076 『嘆きの地下墳墓』ボス戦②
あたし、ジゼルは奇跡を見た。
「はあああああああああああああああ!」
スケルトンメイジの魔法が飛んでくるのに、止める暇もなく魔法の前に飛び出してしまったアベル。
その力強い声は、肌がビリビリ感じるほど部屋に響き渡っていた。
たしかにアベルは魔法が斬れるわよ? でも、二つ同時なんて無理よ!
魔法が斬れたから、みんなに褒められたから調子に乗ってしまったの?
男の子ってすぐ調子に乗って危ないことするんだから!
でも、あたしの怒りにも似た心配は杞憂に終わった。だって、アベルったら本当に魔法を二つとも斬っちゃうんだもの!
魔法に照らされた明かりの中、アベルの剣が二度閃き、その瞬間、まるで夢だったかのように炎と氷の魔法が消えてしまった。
「ぇ……」
あまりに驚き過ぎて、口から変な声が出ちゃったわ。
「ほう、素晴らしい。ぜひとも我が配下に欲しいな……」
後ろから、フェルディナン様の小さな呟きが聞こえた。その声はお世辞なんかじゃなくて本気の呟きに聞こえた。
ずるい。
あたしもいいところを見せれば、フェルディナン様の配下になれるの?
でも、あたしはただの平民で、アベルはお貴族様だ。やっぱり無理なのかな?
でもでも、あたしだってフェルディナン様のお役に立ちたいし、傍にいたい。
もうフェルディナン様に「平民でもいいから私の傍にいてくれ」って言わせてみせるんだから!
そのためには、アベル以上に活躍しないとね!
「よしっ!」
あたしは両手で頬を叩いて気合いを入れると、一番奥に見える色白のおっさん目がけて走り出した。
あのボロボロの服を着たのが、あたしたちの討伐対象であるワイトらしい。パッと見、人間のようにも見えるけど、見ているだけで生理的嫌悪感がある。
「アベル、行くわよ!」
「おう!」
アベルに声をかけると、小気味いい返事が返ってきた。
あたしたちとワイトの間には、何も障害がない。先輩たちが開けてくれたのだろう。
「はああああああああああ!」
走ってきたアベルはあたしを追い抜くと、そのままワイトに向かって突進する。
あたしも全力で走っているのに、あっさりとアベルに抜かれてしまった。男の子は女の子より身体能力が高いなんて話を聞くけど、あたしは並みの男の子より速いはずなんだけど……。なんだか悔しいわね。
「せいッ!」
あたしの前方でアベルとワイトがぶつかり合う。アベルがお得意のシールドバッシュをワイトの顔に叩き込んでいた。
「うわー……」
ワイトが人間のように見えるからか、とても痛そうだ。首の骨が折れたのか、ワイトの首が変な方向に曲がっている。
でも、ワイトはやっぱりただの人間ではなかった。
ワイトは首が折れたことなんてお構いなしに、アベルに抱き付くようにして、その手に生えた長い爪でアベルのことを刺そうとしていた。
「アベル!」
「わかってる!」
アベルがあたしの声に応えるようにバックステップを踏んだ。
あたしはアベルと入れ替わるようにワイトに向けて突進する。
「えいや!」
抱き付き攻撃を空振りし、隙だらけのワイトの脇腹にワンツーを叩き込む。衝撃でワイトの体が跳ねるけど、そこまでダメージを与えられていないみたいだ。
「やあ!」
あたしは追撃の右アッパーを垂れ下がっていたワイトの顔にぶち込む。
すると、ブチブチと音がして、ワイトの首が飛んで行ってしまった。頭を失ったワイトの千切れた首から、大量の瘴気が吹き荒れる。
「くっ!?」
ひどい臭い。少し吸っちゃった……。喉や胸が急激に痛みを訴え、まるで内側から燃やされているように熱くなる。
「げはっ! かはっ!」
つい反射で体をくの字にして咳き込んでしまう。
しまった! 敵の前でこんな無防備な姿をさらしてしまうなんて!
苦しい中、咄嗟に飛び退こうとするけど、足に力が入らない。
「うおおおおおお!」
もう意識が飛びそうなその時、アベルの雄叫びが聞こえた気がした。
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