。吹奏楽部が練習している音が遠くから聞こえてくる。吹奏楽部って多分練習厳しいんだろうなと思いながら、ふと窓の外を見る。私の足が、思わず自然と止まった。少し離れた所に体育館があり、その前に水飲み場が設置されている。そこで2人の男女が話している。


女子の方はデカい。あのデカい女は来佳美だ。部活スタイルの格好をしている。男子の方は、来佳美よりも背が低い。あれは高梨君だ。来佳美と高梨君が、2人きりで話している。何で!?いや、確かに来佳美と高梨君は普通に仲が良い。教室でもよくお喋りしているし。でも、2人きりで会話している所は、ほとんど見た事がない。いつもグループ内の複数人で話しているイメージがあるから。


男女2人きりというシチュエーションが、私をドキドキさせる。一体、何を話してるんだろう。よく分からない感情が、私の中で巻き起こる。高梨君は、まあその、私のうん、気になっている人だよ確かに。好き⋯好きというか⋯うん⋯まあその⋯うん⋯好き⋯好きか⋯うん。


高梨君は鞄から何かを取り出して、それを来佳美に手渡した。多分、あれはペットボトルだと思う。どうやら飲み物を来佳美にあげたらしい。な、なんで来佳美に?えっ、高梨君って、来佳美の事が好きなの?嘘でしょ?いや嘘でしょっていうか、マジ?マジなの?高梨君。


まあ来佳美は馬鹿だし、お調子者だし、たまに下品な事を言うけど、黙って口を噤んでいれば普通に美人だと思う。今日、私はその顔面にバスケットボールを炸裂させた訳だけど。顔も整っているし、スタイルもいい。背が高いから、それこそ、どこぞのモデルさんみたいに見える。普通にクラスの人気者の1人だ。


高梨君は、自分よりも背が高い女の子が好きなの?男性って、自分よりも背が低い女の子が好みだとばかり思っていたけど、そうでもないの?もしかして。いやいやでも、比較的大人し目に見える高梨君が、来佳美と?私の中で2人のカップリングが成立しない。何か違うと思う。完全に余計なお世話だけど。


「何してんの。」


「ぎゃあ。」


情けない叫び声を上げてしまった。振り返ると、森田がそこに立っていた。


「びっっっくりしたぁぁ。なんでいんの。」


「やっぱり私も、今日は帰ろうと思って。何突っ立てんの?」


「いや別に。」


水飲み場の方を見ると、来佳美と高梨君はもういなくなっていた。多分、来佳美は部活に戻ったんだと思う。高梨君は⋯帰ったのかな。






翌朝、来佳美が教室に入って来た時、明らかにテンションが違った。


「おっはよぉ。」


いつもよりも大きな声量で来佳美は私に挨拶をしてきた。なんともまあ


「わかりやすっ。」


「何が?」


「なんかいい事あったんだろ。あったなこれは。」


「べ、べ、べつにないですげど。」


あからさまに焦った表情を浮かべた来佳美は、微妙に顔を赤くしている。


「あるやつの反応なのよ。」


私がそう言うと、照れを隠した来佳美は、何だか嬉しそうに自分の座席に歩いて行った。えっ。待って。お前、まんざらでもないのかよ。何で私はそっちの可能性を考えなかったんだ?来佳美⋯お前、高梨君の事が好きなの?えっえっマジ?だって、高梨君はお前より⋯えっ、嘘でしょ。私はぐっと自分の感情を押し殺す。私が好きな人は、私の友達からも好かれているかもしれない。私と来佳美は、恋のライバルって事?なんだそりゃ!やだやだやだ。


向こうの席で、来佳美と彩菜が何やら盛り上がっている。私は一旦、この件を考えるのを止めて、椅子から立ち上がった。

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