079 臭いサンドイッチ
「ご苦労だった。これで『嘆きの地下墳墓』は完全攻略だ。アベルとジゼルよ、お前たちは私の予想以上の働きを見せてくれた。素晴らしい戦いぶりだったぞ。歴代でも最高のタイムでの攻略ではないか? お前たちの活躍、教員たちにもちゃんと報告しておこう」
先頭に立っていたフェルディナンが、オレたちに振り返って言った。
ボス部屋の奥にある小部屋。部屋の床の中央には、幾何学的な模様が輝いていた。
ダンジョンの最奥にあるこの部屋には、ダンジョンの入り口まで戻るワープポータルがある。床で輝いている魔法陣みたいなのがそれだ。
「これの仕組みがわかれば、大きく国が発展するのだがな……」
ポツリと呟くフェルディナンの声が聞こえた。
ワープポータルのことだろうか?
まぁたしかに、どこでも好きな所にワープができればかなり便利だけど、そんなものは『ヒーローズ・ジャーニー』の世界にはなかった。
まぁ、その代わりに飛空艇があるわけだが。
でも、飛空艇のエンジン部分は作ることができず、出土した先史文明の遺産をそのまま使っている。なので量産ができないのだ。
たしか、その国の国力もいくつ飛空艇を所有しているかで決まるって設定があったからなぁ。剣や魔法の世界に空飛ぶ乗り物があったら強いのは目に見えている。
でも、フェルディナンがワープポータルに興味を持つのもわかるなぁ。もしワープポータルが実用化できたら、それこそ歴史が変わる大発明だろうからな。
「まあいい。これより帰投するぞ。全員、この光る床に乗るんだ」
いそいそとワープポータルに乗ると、床に描かれた模様が輝きを強めた。
「うお!?」
「ええ!?」
そして、見えていた景色がぐにゃりと歪み、瞬間、目の前が強い光で真っ白になる。まるでエレベーターが下降するような浮遊感を感じた。
思わず閉じてしまった目を開けると、そこはもう『嘆きの地下墳墓』の入り口の門の前だった。
ゲームでは何度も見てきたけど、実際に体験するとワープポータルってこんな感じなんだな。一度だけなら大丈夫だけど、何度も乗ると酔っちゃいそうだ。
「よし、全員いるな? これで一年生のダンジョン実習を終了する。解散。エリクは教員への報告のために付いて来てくれ」
「かしこまりました。じゃあな。お前らの活躍はちゃんと伝えとくぜ」
「おつかれさま。すごかったわよ」
「将来有望だな」
フェルディナンとエリクが去ると、残りの上級生たちも行ってしまった。
この場に残されたのは、オレとジゼルだけだ。
「まさか、昼前に終わるとは思わなかったな……」
「そうね……」
ダンジョン攻略が長引いた時のために、オレたちは一応昼食を用意していた。
しかし、結局はダンジョンで昼食を取らずに攻略してしまった。背中に背負ったバックパックには、サンドイッチが入りっぱなしだ。
まぁ、あんな臭いダンジョンの中で昼食を取ることにならなくてよかったかもしれない。完全に便所飯の上位互換だもんなぁ。できれば遠慮したい。
というか、散々ダンジョンの臭気に塗れた昼食はどうすればいいんだろう?
食べるのか?
できれば食べたくないんだが……。でも、捨てるなんてもったいないもんなぁ。
「ねえ? このあとどうするの?」
バックパックのサンドイッチをどうしようか悩んでいると、ジゼルが話しかけてきた。
「とりあえず教室に行ってみるか?」
「わかったわ」
オレとジゼルはとりあえず教室へと向かう。その途中でマスクを外すと……。
「ぷはっ! 空気うめー!」
「ほんとね!」
空気ってこんなにおいしかったんだ。感動するぜ。
空気のうまさに感動しながら教室の扉を開けると、誰もいなかった。フェルディナンも最高タイムとか言ってたし、まだみんなダンジョンの中かな?
「誰もいないのね?」
「そうだな」
静かな教室にく~とかわいらしい音が響き渡った。
「ん?」
振り返れば、ジゼルがお腹をポンポンと叩いていた。ジゼルの腹の音か。
「お腹減っちゃったわ。ここで食べちゃいましょう」
「ああ」
そんな感じでジゼルとサンドイッチを食べることになったんだが……このサンドイッチ、なんか臭い気がする……。
「これを食うのか……?」
「そりゃ食べるわよ。食べないともったいないでしょ?」
「それはそうだが……」
まるで気にすることなくサンドイッチを齧るジゼルを見て、オレも覚悟を決めてサンドイッチにかぶり付く。
「うーん……」
ちょっと臭い気もするが、味はよかった。
「それにしても、あなたって本当に強かったのね。ちょっと異常よ?」
「異常って……。それならジゼルも強いだろ?」
「そうかしら?」
そうじゃないかと思ってはいたけど、ジゼルってけっこう強かったな。思い切りもいいし、胆力もある。今回のダンジョン攻略では何度も助けられた。オレに合わせてくれるし、心強い味方だった。
「何度も助けてもらったからな。助かったよ」
「おだてても何も出ないわよ?」
そう言うジゼルはちょっと照れたようにサンドイッチで顔を隠していた。
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