19 汚れる
どうぞよろしくお願いします。
川上先生……、みんなのボート代、出してあげてた……。
さくら先輩が私を見て『ほらね』的な笑みを浮かべた。
だから……。
私は苦笑するしかない。
キャーキャー言いながらボートに乗り込んで、オールを手にした乗り手達は池に漕ぎ出していく。
水面に近いから、スピード感とか涼しさとかより感じそうだな。
私とマユミと川上先生は池に沿って少し移動し、柵がなくて池のほとりに下りられるようになってる場所へ移動した。
「ちょっと電話してくる!」
マユミが奥の木陰の方へひとりで行こうとしたので「ちょっと、待って!」と声を掛けて止めた。
「ひとりじゃ危ないから。
見えるところにいるから、ゆっくり電話しな」
私はマユミにそう言った。
そして、私がすこしだけ元来た道を戻り、マユミに両手でマルして見せる。
マユミもにっこり笑って、スマホを掲げて見せた。
川上先生は私の方に来た。はい、来ると思いました。
「マユミ、電話している間、ここで見守りましょう」
「前に文化祭で来ていた彼か?」
「はい、ソウヤくん、英開の。いい子ですよ。
私にすぐ人を紹介したがるけど」
「……英開の男子生徒達とよく会うのか?」
「私はよくは会わないです。アキとマユミは付き合ってるから、まあよく会うんだろうけど。
合宿前に仲間に入れてもらって、宿題勉強会はやったけど。
マユミとアキと、ソウヤ君と相原君」
「相原って、素直君だっけ?」
「あ、真理先生の時?」
「ああ、連絡先を交換してある」
「え、そうなの!?」
相原君と先生がつながっているとはびっくりだ!
アキ知ってるのかな!?
私は池の上のボートに手を振ってから、マユミの方を見た。
マユミは私達の方を見ながら電話していて、背後に……。紗栄先生?
マユミが行こうとしていた奥の木立の方から歩いて来たみたいだ。
「先生っ!」
私は川上先生に小さく叫んで走り出した。
マユミ、50メートルくらいしか離れていないんだけど、その10秒くらいの間に、紗栄先生がマユミのすぐ後ろに来て「電話で私の悪口を言っているんでしょ!! バカにしてるの!?」と怒鳴ったのが聞こえた。
マユミがびっくりと恐怖の表情で振り返った。
紗栄先生がマユミの肩を掴んで押すみたいにっ!
マユミが後ろに転びそうになる。
私は間に合って、マユミを支えて立たせ「川上先生の所に逃げて!」と言って、前に出た。
「みんなで私をバカにして!
意地悪よね!
とっても意地悪!!」
紗栄先生が私の腕を掴んだ。
「あんたなんて! 大嫌いよ!
篠原に似ているだけじゃない!!」
篠原?
私は振り返って川上先生を見た。
マユミを背後に庇うようにして、強張った表情をしている。
一番長く付き合ったという元彼女の名だろうか?
「見るなっ!
見つめ合うんじゃないっ!!」
急に腕とシャツを掴まれて池の方へ引っ張られた。転ばないためにそちらに足を進めるしかなくて、足が、スニーカーがざぶざぶと水に浸かる感覚……。
あー、靴、濡れると乾きにくい……。
さらに引っ張られ、転びそうになる。池の中で転びたくない。
もし転ぶなら道連れにしてやる。
私は腕を強く払ってから、紗栄先生を池の方へ押した。
「わっ!」
紗栄先生が派手に後ろに転びそうになり、私は勢いあまって、四つん這いにしゃがみ込み、池の浅い所に手をついた。
ああ、リュック濡れなくて良かったああああぁ。
紗栄先生は足首くらいの深さで後ろにひっくり返り、池の中に寝転がるように髪が池に浸かる。ばちゃばちゃともがくように起き上がる時、池の中についた手が滑って、上半身の前側も池にじゃばっと漬かってしまった。慌てて座ったように身体を起こすが、もう全身ずぶぬれだ。
私は手足の先と膝が濡れてる感じ。でも長ズボンだから、もう下半身は濡れてると言ってもいいかも……。
うわー、キモチワルイ……。これ、藻?
あ、川上先生のシャツ、汚しちゃったよ……。
読んで下さり、ありがとうございます。




