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ピンク髪

死んだ魚の話

作者: さいべり屋
掲載日:2025/12/31


死んだ魚を見ていた。


綺麗に並んだその腹が、朝日を受けてきらきら光るのを、

垂涎の眼で見つめていた。


たくさんの人間の足が、死んだ魚の前を通り過ぎ、わたしは何度も追い払われた。


次の日にはまた、新しい死んだ魚が並び、わたしも何度も舞い戻った。




わたしはいつも腹を空かせて、市場に並ぶ魚を見ていた。


腹を空かせて、悲しくて。


淋しいまま死んで。


目が覚めたら、人間になっていた。


前のわたしが猫だったと知ったのは、ずっと後のことだ。




わたしは美しい。


豊かな黒髪は、波打つように艶やかで、

唇は、薔薇のように紅い。


人々はわたしを誉めそやす。


そんなとき、わたしは自分に値札が付けられて、

市場に並ぶ魚になったように感じた。


わたしはもう腹を空かせてはいない。


わたしはもう寒くはないし、悲しくもない。


心だけが猫のままで、淋しいままで、


あの市場の前で膝を抱えている。




わたしは髪をピンクに染めて、唇にピアスの穴を空けた。


わたしは市場に並ぶ魚ではなくなった。


人々はわたしを、撥ね物の魚のように扱った。


結局は、死んだ魚のままだった。




いちどだけ、気紛れな漁師が、わたしに撥ね物の魚をくれた。


いちどだけ、巨人のような手がわたしを撫でた。


その温もりだけを憶えている。




引き摺るように歩く帰り道の路地裏で、目の端に何かが蠢いた。


猫だ。


飢えて痩せ細り、目やにで瞼が半ば塞がっている。


もうすぐ死ぬ、猫だ。


「なんだおめえ、腹ァ減ってんのか」


あの時の大きな手を思い出し、わざと荒っぽい口調で声をかけた。


買い物袋の中から魚を取り出そうとして、戻した。

ハンカチに牛乳を浸して、猫の口元に持っていく。



猫は、案外力強く吸い付いた。



この猫は、明日にも死んでしまうかもしれない。


けれど、今この目に映るわたしは、市場に並んだ魚ではない。


「おいで」


わたしは大きくもない、ゴツゴツとしていない。赤く塗られた爪の手で猫を抱いた。



小さなぬくもりを感じながら、わたしは家路を急いだ。




あなたの新年にも、小さな光がありますように。

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