056 決闘の理由
「バカな……。そんなバカな……。三年生だぞ? エルネスト先輩だぞ? なんで勝てるんだよ……」
闘技場の隅っこで俯いてブツブツとしゃべっているテオドール。その姿は先ほどまでの憎たらしい態度ではなく、ひどく哀愁が漂っていた。
「テオドール」
「ひっ!?」
オレが声をかけると、テオドールはビクッと顔を上げて悲鳴のような声をあげた。
「約束は覚えているな?」
「くっ! お、覚えている……」
「後ほどコランティーヌ先生から辺境伯に詳細が送られるだろうが……。お前自身がしなくちゃいけないものがある」
「俺が……?」
「ああ、お前はオレの父を侮辱した。訂正と謝罪を求めるんだが……」
周りを見れば、シャルリーヌたちだけではなく、闘技場にいた人々がこちらを見ている。こんな大勢の中で土下座を求めるのはさすがにかわいそうな気がする。
「土下座はしなくていい。ただ、誠心誠意謝ってくれ」
「慈悲のつもりか……?」
「そんなつもりはない」
「ちっ。わかった……」
テオドールはオレに向き直る。正面から見たテオドールは、なんだか今にも泣きそうな顔をしていた。
「アベル、お前のお父上をバカにして悪かった……」
そう言って、テオドールはちょこんと頭を下げた。
「オレはお前を許そう、テオドール」
オレはテオドールに右手を伸ばす。仲直りの握手だ。
「ふんっ」
テオドールは鼻を鳴らしながらも、オレの手を握った。
テオドールが本当に反省しているのか、オレにはわからない。
でも、謝っている相手をいつまでも責めるのは辺境の男じゃない。
こうして、テオドールが父上を侮辱したことから始まった決闘騒動は終結した。
そして、テオドールの尋問が始まる。
オレとしては、今からが本番だ。
さすがに大勢の目がある場所で前世のことを訊くのはリスクがあるな。
オレとテオドールは、闘技場の中の一室に入った。テーブルはなく、椅子や武器、防具がたくさん置かれていた部屋だ。倉庫かな?
「テオドール、オレはお前に訊きたいことがある。正直に答えてくれ」
「わかっている。もうどうにでもしろ……」
この部屋にはオレとテオドールしかいない。シャルリーヌたちにも遠慮してもらった。
「テオドールは、前世の記憶があるか?」
「はあ? お前は何を言ってるんだ?」
オレとしてはド直球に訊いてみたのだが、テオドールはわけがわからないといった表情だ。
オレはテオドールの表情をジッと見る。
嘘は吐いてなさそうだが……。
わからんな。次の質問にいこう。
「お前はなんでオレに絡んできたんだ? お互い、初対面だろ?」
本来ならば、テオドールが絡むのはオレのようなモブではなく、主人公だったはずだ。
なぜゲームのシナリオ通りに動かなかったんだ?
「それは……」
「それは?」
テオドールは口ごもると視線を泳がせる。
「答えてくれ、テオドール」
テオドールがようやく重たそうに口を開いた。
「…………羨ましかったんだ……」
「羨ましい?」
「そうだ。俺はお前が羨ましかったんだ! なぜ辺境の者たちは俺ではなくお前と親しくするんだ? 俺は辺境伯の嫡子だぞ! 本来なら、俺こそが辺境の者たちの羨望を集める存在になるはずだった! それなのに……」
テオドールはやりきれない感情を昇華するように部屋の壁を殴り始めた。
「だから、取り戻そうと思ったんだ。アベルがちやほやされている理由が飛空艇なら、飛空艇を奪えばいいと思った。俺は火の魔法が使える。負けないと思ったんだ。その結果がこれだ……」
今度はしょぼくれたように肩を落として俯くテオドール。
なんとも子どもっぽい自己中心的な理由だと思った。
だが、考えてみれば、テオドールはまだ十二歳のガキなんだよなぁ。
まぁ、貰うものは貰うんだが。
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