086-5-12_女神像
教会に残っているのは、セシリカとホルトラス、そして、村長の三人だ。
「何だったの?」
何が起きたのか良く分からないうちに、農民たちが帰って行った。
全然、意味が分からないんだけど?
セシリカに、「どうなったの?」と聞いてみると、彼女は満足そうな顔になっていた。
「皆さんの心にあった不安が一掃されたようですよ。これで上手くいったでしょう。ちょっと思っていたのと計画が変わりましたけど。と言うか、エリア様のそのお姿は一体どういう訳なんですかっ? 私が知りたいのはそこなんですよっ!」
セシリカがそう言うと、後の二人も、うんうんと頷いている。
「これね。実は、僕にも分からないのよね」
そう言うと、セシリカが掌を上に両手を広げ、また呆れたように頭を左右に振った。
「でも、上手くいったって本当かな?」
彼女に聞くとセシリカが言った。
「エリア様。そのお姿が農民のみなさんの目に焼き付いてますので、誰も、女神様の御業を疑ったりはしませんよ。きっと、みんな夢を見ているように、幸せな気持ちでしばらく過ごすでしょう。だから、小麦の種まきも予定通りですよ」
セシリカはそう言うけど、まだ良く分からない。
「女神って言われても、僕、隷属の首輪つけてるけど大丈夫なの?」
そう言うと、セシリカは両手を腰に添えて、キッパリと言った。
「むしろそれがあるからいいのです。これを見てください」
そう言って、女神像を掌で指し示した。彼女がそう言うので、祭壇の女神像をよく見てみる。
ん? 黒光している女神像よね。これが何か……ん!?
「えっ!? これって、どういう事?」
何んと、女神像の首には、隷属の首輪が嵌められているっ!
像はそれほど大きくないため、よく見ないと着ている衣装と同化しているように見える。
昼間に見たときには気が付かなかったけど……。
しかし、やっぱり、隷属の首輪だ。
「偶然だよね?」
それにしても、シンクロ過ぎる。左手を腰に当て、右手を顎にやって、まじまじと見ていると、ラヒナが側にやってきた。彼女は、僕の左手を両手で握り、「やっぱり、本当の女神様だ!」と言って、目をぎらぎらと輝かせている。そんなラヒナに、ニッコリと微笑み返した。
まぁ、セシリカが大丈夫だと言うので、心配しても仕方ない。でも、女神像が嵌めている隷属の首輪の意味は何だろう? どういう謂われがあるのか知りたい。いや、知る必要がある!
そう言えば……。
「あの、村長さん。僕のことエリアだって良く分かったね」
「も、もちろんじゃ。エリア様。昼間に畑に来なさったときゃ、あまり考えもせんじゃったが、そのお姿ならよう分かる。ここの女神様と同じ姿じゃ。あんたは、女神様じゃわい」
「女神セリア?」
「いや、女神ガイア様じゃな」
村長は、ニタニタと照れながらそう言った。
「何で? 女神セリアじゃないの?」
セリア教の教会なのに、安置されている女神像が女神セリアじゃないなんて意味不明だ。
「この教会は、セリア教の教会じゃが、そこの女神像は女神ガイア様じゃ……」
そう言って、村長が説明を始めた。村長によれば、女神ガイアは女神セリアの母神様だということだ。通常の教会では、女神セリア像を設置しているのだけど、この地域には、古代の神である女神ガイアへの信仰が残っており、敬虔なセリア教徒のローズ男爵や、教会に赴任していた司祭でさえ、村人の手前、女神像の件については、何も言わなかったそうだ。
「セリア教とガイア信仰は別のものなんだね」
しかし、ローズ男爵はともかく、よく、司祭は、文句言わなかったもんだよ。
そう感心していると、村長は、「ガイア信仰は、古代から伝わる土着の宗教じゃよ」と言って満足気な顔をしたが、その後、少し寂しそうに話した。
「女神ガイア様の信仰は、セリア教からすれば異端に見えるようじゃ。それはのう、女神ガイア様の像はみな、隷属の首輪を嵌めてなさる。どうやらそのお姿が、奴隷制度を肯定しておる姿じゃとみなされておるようじゃ。セリア教は奴隷制度を認めておらんからのう」
それで、先程は僕を見て、みんな、僕の事を女神だと言ったということだ。それに、今日の昼間も、この首輪を見て、村長は、僕の事を奴隷として蔑むようには扱わなかった。
なるほどね。この村の人たちにとって、隷属の首輪って女神ガイアの象徴なんだ……。
その後、村長は、名残惜しそうにしながら教会を後にした。ふと気づくと、いつの間にか、アムとククリナが祭壇の側に立っている。ククリナは以前からこの地域に存在しているため、この辺りならどこでも転移が可能のようだ。セシリカが彼女たちに気が付くと、また、驚いていたけれど、イグニス山で出会った存在だと言って、経緯とともに、彼女たちをセシリカに紹介した。
「まず、こっちの耳が可愛い彼女は、山犬族の戦士だよ。イグニス山に行く途中に、森の中で出会ったんだ」
そう言うと、アムが自己紹介をした。
「あたしは、アム・ニタイと申します。十一歳です。趣味は、その、強いお方と戦うことですっ! あっ、山犬族の戦士をしています。イグニス山近辺の魔獣が狂暴化していると聞いて、里長の命により調べていたところ、エリア様とお会いして、エリア様があまりにも、その……」
アムが何だかモジモジして、自己紹介も初々しくて、可愛い。
「僕にくっついてきちゃったんだ」
そう言うと、アムは最後に、「エリア様のお供ですっ!」と言った。
お供にすると言った覚えは無いんだけど……。
アムの自己紹介が終わると、ククリナの紹介をした。
「彼女はククリナって言うんだ。何て言うか、イグニス山に住んでたんだよね」
すると、ククリナが自己紹介した。
「あの、エリア様。私の紹介が雑過ぎです。えと、私はククリナと申しますわ。イグニス山に縁がございまして、そこで長い間おりましたの。今日、エリア様とお会いして、私も、エリア様についてきちゃいましたわ」
僕が言ったことと、そんなに違わないんだけど。
でも、詳しい説明を敢えて避けてるようだから、本人に任せておこう。そう思っていると、ヴィースがククリナに向かって、徐に言葉を口にした。
「蛇だな」
「ちょ、ちょっと、ヴィースっ!」
本人が隠してることを、もうちょっと気遣いしなさいよっ!
ところが、ククリナも……。
「あなたは水竜ね」
うっ! この二人の会話、聞かせてもいいヤツ?
セシリカとホルトラスを横目で見ると、二人は不気味な笑みを浮かべている。
あぁ~あ、この二人は、ヴィースとククリナの真の姿を知ってしまったかも。
そして、ヴィースは、ククリナに、「よろしく頼む、同胞よ」といつもの挨拶をしていた。すると、ククリナも、「ヨロシクね、一の眷属」と言って、軽く笑顔で答えていた。
「ね、ねぇ、セシリカにホルトラスさん! 紹介も終わったことだしこれからの予定なんだけど……」
そう言って、話を切り替える。あまり、ヴィースとククリナの話を引っ張りたくはない。そして、セシリカが、ハッと我に返り、これからのことを相談させてくださいと言い出した。時間は夜の七時を回っている。ここで相談をしていたら夜中になりそうだ。
お腹も減ってきたし、そろそろ帰らないと……。
「セシリカ。ここで話を続けるのも遅くなりそうだし、相談は明日にできるならそうしない? もし、良かったら、君たちも、これから、ボズウィック男爵のお屋敷に案内するけど?」
「よろしいのですか?」
「ボズウィック男爵なら問題ないと思うわ。逆に、首を長くして待ってそうだし。それに、事の経緯は、セシリカから男爵に直接話をしてもらった方が早いだろうから、その方が絶対いいでしょ」
まぁ、人数は多いけど、部屋はたくさんあるし問題ない。
「みんなで行けばいいよ」
改めてそう言うと、ホルトラスは、自分は庭師なので、流石にボズウィック男爵の世話になるわけにはいかないと言って遠慮した。
あんまり無理強いすると逆に気を使っちゃうわね。
「じゃぁ、ホルトラスさん、ごめんね。あと、セシリカは屋敷に戻ったりしなくても大丈夫?」
「戻っても大して仕事はありませんし、レックスが今日のことで八つ当たりするに決まってますよ。他の使用人には悪いけど、今日くらい戻らなくても大丈夫です」
「分かったわ。それなら出発ね。ホルトラスさん、また来るわ」
そうして、ホルトラス以外のみんなを連れて、ボズウィック男爵のレピ湖別荘屋敷に転移した。
「面白いかも!」
「続きが気になるぞ!」
「この後どうなるのっ……!」
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