おっさんと僕とマクダフ ポーシャの町で その1
騒ぎは、あれだけ激しかったのに、引く時はあっさりだった。
竜騎士団反対だの、ケムトレイルだのと叫んでいた村人たちは、いつの間にか散り散りになり、門の前には何事もなかったかのような空気が戻っていた。
「……終わりかよ」
御者が呆れたように呟く。
「こんなもんだ」
おっさんは興味なさそうに言った。
「騒ぐだけ騒いで、気が済めば解散だ」
門の兵士たちは疲れた顔をしていたが、検問自体はすぐに再開され、僕たちの馬車もようやく中へと通された。
門をくぐった瞬間、空気が変わった。
「うわ……」
思わず声が出る。
町の名前は――ポーシャ。
僕がこれまでいたアーデンより、明らかに大きい。
道幅も広く、人の数も多い。
露店だけでなく、しっかりとした建物の店が並び、看板の数も桁違いだった。
「すごい……」
「田舎から来た子どもみてぇな反応してんな」
マクダフが笑う。
「う、うるさいよ……!」
でも実際、その通りだった。
さらに目立つのは――兵士の数だ。
王国の紋章をつけた兵士たちがあちこちに立ち、巡回している。
その中には、明らかに装備の違う者たちもいた。
「あれが竜騎士団だ」
おっさんが顎で示す。
重厚な鎧に、どこか異質な気配。
普通の兵士とは明らかに違う。
「……さっきの人たち、あれに文句言ってたんだよね」
「そうだな」
「でも、なんか……強そうだね」
「強いぞ」
短い答えだった。
しばらく進むと、さらに賑やかな一角に出た。
音が違う。
笑い声、怒号、歓声、ため息――
いろんな感情が混ざった音が、建物の中から溢れている。
「……なんだここ」
マクダフがにやりとする。
「来ましたぜ旦那ぁ」
おっさんも少しだけ口元を上げた。
「ここだ」
建物の看板には、大きく装飾された文字が刻まれていた。
王国最大のギャンブル施設――その小規模支店バッサーニオ。
アーデンにはなかった類の場所だ。
「ギャンブル施設……?」
僕は思わずつぶやく。
「ここで金策するの?」
「そうだ」
「え、でも……運じゃないの?」
おっさんは首を振る。
「“運だけ”の場所なんてねぇよ」
マクダフが続ける。
「むしろ逆ですぜ旦那ぁ……ここは“仕組み”を知ってる奴が勝つ場所だ」
中から歓声が上がる。
「当たったぁ!!」
その直後、別の場所では怒鳴り声。
「ふざけるな!全部持ってかれたぞ!!」
僕はごくりと喉を鳴らした。
さっきの銀行とは、また違う――
でも同じくらい“危ない匂い”がする場所だった。
「ジョン」
おっさんが静かに言う。
「次はここで稼ぐ」
僕はもう一度、その建物を見上げた。
(……また、新しいやり方か)
さっきの“バンステ金策”のことが頭をよぎる。
思ったより簡単だった。
そして――思ったより、あっさり慣れそうだった。
「……うん」
気づけば、迷いはあまりなかった。
「やるよ」
マクダフが笑う。
「いいですなぁ旦那ぁ……どんどん染まってきてますぜ」
おっさんは何も言わず、先に歩き出した。
僕たちは、そのままギャンブル施設の中へと足を踏み入れた。
ギャンブル施設の奥へ進むと、空気が一変した。
熱気と、獣の臭い。
そして――歓声。
「いけぇぇぇ!! 噛み砕け!!」
「押し切れ! 押し切れ!!」
「外れだクソがぁぁ!!」
円形の巨大な闘技場。
その中央で、魔物同士がぶつかり合っていた。
「……これが」
僕は思わず息をのむ。
「モンスターコロシアムだ」
おっさんが答える。
檻の中で戦う魔物。
それを囲む観客。
そして、その勝敗に金を賭ける連中。
アーデンでは見たこともない光景だった。
「ここではな」
おっさんが低く言う。
「冒険者や、金持ちが抱えてるテイマーが魔物を戦わせる」
マクダフが続ける。
「勝てば大金。負ければすっからかん……分かりやすい世界ですぜ」
「じゃあ……僕たちも?」
「出る」
即答だった。
「一攫千金を狙うぞ。」
僕は闘技場を見つめる。
(……すごい)
単純に、そう思った。
でも同時に、違和感もあった。
「……あれ?」
一方的すぎる試合が目に入る。
片方の魔物が、明らかに動きがおかしい。
避けられるはずの攻撃を受け、反撃も遅い。
観客は気づいていないのか、それとも気にしていないのか――ただ騒いでいる。
「気づいたか」
おっさんが言う。
「え?」
「“出来てる”」
「……なにが?」
マクダフがニヤリと笑った。
「勝ち負けですぜ」
一瞬、意味が分からなかった。
「え……?」
「八百長だ」
おっさんが淡々と言う。
「ほとんどの試合は、最初から決まってる」
「……え?」
僕はもう一度、闘技場を見る。
さっきの魔物。
たしかに、わざと負けているようにも見える。
「でも……なんで?」
「金だ」
即答だった。
「仕組みを知ってる奴だけが勝つ」
マクダフが肩をすくめる。
「知らない奴は、ただの養分ですなぁ」
観客席からまた歓声が上がる。
誰かが大当たりしたのか、飛び跳ねている。
その横で、別の誰かが頭を抱えていた。
僕は小さくつぶやく。
「……じゃあ、勝てるってこと?」
おっさんが少しだけ笑った。
「やり方次第だな」
「どうするの?」
「まずは駒がいる」
「駒……?」
「魔物だ」
マクダフが言う。
「旦那ぁの魔物を用意しないと、そもそも舞台に上がれませんからね」
おっさんが続ける。
「だから――捕まえに行く」
僕は目を丸くする。
「え、僕が?」
「他に誰がいる」
「でも……僕、まだそんな強い魔物とか――」
「強さはいらねぇ」
おっさんははっきり言った。
「“使えるかどうか”だ」
その言い方が、少し引っかかった。
「……さっきの八百長と関係あるの?」
マクダフが笑う。
「勘がいいですなぁ旦那ぁ……」
おっさんは短く言う。
「勝ち負けが決まってるなら――」
一瞬、間。
「そこをズラせばいい」
「ズラす……?」
「決まってる流れを、崩す」
その言葉の意味は、まだ完全には分からなかった。
でも――
なんとなく、嫌な予感がした。
闘技場では、また一匹の魔物が倒れた。
歓声が上がる。
でも僕には、それがただの“戦い”には見えなくなっていた。
「……ねぇ」
僕は小さく聞く。
「これってさ……」
おっさんが先に答えた。
「ジョン次の金策はこれだ。」
それだけだった。
僕たちは、そのままコロシアムを後にする。
次の目的は――
魔物を捕まえること。
そして――
決められた勝敗を、壊すことだった。
ステータスのスキル一覧と所持金とアイテム袋内アイテム
武器スキル類
刀剣スキル 18
盾スキル 3
戦闘技術スキル 11
生産スキル類
料理スキル 13
その他
鑑定スキル 0.3
所持金
671g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚) 蛇肉たくさん ???のスクロール6枚 武器破損した剣 木剣2本 ???の指輪(バンステ金策で入手)
装備品
水トカゲの手袋(呪)骨護札の首かざり
奴隷のマクダフ




