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おっさんと僕とマクダフ 乗り合い馬車で その1

 おっさんが用意してくれていた乗り合い馬車のお客さんは僕たちだけだった。

 ガタガタと揺れる乗り合い馬車の中。

 木製の座席は固く、走るたびに体が跳ねる。

 僕は息を整えながら、ずっと握りしめていた手をゆっくりと開いた。


 そこには――あの時、掴んだ指輪があった。


「旦那ぁ……それが今回の“成果”ってやつですかい……?」


 マクダフがニヤつきながら覗き込んでくる。


「う、うん……たぶん、そう……」


「たぶん、じゃ困るんだがな」


 おっさんが腕を組んだまま、低い声で言った。


「まず確認だ。ジョン、それを“見ろ”」


「え?」


「鑑定だ。低レベルでもいい。とにかく見ろ」


 僕は慌ててステータス画面を開き、指輪に意識を集中させた。


 ――すると。



 アイテム名:???の指輪(装備品)

 品質:???

 防御力 ???

 耐久度:?/?

 効果

 ???

 適応???

 売却価格:???


 説明

 古びているが、???を行うために必要となる???の代物。

 所持・使用には???あり。

 ????????????



「な、なんだこれ……何も分からない……」


「ククッ……」


 おっさんが笑った。


「当たりだな」


「当たり……?」


「鑑定で見えない装備は、だいたい“上物”だ。しかも“適応型”って書いてある」


 マクダフが口を挟む。

 鑑定スキルがまだ完璧でない僕と内容が少し違っているようだ。


「旦那ぁ、それはつまり……使う人間によって性能が変わるってことですぜ……」


「へぇ……そんなこと僕には分からなかったよ。」


 おっさんは少しだけ身を乗り出して言った。


「だがなジョン。問題はここからだ」


「え?」


「それ、“ただの指輪”だと思うか?」


 僕はゴクリと喉を鳴らした。


「……違うの?」


「違うな。さっきのあの様子、覚えてるだろ?」


 あの男の顔が、頭に浮かぶ。


 血走った目。震える手。

 あれは――ただの荷物を預ける人間の顔じゃない。

 僕は銀行を利用しだしてまだ数日だがあんな顔や様子の人を見たことがなかった。


「命より大事そうだったか……?」


「……うん」


「つまりだ」


 おっさんはニヤリと笑った。


「それは“誰かが絶対に失いたくなかった物”だ」


 マクダフも続ける。


「そして旦那ぁ……そういう物ってのは、大抵ロクでもない代物ですぜ……」


「ろ、ロクでもないって……」


「呪い、追跡、契約、封印……まあ色々ある」


 僕は思わず指輪を落としそうになった。


「ちょ、ちょっと待ってよ!そんなの持ってて大丈夫なの!?僕はもう手に傷があるんだよマクダフ!」


「落ち着け」


 おっさんは冷静だった。


「まずは試す。だが――」


 一瞬、間を置く。


「ここじゃない」


 乗り合い馬車の外を見ると、町はもう遠くなっていた。

 道は森へと続いている。


「安全な場所で、慎重にやる」


「それまでは?」


「装備するな。絶対にな」


 マクダフが笑いながら言う。


「旦那ぁ……間違っても“今すぐ装備してみよう”とか思わないでくださいよ……?」


 僕は無言で指輪を握りしめた。


 ――正直、少し思っていた。


「それともう一つだ」


 おっさんが続ける。


「今回の金策、“成功”だと思うか?」


 僕は少し考えてから答えた。


「……うん。たぶん」


「甘いな」


 即答だった。


「え?」


「成功かどうかは、“追われてないか”で決まる」


 その瞬間。


 馬車の外から、かすかに音がした。


 遠くで――何かが走る音。


 マクダフがゆっくりと笑う。


「……どうやら旦那ぁ、“後半戦”が始まりそうですぜ」


 僕は無意識に指輪を強く握った。


 この指輪が、何なのか。


 それを知る前に――

 僕たちは、もう逃げる側に立っているのかもしれなかった。




 後半戦は僕が思ったよりずっと早かった。

 馬車の中は思ったよりも静かだった。

 揺れに合わせて荷台の木が軋む音と、馬の足音だけが一定のリズムで続いている。


 だが、その静けさは長くは続かなかった。


 遠くから、かすかに怒号が聞こえてくる。


「――止まれ!! その馬車、止まれぇ!!」


 御者が振り返る。


「……なんだぁ? この時間に」


 おっさんは視線だけで外を確認し、すぐに小さく舌打ちした。


「来たか」


 マクダフが笑う。


「旦那ぁ……ずいぶんお早いお迎えですなぁ」


 声が近づく。


「その馬車だ! 検問だ、止まれ!!」


 御者が慌てて手綱を引こうとする。


「お、おい! 何かやったのかお前ら――」


「そのまま走れ」


 おっさんが低く言う。


「で、でもよぉ――」


「止まったら面倒になる。走れ。”アレ”をやっただろ行け!」


 短い沈黙。


 御者は歯を食いしばって手綱を打った。


「……くそっ、知らねぇからな!!」


 馬車の速度が一段上がる。


 後ろから馬の蹄の音が増えた。


「に、ににに逃がすな!! おおお、追え!!」


 マクダフが小さく笑う。


「いやぁ、いいですねぇ。この感じ……久しぶりですぜ旦那ぁ。」


 おっさんは外を見たまま言う。


「ジョン、顔は出すな。下見とけ」


「う、うん……!」


 僕は言われた通り身を低くする。

 心臓の音がうるさい。


 でも――


(……あれ?)


 思ったより、怖くない。


 さっきまでのあの銀行の中の方が、よっぽど息が詰まりそうだった。

 僕はずっと???の指輪を手の中に握ったままだ。


「右だ。次の分かれ道で右に曲がれ」


「こんな夜道で見えるかよ!」


「見える」


 短い言葉。


 御者は半ばやけくそで手綱を切った。


 馬車が大きく揺れる。


 後ろから怒声。


「分かれたぞ! 右だ!!」


 マクダフが外をちらっと見て、肩をすくめた。


「三、いや四ですかね。思ったより少ない」


「十分だ。振り切れる」


 そのまま数分。


 馬車は細い道を何度も曲がり、やがて背後の音は遠ざかっていった。


 静寂。


 御者が荒い息を吐く。


「……な、なんだったんだ今のは……」


 おっさんは何も答えない。


 マクダフだけが軽く笑った。


「ちょっとした、忘れ物ですぜ」


 それ以上、誰も何も言わなかった。


 しばらくして、完全に追手の気配は消えた。


 僕はそっと顔を上げる。


 外はもう、何事もなかったかのように静かだった。


(……あれ?)


 本当に、それだけだった。


 もっとこう――

 捕まったらどうしようとか、

 命が危ないとか、

 そういうのを想像していたのに。


「……なんか、思ったより簡単だったね」


 思わず口に出た。


 マクダフが吹き出す。


「ははっ、旦那ぁ……それ言っちまいますか」


 おっさんも小さく笑った。


「最初はそんなもんだ」


「え?」


「うまくいく時は、驚くほどあっさりいく」


 僕は自分の手を見る。


 さっき掴んだままの指輪が、まだそこにある。


 でも――


(……まぁ、いいか)


 ちゃんと取れた。

 ちゃんと逃げられた。


 それで十分な気がした。


 さっきまであんなに気になっていたのに、

 今はもう、その指輪のこともそこまで大したものには思えなかった。


 むしろ――


(またできそうだな)


 そんな考えの方が、自然に浮かんでいた。


 マクダフがニヤリとする。


「旦那ぁ……いい顔になってきましたねぇ」


 おっさんがぼそっと言う。


「慣れ始めたな。それはいい兆候だぞジョ~ン。」


 馬車はそのまま、夜の街道を進んでいった。


 僕はもう戻れないのだと思った。

 普通の冒険者にはもう。

 後、今更だが、宿屋で一週間分を先払いして支払ったお金を返してもらってないことに気づいたが、もう手遅れのようだ。

ステータスのスキル一覧と所持金とアイテム袋内アイテム

武器スキル類

刀剣スキル 18

盾スキル 3

戦闘技術スキル 11

生産スキル類

料理スキル 13

その他

鑑定スキル 0.3


所持金

671g(銀行預け金:11,250g(銀貨11枚、銅貨2枚、半銅貨5枚) 蛇肉たくさん ???のスクロール6枚 武器破損した剣 木剣2本 ???の指輪(バンステ金策で入手)


装備品 

水トカゲの手袋(呪)骨護札の首かざり 

奴隷のマクダフ


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