050 マルゲリットに挨拶
完全なる勘だけど、たぶんここには転生者はいない。
もし転生者がいたら、塩唐揚げの単語に反応しただろうし、考えてみれば、ヴァネッサを見た時にオレにコンタクトを取ってくるはずだろう。
あれは単騎で国を亡ぼせるようなオーパーツだからね。オレならヴァネッサを取られた時点で降伏するよ。そうじゃなくてもどうにかして盗もうとするだろう。
そういう意味では一番怪しいのはテオドールということになるか?
あいつはゲームとは違う行動をとったし。でも、転生者にしては悪役貴族という自分の現状に焦っていない気がする。
「わからんな……」
まぁ、テオドールは要注意としておこう。
入学初日ということもあり、ホームルームの後はすぐに自由行動となった。
みんな席が近くの子と話したり、自分より高位の貴族へ挨拶したりしている。
オレも挨拶した方がいいのかな?
教室の一番奥。オレの視線の先には、人だかりができていた。
貴族たちが、この国の王女、マルゲリットへ挨拶をしているのだ。
オレも王国貴族の端くれだし、挨拶した方がいいよな。
「なあ、王女殿下にご挨拶しようぜ」
「そうだな」
「だなー」
声をかけると、エロワとポールが立ち上がる。ポールはなんの気負いもないようにぼうっとしているが、エロワはそのワカメのような髪を整え始めたりしていた。
まぁ、学園でもなきゃオレたち木っ端貴族にはまず会えない雲の上の人だからな。緊張しているのだろう。オレも少し緊張するしな。
王女へのあいさつのために並んでいる貴族たちの最後尾に並ぶ。
オレたちは貴族では最下位だからね。だから、挨拶の順番も最後なのだ。
長蛇の列もだんだん短くなり、ようやくオレの番が回ってきた。
目の前の椅子に座っているのは、ゲームで見た通り、豊かな金髪の少女だった。
マルゲリット王女殿下。ゲームのルートによっては男主人公と結ばれたり、女主人公のよき理解者となってくれるメインキャラだ。
シャルリーヌに初めて会った時ほどではないけど、やっぱりゲームでも見たキャラを目の前にすると感動するなぁ。
マルゲリットの後ろでは、シャルリーヌが控えていた。シャルリーヌはオレの視線に気が付くと、ウインクしてくれる。
かわいい! スクショしたい!
そう思いながら、オレはマルゲリットの前で跪いた。
「ガストン・ヴィアラット男爵の子、アベル・ヴィアラットです。以後お見知りおきを。マルゲリット殿下と同じ教室で勉学に励むことができるとは、これ以上ない喜びです。三年間、よろしくおねがいします」
「こちらこそ、よろしくおねがいいたしますね、アベル。先ほどの決闘での勝利は見事でした」
「ありがとうございます」
あの時は注意を払ってなかったけど、マルゲリットも決闘を見てたのか。
「さすがはあのガストン・ヴィアラット男爵の息子です。まさか魔法を斬るとは思いもしませんでした。辺境の者は武に優れるという話は本当だったのですね」
「父のことをご存じなのですか!?」
「ええ。ガストン男爵は、在学中の学園武術大会で三年連続優勝しているのですよ。素晴らしい腕前だったと聞いています」
「おぉ!」
オレも知らなかった父上の情報だ!
王族の記憶に残るような活躍をみせるとは、さすが父上だな。
しかし、在学中に三年連続武術大会で優勝ということは、父上は一年生の時から優勝していたのだろう。二年生や三年生の上級生を破っての優勝だ。インパクトがあったに違いない。
オレの当面の目標もこの武術大会での優勝にしようかな。
何か目標を持っていた方が生活にメリハリが付くだろうし。
「今後のアベルの活躍に期待していますね」
マルゲリットはニコリと微笑んだ。その後ろでは、シャルリーヌがコクリと頷いている。
オレの番は終わりということだろう。
「はっ! ありがとうございます! 御前、失礼します」
オレは深く頭を下げると、マルゲリットの前から移動する。
うーん。やっぱりオレは堅苦しいのは苦手だな。もっとフランクな関係の方がいい。
「そう思うだろ、エロワ?」
「何がだよ? ていうか、やっぱお前の父ちゃんすげーな。面識もないのにお姫様に名前覚えられてるなんて」
「だよな。やはり父上は偉大だ」
「だなー」
やっぱりオレにはエロワやポールと一緒に無駄話している方が性に合ってるよ。
「ねえアベル、この後時間があるなら学園の中を見て回らないかしら?」
そのままエロワとポールと雑談していたら、シャルリーヌがアリソンとブリジットを連れてやって来た。
学園の中の探索か。
ゲームの舞台になった学園を見て回るのは楽しそうだな。
「いいね! 行こうか!」
「ええ、行きましょう」
そのままシャルリーヌと一緒に学園回りに行こうとしたら、制服の袖が引っ張られた。
振り返ると、エロワが必死に自分の顔を指差していた。
エロワも来たいのか?
「なあ、エロワとポールも一緒にいいか?」
「アベルのお友だちよね? もちろんいいわよ」
その瞬間、エロワとポールがガッツポーズしていた。何なんだ?
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