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11話

増田ますだ 来佳美こよみ



泉屋君から謎の叱咤激励を受けて、私は再び高梨君の前に戻って来た。泉屋君、何かあったのかな。いつもよりもなんちゅーか、達観してる感じ。私が高梨君の事が好きって知ってるからな。応援してくれてるんだろうけど⋯。


「おかえり。」


「あ、うん。」


高梨君はいつものように本を読んでいる。多分だけど、ホラー小説。私は鞄からノートと参考書を取り出して、一応勉強しますよという形を作った。今日のセリフの練習、恥ずかしかったなあ。お芝居をする事になるなんて思ってもみなかったから、まさに青天の霹靂ってやつですよ。


私は馬鹿だけど、ずば抜けて馬鹿ってワケじゃない。だから分かってるんだ。泉屋君が私をキャスティングした理由、それはずばり高梨君だ。高梨君相手に私が芝居をする。すると、私は恥ずかしいに決まっているから、顔が赤くなったり、変にぎこちなくなったりする。それが映画的にリアルに見える、って事でしょ?泉屋監督の思惑は、つまりそういう事だと思われる。


でも正直に言おう。高梨君と一緒に何か出来るってのは嬉しい。嬉しいです、はい。今回みたいなイベントって、そうある事じゃない。だから、やってみようと思った。恥ずかしいことには変わりはないんだけど。


「英語勉強するの?」


高梨君が、私の参考書を見た。


「うん。私、英語が1番駄目なんだ。高梨君、英語が1番得意でしょ?」


「得意なのかな。」


「前回のテスト、高梨君点数エグかったじゃん。」


「そんな事ないよ。」


「私、64点だからね?」


「ごめん。」


「謝んないでよ⋯!」


私は小声でツッコんだ。参考書をめくって、今授業でやっているところらへんの問題を解こうとしてみる。なるほど、訳が分からん。本当に小林先生、こんなこと授業でやってた?私がチラッと高梨君の事を見ると、彼はすぐに私の視線に気が付いてくれた。


「分かんないの?」


「さすがだね高梨君。なーんにも分かんないよ。」


私がそう言うと、高梨君は読んでいた本に栞を挟んで立ち上がった。そして私の隣の席に座って、参考書をぐーっと覗いて来た。待って待って高梨君!近い!近い近い!近いです!距離が近いですよ!


「どれ?」


「⋯これ。」


なんか情けない声が出た。高梨君、髪の毛サラッサラだ。横から見ると、なんかまつ毛も長い。なんかむっちゃドキドキしてきた。えっ、これってさ。周りから見たらカップルに見えない?彼氏が彼女に勉強教えてるみたいに見えない?きゃー恥ずい!恥ずいて!


「分かった?」


「うん、分かった。」


嘘です!なんも聞いてませんでした!すません!


「増田さんってさ。」


「うん。」


「演技、上手だね。」


高梨君が急に褒めてきた。


「いやいやいやいや!そんな訳ないじゃん!見たでしょ?私の大根棒演技!」


「ううん、上手だったよ。」


「そ、そんな事ないよ。てか、高梨君の方が上手だったよ。」


「いやいや。」


「いやいや。」


私達はお互いに謙遜し合う。何だかまた恥ずかしくなってきた。


「なんか羨ましいんだよね。皆が。」


「皆って?」


「皆だよ。何かしら特技というか、自慢出来るようなことがあるじゃん?」


「⋯そうかな?」


「泉屋は映画愛が凄い。脚本も書いて、キャスティングも頑張って、自分で監督もする。」


「そうだね。」


「中川はバスケをずっと続けてて、スタメンだ。」


どうしたんだろ、高梨君。心なしか元気が無い気がする。


「篠宮さんも美術部で、絵が上手なんでしょ?好きなアニメのイラスト描いたりするって聞いたし。畠中さんも軽音部でギターが出来る。曲作りに挑戦するって言ってたし。皆、何かに努力してる。凄いよ、本当に。」


「高梨君、どうしたの?」


「増田さんも陸上部のエースでしょ?」


「エースじゃないよ!ほんとに。雑魚中の雑魚だよ?『地球サイコー!』って言いながら走り回ってるだけだよ。今、怪我だってしてるし。」


「長距離走ってるだけで凄いよ。俺は⋯俺はなーんも無いよ。自慢出来るような事が。帰宅部だし。」


高梨君の様子がおかしい。絶対におかしい。どうしちゃったの高梨君。何かあったの?私、何かしちゃった?えっと⋯こういう時、何て言えばいいんだろう。


「た、高梨君、勉強出来るじゃん。充分自慢出来るでしょう。」


「勉強なんて自慢にならないよ。俺よりテストの点数が高い人なんて、いくらでもいるし。」


うぐぐ。困ったぞこれは。高梨君が卑屈モードだ。


「た、高梨君は⋯優しいと⋯思う。」


「優しい?」


「うん。ごめんね、上手く言えないんだけど、優しいと思う。それって、素敵な、事だと、私は、思う。」


なんか緊張して、言葉がカタコトみたいになってしまった。ああ〜恥ずい〜!


「⋯ありがとう。ごめん、変な空気になっちゃったね。」


「ううん、気にしないで。」


センチメンタルな高梨君、これはレアなのかな。


「増田さん。」


「何?」


「ちょっと、大切な話があるんだけど。」


高梨君から⋯大切な話?何だ何だ何だ!?


「えっと⋯大切な⋯話?」


「うん。2人きりで話したいから⋯その、ここじゃない所がよくて⋯ついてきてくれないかな?」


「⋯う、うん。い、いいよ。分かった。」


そう言うと私はノートと参考書を慌てて鞄に突っ込んだ。高梨君も本を片付けて、すぐに鞄を持った。い、一体何が始まるんです!?






「じゃあ行こうか。」


「⋯うん。」


私達は揃って図書室を出た。私は黙って高梨君の後ろをゆっくりと歩いて行く。た、大切な話って何!?高梨君!私、心臓がバクバクなんですけど!?何なの!?私、すでになんか背中に汗かいてる気がする!高梨君、これは⋯私達の教室に向かってる?


高梨君は教室のドアを開けた。幸い、教室には誰もいなかった。教室に入ると、私は無意識にドアを閉めた。高梨君と、文字通り教室で2人切りになった。高梨君は教室の真ん中くらいまで歩くと、私の方に振り返った。私も、ちょっとだけ高梨君に近付いた。高梨君が、真っ直ぐ私の事を見つめてくる。いつもなら目を背けてしまうかもしれないけど、なんか今は逸らしちゃいけない気がした。私もじっと、高梨君の事を見つめる。こ、この空気は⋯。


「えっと⋯何?た⋯大切な話って?」


心臓が口から出そうになってきた。でも、ここで嘔吐したら伝説になっちゃうから、我慢する。


「大切な話⋯そう⋯大切な⋯話なんだけど。」


「⋯う、うん。」


「増田さん⋯。」


「⋯はい。」


「俺⋯。」


「⋯うん。」


「増田さんの事が⋯。」


「⋯⋯うっ⋯うんっ⋯。」


待って待って待って待って待ってこれはあああこの流れはあああこここ心の準備がっ〜〜〜!!!


「Sub me pare。」


「え?」


ん、えっ、なんて言っ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。



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