表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/189

082-5-8_エイルの能力

 転移窓を、教会内部の天井辺りに出して様子を見てみると、すでに、教会の長椅子には、殆ど空席がないくらい人が入っていた。

 祭壇の方には、昼間に会った村長が立っており、その横にホルトラス、脇の方にセシリカ、そして、ヴィースが並んでいた。そこにラヒナの姿は見当たらないけれど、それは予定通りの事だ。彼女は、レックスの目にかからない方がいいので、一人、司祭室で控えてもらっている。ヴィースには、たまにラヒナの様子を見てもらうように言ってあるので、ラヒナの事は心配いらない。

 転移窓を、教会の祭壇から全体を見渡す場所に位置を変えて、しばらく様子を見ることにした。しかし、残念ながら、転移窓からは音が聞こえてこない。そのため、人の動きから想像して状況を見ることにしている。必要なら、その都度エイルに通訳してもらえばいいのだ。彼女なら、その場の状況をリアルタイムで把握できる。

 ククリナとアム、そして、エイルも一緒に転移窓を覗いた。すると、エイルが無声映画のような映像を見て、つまらなさそうに言った。


「転移窓って声が聞こえないわね」


「そうね。でも、エイルが実況中継してくれるんでしょ?」


 エイルにそう言って暗に実況をお願いした。


「それもいいけど、でも、何人か同時に話をすると難しいわ。シンクロする? エリア様?」


「シンクロ? 何それ?」 


 そう言うとエイルは、「言ってなかったかしら?」と言いながら説明を始めた。


 彼女曰く、エイルの能力であるシンクロとは、エインセルが分身した際、分身体と感覚を共有する能力だということだ。つまり、エイルの能力を直接利用できるらしい。


「そんな凄いことできるんだ! 早速お願いっ!」

 

 そう言うとエイルは、「わかったわ」と言って、小さな親指を立ててグッドサインを出すと、頭の上に乗っかった。そして、準備ができたのか、エイルが合図をくれた。


「エリア様、いいわ。私をイメージしてみて!」


 エイルに言われた通りに、目を閉じて彼女をイメージしてみると、瞼の裏に明瞭なイメージが現れた。すると、音が認識できるうえ、匂いや肌の感覚までも、とてもリアルに感じることが出来た。僕は今、ヴィースに付いているエイルそのものになっている。


「凄いよ、エイル!」


 そう頭の中で呟くと、「当然でしょっ!」と声が返ってきた。シンクロの最中でもエイルと念話で会話ができるようだ。


 何て能力! いけないこと想像しちゃいそうだ!


 つい、男だった時に抱いた願望の事を考えてしまった。すると、エイルの声が聞こえた。


「エリア様って不思議よね。一体、エリア様って、男と女どっちが好きなの?」


 言葉を話すようにエイルに呼びかけても、頭で考えただけでも、結局、エイルには全部伝わっている様だ。


「女の子だけど、それがどうしたの?」 


 そう意図すると、エイルが素で言った。


「それなら女の子の裸を覗いても、誰にも怒られないじゃない」


 あっ! 確かにそうだった。僕は、今、女の子なのだ。それなら、メイドさんたちの湯浴み、覗いちゃう? なんちゃって。


「そんなの、何が楽しいの?」


 エイルと念話しつつ、教会の様子はしっかりと見ている。どうやら、間もなく寄合が始まりそうな雰囲気だ。そして、昼間に畑で会っていた村長が話し始めた。


「え~、皆の衆、昼のお疲れのところ、ご苦労さんじゃのう。早速、寄合を始めるが、改めて言わんでもええと思うが、話は、今年の種まきの事じゃ……」


 村長は、みんなに向かって、今年の種まきについての意見を求めた。すると、向かって左側の席の、前から二列目に座っていた年配の男が、手を挙げて言った。


「わしのところは、もう、あと一回分の種しか残っとらん。もし、今年もダメなら、小麦は作れんようになるわい。そうじゃけん、この土地では続けられん。他所に移ることも考えねばならんと思うとるが……」


 その年配男はとても不安そうに言った。その意見を聞いた他の者も、同様の意見を言うものが何人も現れたようだ。そうした農民の意見を聞いていると、彼らの中には、農地を諦めて男爵に返還してでも、最後の種を守ろうとしている者もいるらしい。小麦農家が求められている今なら、他の貴族の領地で農地を借りることができるかもしれない。しかし、長年受け継がれてきた良質の種は、もう手に入れることが出来なくなる。そう考えているのだろう。

 彼らの意見を聞いて、村長が腕組みしながら何か思案し出した。寄合の意見は、今年の種まきはしないという方向に傾きつつある。村長は、その流れを、どうにかして変えたいと考えているようだ。


 村長さん、昼間にホルトラスと三人で話していたことを、みんなに伝えたいのかもね。でも、まだ言っちゃダメだよ。


 セシリカの作戦では、まだ、そのタイミングじゃない。ホルトラスも村長に目くばせをして、事実の公表を思いとどまらせていた。


 その時、教会の扉を無遠慮に開けて、王宮騎士団の制服を身にまとった、三人の男が教会に入ってきた。彼が、レックスで間違いなさそうだ。レックスと二人の隊員は、ドスドスと乱暴な足音を立てながら、ふてぶてしい態度で中央の通路を進むと、祭壇の前までやってきた。そして、レックスを中央にして、二人の隊員が彼の両脇に並んだ。


 エイルが感心するように言った。


「なるほど〜。あの男は、分かりやすい悪役よね〜。一番最初にやられちゃうタイプだわ。負けフラグが立ってるわね」


「よくそんな言葉知ってるわね?」


「エリア様の思考にあるじゃないの」


「なるほど、エイルの能力を使えば、相手の思考を読めるのね」


「使い方間違っちゃうと、相手にバレちゃうから気を付けないといけないけどね」


「そうなんだ。それでも恐ろしい能力ね」


「天才と言ってちょうだい」


 はいはい。


 教会では、レックスが、剣を杖代わりにして身体の前に突き立てると、農民たちを見渡して、大声でしゃべり始めた。


「おい、農民どもっ! 今年の種まきをちゃんと予定通りやらねぇと、どうなるか分かってるんだろうなっ?」


 酒の匂いが、ぷ〜んとする。


 何、この男、酒臭い! 一杯飲んできてる。最低ね!


「面白いかも!」


「続きが気になるぞ!」


「この後どうなるのっ……!」


と思ったら


下の ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願い申し上げます。


面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当に励みになります。


重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ