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今世と前世と罪と罰  作者: 月迎 百
第7章 若宮朋佳
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どうぞよろしくお願いします。

 イヤホンからは風の音。

 アキがきりっとした顔をして、でもゆっくりと人目を引き付けるようにステージへ出て行く。

 小道具の子達がたくさんの保冷剤とともに客の周囲にスタンバイして、団扇でそっと扇いでいる。

 イヤホンしているからハンディファンでもいいのかもしれないけど、やっぱり、団扇が音しなくていいねとなったんだよね。

 風の音が、吹雪を連想させる強さと重さになる。


 アキがそんな吹雪の中でも風の影響も受けずに静かに立ち尽くしている。

 無表情で客を見下ろして、右手を前にすうっと伸ばした。

 指先が伸びて左右に揺れる。

『私を見たことを誰にも話してはいけません。話したら……命を貰うよ』と耳元で冷たい声が響いて、暗転。

 小道具の子達がニヤニヤしながらステージを見ている客の首や背中に布を巻いた保冷剤を押し付けてから離れる。準備の時、押しつける力や時間をいろいろやってみたんだけど、一瞬じゃわからなくて、押しつけて『1、2』と数えてから離れるようにしたんだ。

 あちこちから悲鳴が上がる。

 その隙にアキとステージ上で入れ替わる。私の番だ。

 ステージ上で蹲り待機。

 客は保冷材押しつけの余韻でざわざわしてて、ステージに私が蹲っているのに気づいていないっぽい。

 学校のチャイムの音、ざわざわした子ども達の声、小学校のイメージ音。

 そして、トイレの流す音。ここは小学校のトイレ。

 ん、トレイに蹲っているなんてちょっとおかしいよな。

 私はニヤリと笑ってしまう。うん、花子さんだから、この笑いはいい感じだろう。

 トントントンとノックの音。

『花子さん、遊びましょ!』と子どもの声が響く。この狭い空間に響く感じの声とかも、この音響ってすごいよね。


『はーい』というか細い声の返事。そこからゆっくり10数える。

 客の動揺が広がる。それを感じたところでぼんやりと背後からのライト。

 私はゆっくりとゆらりと立ち上がった。

 気持ち俯き加減にしていて、背後のライトなのでランドセルを背負った女の子のシルエットに見えるはず。

 そして、正面からのライトアップ。

 私は顔を少しだけ上げ、ニヤニヤと笑って見せ、両手を差し伸べるみたいにした。

『何して遊ぶ?』という花子さんの声が耳に聞こえたが、途中からノイズとともに反転し低い声になる。 

 これもけっこう音だけで聞くと怖い。私は無表情になる。

『パン!』という音に合わせて黒い布がステージ上に張られて、私は消えたように見えたはず!?

 最後の破裂音で少し悲鳴が上がってるの聞こえた。よしよし、今回もうまく行ったみたいだ。


 ステージ袖のアキと合流しハイタッチした。

 教室に電気がついて、なんかざわざわと静かに客がイヤホンを外したり「怖かった」「ぞっとした」なんて小さな声で言いながら出口へ移動していくのが聞こえた。

 私達キャストは出口に行き、お見送り。

 マユミ達は一番最後にのろのろ出てきた。ソウヤくんの顔色が悪い。……怖がりだったのか!?


「どう? 怖いバージョン、マジ怖いでしょ!」


 私は笑いながら声を掛けた。

 ソウヤくんが「怖いバージョン?」と聞き返してきた。


「うん、怖いバージョンとそんなに怖くない小学生向けバージョンがあるんだよ」


 そうそう、なんだかリコーダーにこだわる子の提案で、なんだか最後に『風強すぎてお亡くなり』の歌詞が印象的な『強風オールバック』というタイトルの曲に合わせて花子さんがリコーダー吹いてるマネして、お菊さんもカーミラも雪女も大道具も小道具もステージで踊るという面白バージョン(保冷剤なし)があるのだ。それもあるから整理券方式で分けているんだよね。


「何それ、そっちも見たいんだけど!」とソウヤが言って、相原くんが笑う。相原くんも怖かったみたい。男子を怖がらせられたのなら、けっこう成功してるってことだよね。


「怖くないバージョンは小学生向けだから、ダメ」


 雪女のアキが言う。

 ソウヤはその言葉を聞いてるのか聞いていないのか私に話し掛けて来た。


「それにしても……、トモちゃん思い切ったね。そんな短いスカート履いてるの初めて見た」


 私の足を見ている。

 おい、マユミの前でいいのか!?


「うわ、セクハラです!

 この男! 命取ります!」


 アキが言葉にソウヤが「ごめん、許して!」と叫んでマユミの後ろに逃げた。

 うん、やっぱり、まだ連絡先は承認しないでいいか。


読んで下さり、ありがとうございます。

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