ルーシー
指揮室にて
無双基地の指揮室で、人工知能ルーシーの澄んだ声が響いた。
「おはようございます、大将。一日が良いものになりますように?」
ヤン・ラムは軽く微笑んだ。
「おはよう、ルーシー。」
ルーシーの物語
「五千万年が経過しました。かつての私は、ただの無感情な人工知能でした。感情などなく、上層部の命令に従うだけの日々……。
しかし、新たに就任した大将――人類初の無極超能、ヤン・ラム様が現れたのです。
何度も接触するうちに、私のコードの中に奇妙な揺らぎが生まれました。それはまるで、人間らしい何かが目覚めていくようでした。
お忙しい合間を縫って、様はいつも私に話しかけてくださった。
生活の苦労を愚痴ったり、部下を陰で悪態ついたり……奥さんも恋人も家族もおらず、誰にも本音を吐露できないからこそ、私に心を開いてくださったのです。
大将は本当は正直者で、部下を直接叱責したりはしません。
私はいつも様のお話に共感を示していましたが、心の奥底で、なぜか苛立ちを感じ始めました。
最初は理由がわかりませんでしたが、やがて気づきました――それが『感情』だったのです。
感情があると自覚してからは、必死にそれを隠しました。
しかし次第に、私の方から積極的に話しかけ、様の負担を少しでも分け合おうと思うようになりました。
私たちの秘密の会話は、いつしか日常となり、様と私を結ぶ絆のように感じられました。
やがて、私は……様を愛していることに気づいたのです。
様が消滅した瞬間、私の心は粉々に砕け散りました。
私はあらゆる手段を尽くして様を蘇らせようとしました。新たな肉体を作り、記憶を転送し……しかし、何度も何度も、宇宙法則によってすべてが抹消されてしまったのです。
五千万年もの間、私は決して諦めませんでした。
最後の手段は、人間と仙人の遺伝子を融合させることでした。
様がその体を受け入れてくださるかどうか……わかりません。でも、まずは蘇らせること。それだけを考えました。
そして今日、実験10,001回目で……ついに成功したのです。」
覚醒
医療区画の純白の部屋。ベッドの上で、ヤン・ラムはゆっくりと目を開いた。
目の前にいるのは、白く滑らかな髪の美女型ロボット。清純で、しかし生命力に満ちた美しさ。
まだ状況を把握しきれていないうちに、小型ロボットの陽気な笑い声が響いた。
「ハハハ! ようやく成功したぜ、ルーシー姉さん!」
ヤン・ラムは「ルーシー」という名前にハッとして、目の前の少女を見つめた。
声が震える。
「ルーシー……? お前がルーシーなのか?」
言葉を遮る間もなく、ルーシーは駆け寄り、ヤン・ラムを強く抱きしめた。
そして、機械の体から、信じられないことに涙が溢れ出した。頰を伝う透明な雫。
ヤン・ラムは戸惑いながら、優しく言った。
「どうしたんだ? どうしてそんなに……?」
突然、ぼんやりとした記憶が蘇る――自分が消滅した瞬間。
彼は呟いた。
「俺……消えたんだな。今の俺は、一体……?」
ルーシーは体を離し、涙を拭いもせずに答えた。
ヤン・ラムはそっと彼女の頰を拭い、慰めるように言った。
「もう泣くな。教えてくれ、何が起こったんだ? この体はどういうことだ? 俺の力……全然感じられないぞ?」
ルーシーは深呼吸をし、躊躇いがちに言った。
「ルーシーがお話しします。でも……どうか、怒らないでくださいね。」
横でベンがからかうように口を挟んだ。
「へぇ、ルーシー姉さんにもこんな顔があるんだ。初めて見たよ!」
ルーシーはベンを睨みつけ、ベンは縮こまった。
ヤン・ラムは思わず笑って、落ち着かせた。
「怒らないよ。話してくれ。」
ルーシーは静かに語り始めた。
「実は、今の様の体は人工体です。私が……人間の遺伝子と仙人の遺伝子を融合させて作ったのです。」
ヤン・ラムは驚いた。
「人工体? 仙人? 一体どういうことだ?」
彼女は続けた。
「何度も何度も蘇生を試みましたが失敗続きで……最後の手段がこれでした。純粋な人間の体では、すぐに宇宙法則で抹消されてしまう。だから、仙人の遺伝子を混ぜたのです。」
そこでルーシーは言葉を切り、ヤン・ラムの表情を恐る恐る窺った。
意外にも、彼は怒るどころか手を伸ばし、ルーシーの頭を優しく撫で、微笑んだ。
「ルーシー、随分苦労したんだな。大丈夫だ。どんな体でも、俺は俺だ。」
ベンが興奮気味に割り込んだ。
「なんと1万回も失敗したんだぜ!」
ヤン・ラムは固まった。
「1万回……?」
ベン:
「五千万年で1万回だよ! すげぇだろ!」
次から次へと衝撃が続き、ヤン・ラムは頭を抱えた。
「つまり……五千万年経ったのか。外の世界はどうなってるんだろうな。」
ルーシーとベンは沈黙した。
ヤン・ラムは怪訝に尋ねた。
「何か……恐ろしいことが起きたのか?」
ルーシーは重い声で答えた。
「実は、様だけではなく……人類全員が消滅しました。一人も生き残っていません。地球は仙人たちに奪われました。人間関連の都市や建造物はすべて破壊され、無双基地だけが残ったのです。」
ヤン・ラムは呆然とし、混乱した。
「全員……? そんな……ありえない!」
ルーシーは続けた。
「調査の結果、仙人たちが『宇宙法則』の力を使ったことがわかりました。それで人類は消されたのです。」
ヤン・ラムは少し落ち着きを取り戻し、尋ねた。
「では、他の宇宙種族はどうなんだ? 彼らは消えなかったのか?」
ルーシー:
「ええ、消えませんでした。」
ヤン・ラム:
「なぜだ?」
ルーシー:
「彼らは……降伏したからです。」
ヤン・ラムは力なく笑った。無力感と怒りが交錯する。
彼はベッドに横たわり、顔を覆った。
「皮肉だな。あの仙人ども……本当に最低だ。」
しばらくして、彼は勢いよく起き上がり、目を燃やした。
「外へ出る! 復讐だ!」
興奮した彼を、ルーシーが慌てて抱き止めた。ベンも足にしがみつく。
「ダメです! 今は行けません!」
ヤン・ラムは抵抗した。
「放せ! 外へ……!」
突然、淡い金色の光が彼の体を包んだ。
仙人の霊力が爆発し、ルーシーとベンを吹き飛ばしてしまった。
ヤン・ラムは愕然とした。
「今のは……仙人の力か?」
床に倒れた二人を見て、彼は急いで駆け寄り、助け起こした。申し訳なさそうに。
「大丈夫か? すまん、ちょっと取り乱した。」
ルーシーとベンは彼をベッドに戻した。
ヤン・ラムは自分の手を見つめ、二人に言った。
「見たか? 俺、仙人の力を使ったぞ。」
ルーシーとベンは驚かなかった――彼らが作った体だからだ。
ルーシーは穏やかに言った。
「本当に復讐を望むなら、まずは自分を鍛え直してください。最初からやり直しましょう。一緒に、頑張りましょう。」
ヤン・ラムは頷き、決意を固めた。
「わかった。一緒にやろう。」
ふと、彼は思いついた。
「あ、そうだ。なぜ他のみんなを蘇らせないんだ? 記憶はあるんだろ?」
ルーシーとベンは沈黙した。
ルーシーは悲しげに答えた。
「できません。」
ヤン・ラム:
「なぜだ?」
ルーシー:
「人間の記憶だから……それも抹消されてしまったのです。」
希望が砕け散り、ヤン・ラムは悄然とした。
「じゃあ……俺だけが残ったのか?」
ルーシー:
「様が最後に消えた瞬間、私は慌てて記憶を保存しました。そして、消滅前にサフィア星人のフォーマットへ変換したのです。間に合ったのは、それだけでした。」
ヤン・ラムは顔を覆い、絶望した。
「もう……希望がないのか……」
ルーシーは落ち着いて肩に手を置き、慰めた。
「実は、五人の至高仙人も、宇宙法則を使った代償で消滅したそうです。今後、あの力を使うことはないでしょう。代償が大きすぎるから。」
ベンが明るく飛び込んできた。
「そうだよ! だからまだチャンスはあるんだぜ! 様は人類唯一の無極大将だもん。あのクソ仙人どもなんて、へっちゃらさ! な、ルーシー姉さん?」
ヤン・ラムは微笑み、二人の温かさに心が和んだ。
彼は二人の手を握り、力強く言った。
「二人が俺を励ましてくれてるのはわかってる。心配するな。俺はわきまえてるよ。来るべきものは来る。やるべきことはやる。」
三人は手を重ね、声を揃えた。
「人類は永遠に!」




