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13話

中川 輝之なかがわてるゆき



ついに⋯ついにこの日が来てしまった。映研の恋愛映画は、今日から撮影を開始する。俺は午前中にあったバスケ部の練習を終え、ついに撮影隊と合流する。いやだー行きたくねー!教室に着くと、丁度皆が昼飯を食べている所だった。俺が教室に入ると、分かりやすくニヤニヤしている奴が数人見える。


「待っていたぞ中川君!さあ、覚悟はいいか!」


「元気だな増田。あれ、何かいつもと雰囲気違う。」


「私がメイクしたの。どーよ。まっすー可愛いだろ。」


畠中がメロンパンにかぶりつきながらドヤ顔してきた。


「可愛い可愛い可愛いー。」


「連呼したら価値が無くなるでしょうが!」


泉屋が俺の所にやって来た。


「よう中川、よく来たな。ついに始まるぞ。もう始まってるけど。」


「本当に俺じゃなきゃ駄目か?もしあれなら、今から弁当食べて帰るけど。」


そう言うと、教室の隅で弁当食べている人物から圧を感じた。尾崎さんだった。はいはい分かったよ!


「高梨も増田も頑張ってくれてるよ。中川も頼んだ。」


「はいはい、分かったよ。」


俺は高梨の近くに座り、鞄から弁当を取り出して、それを口にかきこみ始めた。


「高梨どうよ、撮影は?」


「何とかやってる。恥ずかしいけど。」


「そりゃそうだ。俺、これから撮影するシーン、マジで嫌なんだけど。」


「実は俺、そのシーンを見るのが今日の楽しみだったんだ。」


高梨が悪そうな笑顔を浮かべた。そう、この後の撮影シーンは、俺が増田演じるミナミに告白するシーンなんだ。まさかそのシーンから撮る事になるなんて⋯恥ずかし過ぎる!たとえ演技とはいえ、こんな人数の前で告白シーンだなんて!最悪だよ最悪!


俺はあっと言う間に弁当を平らげると、脚本を取り出して、撮影シーンのセリフを確認する。勿論事前に読んだよ。読んだけど、俺マジでこれ言うのか!?


「中川君、頼んだよ。」


先に撮影し始めているからか、増田が先輩面してくる。


「頼むな!」


「ついに中川君も黒歴史が記録されるね。」


「マジで嫌だわ。告白シーン⋯地獄だな。」


「私まで何か恥ずかしくなってきたよ。告白される側だから。」


「止めろよ。恥ずかしがるなよ。」


「演技自体が恥ずかしいのに、その中でもさらに恥ずかしいシーンでしょ?恥ずかしいの2乗だね。」


「上手いこと言ってんじゃねーよ。」






さあ、ついにその時が来た。撮影場所は校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下。泉屋は、本当は校舎の屋上で撮りたかったみたいだけど、漫画やアニメとは違って、屋上の扉なんか開いている訳がない。


で、さらに最悪な事が発覚した。あとで編集するためらしいんだけど、同じシーンをカメラの画角を変えたりして、何回も撮るらしい。つまり俺は何度も増田ミナミに告白する事になる。マジかよ。


畠中に軽く化粧された俺は、着替えて、あっと言う間に制服姿になっていた。立ち位置を指示され、増田と向かい合うように立つ。いかん、もう緊張してきたぞ。つーか増田だよ、増田!いつもと化粧の感じが違うからか、黙ってるとマジで雰囲気が別人だ。正直に言おう。可愛い。だから尚更恥ずかしい。ぐおお。映研の連中が、慌ただしく準備をしている。カメラとかマイクとか色々触っている。この待ち時間も、何だかソワソワしてしまう。


「なんか私、思ってたよりも、むっちゃ恥ずい。どうしよう⋯。」


増田が顔を真っ赤にしながら、小声で呟いた。


「増田。頼むから恥ずかしがらないでくれ。」


「無理だもん、そんなの!」


「いいか2人とも?」


泉屋が声を掛けてきた。ヤバい。ヤバいぞ。本当にやれるのか?俺。言えるのか?俺。えーい、もう知るか。どうせなら、やるだけやってやるよ!


「⋯よし、いいよ。」


「増田は?」


「⋯帰っていい?」


「よしカメラ回して。」


カメラの録画が始まったようだ。いよいよ始まる。俺の黒歴史記録が。


「よーい⋯ハイ!」


「ゴメンッ、イキナリッ、ヨビダシテッ。」


「はいカット。中川ちょっと。」


泉屋が俺の所に駆け寄って来た。映研の連中がザワザワしてる。尾崎さん、なんだよその表情は!


「中川、緊張してる?」


泉屋が真顔で聞いてくる。


「してるわ!」


「感情込めてる?」


「込めてるよ!」


「じゃあ、その5倍、感情込めてやってみてくれ。」


「5倍!?」


「大丈夫、お前イケメンだから。」


「なんだよそれ。」


泉屋め⋯よく分かんない事を。取り敢えず感情表現が足りないって事か。あと多分、俺が思ってるよりよっぽど下手なんだろうな。あー最悪だ。最悪最悪。取り敢えず、自分が思ってるよりオーバーにやった方が良いってことかな。分かったよ泉屋。5倍感情込めてやらあ。


「よーい⋯ハイ!」


「ごめん、いきなり呼び出して。」


「ううん、大丈夫だよ。」


増田が俺に合わせてセリフを言う。今の一言で分かった。やっぱり、いつもの増田じゃない!なんだよコイツ!演技上手いじゃん!何だよ!俺は増田に負けじと、セリフを繰り出す。


「大切な話があるんだ。」


「大切な話⋯何?」


なんだコレなんだコレなんだコレ。マジで俺、増田に告白する人になってねーか?


「俺、鈴木の事、好きなんだ。」


言えたあああ!あっぶねぇぇぇ!思わず増田って言いそうになった!声が震えるところだった!言えたよな!?大丈夫だよな!?


「⋯そ、そうなんだ。」


増田の顔が尋常じゃなく赤くなってる!恥ずい!泉屋!早くカットかけろ!


「はいカット!」


その瞬間、俺と増田はその場で暴れ回った。


「ぐぁぁぁああ恥ずかしぃぃぃぃぃっっ〜!」


「やだあぁぁあ告白されちゃったぁぁあ〜!」


「告白してねーよ!いやしたけど!」


「はい、チェックねー。しばしお待ちを。」


今の流れをあと何回やるんだ!?これは、部活よりも体力使うぞ。おい!何笑ってんだ高梨!畠中!


この後は何時間か、俺と増田と高梨が3人で出てくるシーンを中心に撮影した。泉屋は厳しくて、セリフを噛まずに言えても、普通にNGを出してくるので本当に参った。こいつは本気だった。怖いまである。増田と高梨は凄いと思った。俺よりも練習してたのは知ってたけど、そうだとしても演技が上手だ。泉屋の目に狂いは無かったって事だな。






夕方4時過ぎ。今日の撮影が終了した。映研メンバーは早速撮影した映像をパソコンに取り込むらしい。確かにどんな風に写ってるのか、興味あるっちゃあるな。多分、恥ずくて凝視出来ないだろうけど。


「今日はお疲れ様。ありがとう、我がクラスメイト達。」


泉屋が俺達に挨拶をしてきた。


「私不安です監督ぅぅ。」


「大丈夫だって。増田良くやってくれてるよ。勿論、高梨も中川も。」


「全く自信ないんだけど。なあ、中川?」


「安心しろ。俺が1番大根だから。」


いや、実際そうだと思う。高梨と増田が芸達者過ぎるんだ。


荷物をまとめて帰り支度をする。さあ帰るぞ!今日は大変な目にあった。まあ、まだ撮影は終わってないんだけども。


「ねーねー、帰りにマック行こうよ。」


畠中が演者組に提案してきた。尋常じゃなく腹が減ったので、俺はその提案に乗ることにした。そして当然のように、疲労困憊の高梨と増田も巻き込む。


「行くだろ高梨?増田も。」


「うん、行くよ。」


「行く!お、お腹減った!」


「まっすー減量中なんでしょ?いいのかい?」


「うぐぅ⋯メニュー見て考えるもん。」


学校を出て、4人で駅の方に向かって歩く。並んで歩くと、また学校に苦情が入るかもしれないなんて考えながら、俺達はダラダラとだべりながら駅の方に向かった。


店内に入り、それぞれ注文が終わると、全員でボックス席に深く座り込んだ。演技するのって疲れるんだな。絶対、バスケしてる時より疲れてる。俺は頼んだダブルチーズバーガーセットに付いてきた炭酸飲料をガブ飲みする。どうやら俺以外の3人は、飲み物とポテトだけ注文してきたようだ。


「あーイモうめー。」


増田がアホみたいな顔をしながらポテトを食べている。


「増田、演技うめーじゃん。聞いてないんだけど。」


「ほんと!まっすーやるう!」


「えーそんな事ないない!それっぽく誤魔化してるだけだよ。高梨君の方がよっぽど上手。」


「そうなんだよ。高梨、おめー聞いてないぞ。あんなに演技上手いなんて。」


「演技は地味に得意なんだよ。」


高梨の言葉に、俺と女子2人が引っ掛かった。


「何で?何かやってたの?」


「ううん。何も。深い意味はないよ。」


増田の質問に、高梨はそう返した。何の匂わせだよ高梨。


「次の撮影は明後日か。やだなあ⋯早く終わらないかなぁ。」


「まっすーと高梨君のキスシーンはまだ?」


「それ言わないで!キスしないから!してる風だから!」


「その撮影シーンの日は、可能な限り少人数での撮影がいいよね。」


そう言いながら高梨が野菜生活をすする。


「私は完成した映画が楽しみだよ。早く見たい!」


畠中が一気に何本かのポテトを口に突っ込む。そうなんだよな。映画は完成した後、今度の文化祭で上映される。それどころか、何かそういう学生映画のコンテストにも応募するとか泉屋言ってたな。俺の醜態が誰かに見られる。いやーキツい。


「あやちゃん、軽音部はどうなの?何かオリジナルの曲やるんでしょ?」


「練習中。でも期待しないで!」


「期待する!絶対聞きに行くから!」


「それは絶対に来て!」


「そうじゃん、文化祭、俺と増田は八尺様やるんじゃん。すっかり忘れてた。」


「そうだよ。私達は八尺様メイトなんだから。」


「嫌なメイトだな。」


「着々と準備は進んでるよ、お化け屋敷。」


「高梨がルート監修したんだろ。」


「監修って程じゃない。提案しただけだよ。」


俺はダブチを頬張りながら、ふと窓ガラス越しに外を見た。ん、何だあれ。道路を挟んで向こう側に誰かが立っている。黒い服を着た女性だ。仁王立ちしていて、気のせいじゃなければ俺達の方をじっと見つめている。不気味な程動いていない。他にも通行人もいるのに、その人達は、まるでその女性の存在に気が付いていないようだ。俺は一旦目を逸らす。そしてまた女性の方を見た。あれ、もういない。


「どうした中川。」


高梨に話し掛けられて思わずハッとした。


「初お芝居で疲れたよね。分かる分かる。私も今日は爆睡出来る自信があるよ。9時には寝そう。」


「まっすー寝るのはやっ。また身長伸びちゃうよ?」


「それな!伸びないでくれー。」


入口の音が鳴る。さっきの女性が入って来た。女性はいきなり俺の方を向いてきた。なんだよ!また目が合ってしまった。咄嗟に俺は、またすぐに視線を逸らす。何なんだアイツ!なんか気味悪いな。


「ねえ、中川君って身長何センチあるんだっけ。」


「えっ。」


「身長。」


「身長は⋯181。」


「デカっ。私よりも11センチも高いのか。」


さらに気配を感じる。あの女性が、俺のすぐ真後ろの席に座った。他にも席は空いてるのに。何だか俺は気持ち悪くなってきた。皆は女性の違和感みたいなものに、気付いていないみたいだ。


「中川。」


高梨が野菜生活をズルズルと飲みながら、俺の事を見てくる。


「どうした?何か変だよ。」


「変⋯じゃねーよ。」


「おしっこ?」


「ちげーよ!」


「まっすーは相変わらずデリカシーねーなー。」


何か分かんないけど、後ろから感じる圧みたいなものに耐えられない。


「ごめん、俺帰るわ。」


「いきなりだな。」


「用事を思い出した。」


「用事ない人のやつじゃん。」


「⋯お前らも早いとこ帰れ。じゃあな。」


そう言うと俺はゴミが乗ったトレイを持って、返却台に返すと、そのまま真っ直ぐ帰路についた。その女性の事は一切見ないようにして。何だか異様に気持ち悪い女。俺の気のせい⋯なのか?

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