072 『嘆きの地下墳墓』③
真っ暗な石造りの通路にぴちゃぴちゃという水音、そして、なにか湿ったものを引きずるような思い音が反響して響き渡る。
何の音だろう?
その次の瞬間、襲いかかってきたのは、おぞましいまでの刺激臭だった。
「うぷっ!」
「なにこれくっさ!?」
ジゼルの悲鳴の通り、かなり臭い。もう臭いを通り越して痛さを感じる臭いだ。
ようやく『嘆きの地下墳墓』の臭いにも慣れてきたというのに、この仕打ちはひどい。
「気を付けろ! ゾンビが来るぞ!」
「ゾンビ……?」
フェルディナンの警戒する声に、反射的に盾を構える。
ひどい臭いで止まりそうになる頭を必死に回す。
ゾンビ……。そうだ。この『嘆きの地下墳墓』には、スケルトンの他にもゾンビが出るんだった。
その時、通路の先のT字路から大人の男のような人影が現れた。その数は三。
まるで病毒に侵されたような緑色の肌。申し訳程度に緑の肌を覆うのはボロボロの衣服だ。そして、ボロボロなのは衣服だけではない。男の緑の肌も虫に喰われたように穴が空き、真っ黒で粘着質な液体がポタポタと零れている。一番手前の男など、腹から臓物が顔を出し、片目が飛び出て、破れた頬のあたりででぷらんぷらん揺れていた。
もう生きている者の姿ではない。歩く死体。ゾンビだ。
ゾンビが目に映った瞬間、一層悪臭がひどくなったような気がした。胃から込み上げてきた物を必死に飲み下す。
「アベル、ジゼル、前衛は任せたぞ!」
フェルディナンの声に大声で反対したい気分だ。
あんな触れば病気になりそうな死体とやり合う?
正気とは思えない。
だが、やらなくてはならない。
「くそ!」
「あーもう!」
オレが悪態を付いて走り出すと、オレの後を追うようにジゼルも走り出した。
オレだってできれば御免こうむりたい気持ち満々なのに、ジゼルも案外思い切りがいいね。好感度爆上がりだよ。
ゾンビは動くための筋肉も腐っているのか、その動きは緩慢として鈍かった。特に危険を感じることもなく、その懐に入ることができた。
「うへ……」
近くに寄れば、より強い悪臭に眩暈を起こしそうになる。しかも、ゾンビの体の中で蠢く虫の姿まで目視できてしまって本当に気持ち悪い。
「であっ!」
いつものように先頭のゾンビの顔にシールドバッシュを見舞うと、ぐちゅりと湿った音を立ててゾンビの頭が飛んでいった。
「え……?」
まさかこんなに抵抗なく頭が飛んでいくなんて思わなくて、オレの体は固まってしまった。
固まった体に、頭を失ったゾンビが抱き付くように倒れ込んでくる。
「うお!?」
途端に感じるゾンビの冷たく冷めきった体と重さ。そして、マスクを貫通してくる発狂しそうなほどの悪臭と手足の痺れ。
「この……」
ゾンビの体を振りほどこうとしても、体が痺れて上手く動けない。ゾンビの爪がオレの腕に突き刺さり、先ほどまでの緩慢な動きから想像できないほど強い力でオレに抱き付いてくる。
「あひ……」
「やあああああ!」
そのままゾンビに押し倒されそうになった時、ふっと体が軽くなった。ジゼルだ。ジゼルがオレにのしかかっていたゾンビを蹴り飛ばしてくれたのだ。
ゾンビは汚らしい汁を撒き散らしながら吹っ飛び、通路の壁にぶつかると、ボフンッと白い煙になって消えた。
「あ……」
体が上手く動かず、尻もちを付いたオレは、綺麗に足を振り上げたままのジゼルを下からぼーっと眺めていた。
ジゼルの体にはゾンビの腐敗汁が付着していたが、それも白い煙となって消える。たぶん、ゾンビを倒したからだろう。
だが、ゾンビを倒したというのにオレの体には力が入らず、立ち上がることもできないでいた。
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