060 朝練
「おはよう! じゃあ、今日の朝練を始めるぞー」
まだ太陽も顔を出す前の薄暗い早朝。学園のグラウンドにはオレ、エロワ、ポール、シャルリーヌ、アリソン、ブリジットの六人の人影があった。
エロワとポールは連日の朝練で早起きに慣れたのか、意外とシャキッとしている。
女子の方は、アリソンはシャキッとしているが、シャルリーヌとブリジットはまだまだ眠たそうだ。
「まずは、準備運動からだ」
いきなり体を全力で動かすと、体が驚いてしまう。それは怪我につながりやすい。まずは準備運動からなのだが、この世界には準備運動という概念がまだない。
そこで、オレは前世でも散々やってきたラジオ体操をこの世界に広めることにした。
ラジオ体操は、短時間で効率よく体を使える準備運動にはもってこいの体操だ。
「シャルリーヌたちは初めてだけど、オレをよく見て一緒に体を動かしてくれ。まずは大きく背伸びの運動から。いっち、にー、さんっ、しー」
あたふたと見よう見まねでラジオ体操するシャルリーヌたちはとてもかわいらしかった。動画にして保存したいほどだ。
ラジオ体操が終われば、本格的な朝練の始まりだ。
手始めに、オレとエロワ、ポールとブリジット、シャルリーヌとアリソンの三組に分かれて模擬戦である。
「どりゃっ!」
裂帛の気合いの乗ったエロワの槍を盾で受け流す。
エロワの槍は、オレの体の右側の空間を虚しく穿った。
その隙にオレはエロワとの距離を詰める。
槍はたしかにその間合いの長さが凶悪な武器だが、一度躱して懐に入ってしまえば立場は逆転する。今度はその長さが仇になって一気に弱体化するのだ。
ザリッと足裏で砂利が弾けるのを感じながら、オレはエロワの懐に飛び込もうとする。
しかし、エロワは冷静だった。渾身の一撃を盾で受け流されるのを見るや否や、バックステップを踏んでオレから距離を取ろうとする。
さすが、エロワも辺境の戦士だな。それなり以上に鍛えているらしい。
だが、前進と後退では体の作り上、どうしたって前進の方が速いに決まっている。
加速していく意識の中、急速に接近するオレとエロワ。
もうすぐでオレの剣の間合いというところでエロワが動いた。
このままでは槍の穂先を戻すのが間に合わないと判断したのだろう。エロワは槍を大きく回転させて、石突を跳ね上げた。
石突は恐ろしい勢いでオレの顎を狙う。
オレは咄嗟に体を後ろに逸らし、ボクシングのスウェーのように石突を回避した。
今のは危なかったな。ヒヤリとさせられた。
そして、後ろに逸らした体をまるでバネ仕掛けの人形のように前へと突き出す。
上半身の筋肉を最大限使った突きを放ち、エロワの首の前で剣をピタリと止めた。
オレの勝ちだ。
「くっそー! また負けた!」
エロワの悔しそうな声が、朝日に照らされたグラウンドに響き渡る。
「俺の渾身の突きも軽く流されるしよ。その後の石突とか絶対当たったと思ったのに綺麗に避けやがって。お前の体はどうなってんだ?」
「あれにはヒヤリとさせられたよ。やるじゃん」
「その上から目線が気に食わねえんだよ」
エロワに軽く胸を叩かれる。
「そういうわけじゃないんだがなぁ」
「ちっ」
まぁ、エロワも本気で怒っているわけじゃない。軽いじゃれ合いのようなものだ。
「しっかし、お前の得物って大剣じゃないんだな。あのガストン・ヴィアラットの息子ならてっきり大剣使いかと思ったのに」
大剣か。たしかに、父上に直接大剣を教わるのは大きなメリットかもしれないな。
「たしかに大剣の攻撃力は魅力的だけど、オレは神聖魔法が使えるからな。敵を倒すよりも最後まで倒されないことの方が重要なんだよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんさ」
そう言いながら、オレは他のペアの模擬戦へと視線を走らせた。
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