106 『洞窟』②
「ここが階層ボスの部屋だな」
第一から第十階層をするっと抜けて、オレたちは第十階層の最奥、階層ボスの部屋の前までやって来ていた。
目の前にはレリーフの施された大きな鉄の扉があった。高さ三メートルはありそうなバカでかい両開きの扉だ。よく見れば、レリーフには牛のツノのようなものが描かれているのがわかる。ここのボスが牛頭の怪人、ミノタウロスだからだろう。
「早くいこうぜ!」
「腕が鳴るんだなー」
「待て待て」
さっそく扉を開けようとするエロワとポールを止める。
「その前に、一応確認だ。ここは第十階層の階層ボスの部屋の前だな? 階層ボスは何だったか覚えているか、ポール?」
「ミノタウロスなんだなー」
「正解だ。そのミノタウロスだが、図体がデカくて力が強い。おまけにその体は硬いからあまり物理ダメージは通らない。どうするのが正解だと思う、アリソン?」
「シャルリーヌ様の魔法でございますね?」
「その通りだ」
これはシャルリーヌたちには言えないことだが、ミノタウロスは物理ダメージに耐性がある。なんと、ダメージの半分をカットしてしまうのだ。そして、この特性はなにもミノタウロス独自のものではない。数値に違いはあれど、物理ダメージに耐性を持つモンスターはこの先にも多く存在する。
そんな時こそ魔法の出番なのだが、オレたちのチームの弱点を語るとすれば、それは魔法を使えるのがシャルリーヌしかいないという点だ。つまり、あまり魔法に頼った戦い方はできない。
一応、神聖魔法にも攻撃魔法はあるにはあるのだが、与えられるダメージをMPで換算すると効率が悪いんだよなぁ。アンデッドや悪魔には効果抜群でダメージは加速するのだが、『洞窟』ではどちらも出てこないし。
「任せておきなさい! 一撃で決めてあげるわ!」
シャルリーヌがふんすっと鼻息も荒く、両手を腰に当て、胸も張ってやる気満々だ。そんなシャルリーヌもかわいらしい。愛でたい。もうフィギュアにして無機質な自分の寮の部屋に飾っておきたい。
今まで魔法を使わずに戦闘も見ているだけだったからフラストレーションでも溜まっているのかな?
ちょっと悪いことした気分になるけど、シャルリーヌの魔法の破壊力は貴重なのでここぞという時に使いたいのだ。
まぁ、第十一階層から徐々にシャルリーヌの魔法に頼る場面も出てくるだろう。
「というわけで、主攻撃はシャルリーヌに頼む。オレたちはシャルリーヌの援護だ」
「おうよ」
「わかったんだなー」
「かしこまりました」
オレ、エロワ、ポール、ブリジットの四人は、ミノタウロスがシャルリーヌを襲わないように前衛で壁を作る。そして、神聖魔法の使えるアリソンは、仲間の怪我に備えて待機。この作戦でいこう。
「じゃあ、いくぞ」
オレはチームメンバーが頷くのを確認してから、鉄の扉を開け放った。
「ほう……」
今までとは違うドーム型に大きく開かれた空間。ドームの天井の中心には一際大きな七色クリスタルがあり、明るくドーム内を照らしている。
その中央に鎮座するのが、牛の頭を持つ大男、ミノタウロスだ。
盛り上がった筋肉で構成された三メートルはあろうかという茶色い巨躯。その大きな体を腰布だけが覆っている。オレの腰よりも太い腕が持っているのは、同じく三メートルはありそうな巨大な金色の両手斧だ。
オレたちの侵入に気が付いたのだろう。ミノタウロスの目が赤く光り、赤い布を見た闘牛のように鼻息を荒くしていた。
その太い足が、まるで突進前の闘牛のように荒々しく地面を掻く。
突進が来る!
「散ッ!」
オレは手短に指示を出すと、盾を構えてミノタウロスに向けて走り出す。
「はあああああああああああッ!」
腰に佩いた片手剣を抜いて、雄叫びをあげる。大声を出すことで自分を奮い立たせるためでもあるし、ミノタウロスの注意をオレに引き付けるためでもある。
「BUMO!」
ミノタウロスがオレの存在に気が付いた。
さらに注意を引くためにガンガンと片手剣の峰で盾を叩きながら、オレはミノタウロスの間合いに躊躇なく入った。
ミノタウロスの三メートルの巨体が全力疾走すれば、オレにそれを止めることはできない。それよりも危険でもさっさと相手の間合いに入り、その場に足止めした方がいい。
途端に振り下ろされるミノタウロスの巨大な戦斧。
攻撃は予想していた。左へのサイドステップで躱す。
「うお!?」
ドゴーンッと右側でミノタウロスの戦斧と地面が激突し、まるで爆発したかのような風圧に吹き飛ばされそうになる。
なんとか耐えて、オレは魔法を唱えた。
「フラッシュ!」
神聖魔法、フラッシュ。強烈な光がミノタウロスの顔を覆い、その視界を潰す。
「BUMOOOOOOOOOO!?」
視界を白く染められたミノタウロスが、半狂乱になったように戦斧をデタラメにブンブン振り始めた。
「アイスランス! いくわよ……!」
背後からシャルリーヌの声が聞こえた。
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