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007-1-7_ トラウマの首輪

 彼女は、言葉を選ぶように話す。


「……あなたがこの転生を受け入れ、生き抜いた先に……エリアがどう言う気持ちでその時を生きていたのか、その答えにたどり着くかもしれない……いいえ、あなたは、その答えに自らの力で辿り着くべきなのよ……」


 レムリアさんはそう言って、また視線を真っ直ぐに向ける。


「ぼ、僕が自らエリアの気持ちに辿り着く……べき……?」


「そうね……あなたは、過去にエリアとして生きた記憶を自ら思い出さなければならない。それがこの転生の目的なのよ」


「それなら、僕の過去生エリアは、何か特別な人生を送ったという事……?」


「それも言えないわ。ただ、私からはっきりと言ってあげられる事は、あなたは、偶然ここにやって来た訳ではないってことね」


「やっぱり……」


 そんな事だと思ったよ。だって、突然、僕に向かって、エリアっ、なんて叫んじゃうし、人類共通のトラウマの記憶だとか僕に関係ないような話を敢えてしてくるし。絶対、なんか理由があるって思うよね。でも、それ聞いちゃダメなら自分で何とか調べるしかないのか……。


 う〜む。


 まだ半信半疑だけど、エリアという女性が僕自身なら、僕は彼女の事をもっと知る必要がある気がする……。


 レムリアさんを見ると、彼女は遠くの景色を見つめていた。そして、僕の視線に気が付くとこちらに向き直り、悲しそうな表情を浮かべて自らの首元に右手を当てた。


「あなたのここに、色は薄いけどアザがあるでしょ……」


「え、ええ、それが何か?」


 僕の首には、喉仏の左下のところに薄いアザがある。普段は目立たないように襟のあるシャツを着ているから、他人が見ても分からない。けれど、生まれた時から付いているアザだ。


「そのアザの意味だけど……」


「このアザに意味があるんですか? これは、痛みも何もないんですけど……」


「女神ガイアは、ガイア文明が一度崩壊した時に、人類が抱え切れなかった恐怖のトラウマを、自らの身に引き受けたの。それは、文明を崩壊させる原因に彼女も間接的に関与してしまったからなのだけど、そのトラウマを解消するため、彼女は、女神の祝福加護に願いを託したのよ……」


「それはどういうことです?」


「それはつまり、女神と同義の意味を持つ女神の祝福の加護持ちは、女神が抱えるトラウマをも、その身に背負うことになるって事よ。そして、そのアザは、女神ガイアの枷を背負う運命である証。転生した身体には、それが具現化して現れることになるわ。あなたは、次の転生で女神の祝福加護が与えられる代わりに、そのアザに刻まれたトラウマを活性化させて、枷を背負う事になるの」


「う、運命? トラウマの具現化? 枷?」


「ええ、そうよ。さっきの女の子が付けていた首輪、それがそうなの」


「え? そんなの着けてましたっけ?」


「ほら、銀色の首輪を付けてたの気づかなかった?」


「いや〜、分わかりませんでしたけど……」


「まぁ、分からなかったならいいわ。転生すればすぐに気が付くことだから。でも、あの子が付けている首輪は、あなたが背負う事になるトラウマの首輪なの。奴隷が普通にいる世界だから隷属の首輪に見えるでしょうけど、よく見れば彫刻もしてあるし、あなたがいた世界ならチョーカーと言っても通用したでしょうけどね」


 そ、そうなのか……。女神ガイアが抱えるトラウマを背負い続けなければならないって事なんだ。でも、文明が滅んだ時のトラウマなんて、僕に背負い切れるものだろうか……?


 顎を掴んで考えていると、レムリアさんが声をかけた。


「……でも、そんなに深刻になる必要はないわ。さっきも言ったけど、あなたは、あなたの忘れた記憶を思い出す事に気持ちを向けておけばいい。そうすることで、女神ガイアのトラウマについても、自ずと向き合うことになるから。その過程で、ガイアちゃんの願いである困難な状況にある女の子たちの救済を考えて欲しいわね。これも、ガイア世界における女性性の活性化や、あなたが抱えるトラウマと関係するものよ。どっちにしても、あなたの心の声に従ってガイア世界の旅を楽しめばいいわ」


「でも、首輪を付けていれば、ガイア世界の人たちは僕の事を奴隷として見るんですよね? そんなの、旅を楽しむなんて無理ですよ。それは、いつ外れるんですか?」


「外すことなんて出来るわけないじゃない。トラウマの具現化なんだからトラウマが解消できるまでは、どうやっても外れないわ」


「そんなっ!」


「問題ないわよ。隷属の女神っていう伝説の二つ名もあるほどなんだから! ねっ、カッコいいんじゃない?」


「何で疑問形なんですかっ!? 第一、そんなの過去の逸話でしょ? そんなの知らない人の方が殆どですよね? 慰めにもなりませんって! それより、一体、どうやったらトラウマを解消できるんですっ?」


「それは……自らを赦すこと。私が言えるのはここまでよ」


 レムリアさんは、そう言って居住まいを正した。


「これで、私からの話は終わり。さぁ、そろそろ答えを出してちょうだい。あなたの選択肢は二つよ。その一つは、トラウマの首輪を受け入れて転生する。この場合は、さっきの続きで、奴隷から始まる人生ね」


 ううう。言葉ではっきりと言われると、なかなかに選びづらい選択肢だよ……。


「もう一つの選択肢って、転生しないとか……?」


「それは無いって言ったじゃない」


「やっぱり。でも、じゃぁ、もう一つって……?」


「もう一つの選択肢は、地球での前世の続きよ。でもお勧めはしないわね。だって、あなたがパートナーを作らないのはトラウマが関係してるんだから」


「え? ちょ、ちょっと待ってください。僕に彼女ができない理由って……いやいやいや、そうじゃなくて、僕は死んだんじゃ……」


「死ぬ前に戻るのよ。そして、事故は回避されあなたは生き延びる。ただし、ここでの記憶も無くなっちゃうけどね。どうする?」


 ど、どうする? って、メニュー選んでるんじゃないんですよ、ホント。う〜む、重要な決断を迫られてるよね。レムリアさんの話からすると、きっと、僕の過去生はガイア文明が崩壊する時に、トラウマを抱えてしまったみたいだし……。


 トラウマかぁ〜。


 そのトラウマは、女神ガイアのトラウマでもあり……。でも、それがどんなトラウマなのかは分からない。これは、パンドラの箱だぞ。いや〜、それにしても、話が重くなっちゃったな。さっきまで無双だとか言って喜んでいた女神の祝福加護が、まるで僕を縛る呪いのように思えてくるよ。自らの枷に縛られてトラウマに隷属する女神……か。笑えないよね、僕の事なんだから……。女神は自分で自分を呪ってるようなもの……。ん? そう言う意味では、トラウマも呪いとよく似たものかもしれないよね。という事は、トラウマって、自分への呪い? 女神の呪い、エリアの呪い、そしてそれは、僕自身の呪い。僕は、トラウマの呪いを自らの枷にした奴隷だったんだ。


 じゃぁ、自分への呪いなら、自分でどうにかできるはず! 


 ……もう、決めないと。いや、決める!


 女神の祝福加護が、どれほどのものなのか分からないけれど、レムリアさんは最強の加護だと言ったんだ。TS転生なら僕の意識はこのままだろうし、女の子の身体に慣れさえすれば不安はない。それに、何てったって美人で最強。いい響きだよね! もう、難しいこと考えても仕方ないし、楽しいことだっていっぱい起きそうだ! ムフッ。それなら行くか? もう行くしかないよね!


 ここまで話を聞いておいて、転生しないなんて出来ないっ! よし! 決めた! 僕は、美人で最強の女神になっちゃうぞっ! 


「レムリアさん、僕、決めました! どんな事になるのか分かりませんけど、兎に角、やってみます!」


「そう! それならよかった! ガイアちゃんも喜ぶわ……」


 レムリアさんは僕が自由に生きることが出来て、枷を外すことができると、女神ガイアの枷も消えるだろうと言った。それにしても、さっきエリアって叫んだ時のレムリアさんの勢い。あれは、真剣だった。


 なんとかレムリアさんとのことも思い出せればいいんだけど……。


「じゃぁ、転生前のレクチャーよ。まず、女神の加護の事だけど、いい? ガイアの加護には、女神の祈りと女神の祝福があるの。それで、女神の祈り加護は、一般的な加護ね。つまり、現代のガイアでもその加護なら割と持っている人間がいると思うわ。でも、女神の祝福は、あなただけ……」


 さらに、レムリアさんは続けた。


「……それから、あまり、力をひけらかさないようにね。それと、魔法を使うにはイメージが大切だって説明したけど、できるだけ詳細にイメージしないとコントロールが効かないから暴走しちゃうわよ、注意してね。確実なのは、魔法が上手な人のイメージを読み取って、自分のものにすることなんだけど……」


 レムリアさんは、他人から魔法を読み取る方法は、相手の目を見ることだと言った。


 なるほど、努力次第とはそういうことだね。


 また、それ以外にも、いろいろと加護の効果があるだろうということだ。


 まぁ 試していくしかないか。


 そして、「最後に連絡事項ね」と言ってレムリアさんが付け加えた。


「あの塔と同じような建物が、ガイア世界に点在しているの。そこからだと私と念話ができるから、古代の遺跡を探してみてね。あと、あなたにガーディアンが現れるかもしれないけど、適当に相手してちょうだい。それから、あなた、女の子になるんだから、ちゃんと心身をケアしなきゃダメよ」


「ケアって?」


「これまでの世界が百八十度変わるのよ。とにかく、清潔にして身だしなみに注意を払いなさい」


「分かりました!」


 いや〜、そりゃガイア世界の価値観が地球と百八十度違っていても不思議じゃないだろうね。それにしても、女の子の身体で生きるってどんな感じなんだろう? ちょっといけない事考えたりして、ワクワク! それに、魔法の世界が実際にあるなら、絶対、行ってみたかった。


 異世界ファンタジー! 冒険の始まりだ!


「ありがとうございます」と言うと、レムリアさんが威勢よく言った。


「孤独な旅になるかも知れないけど、次はきっと頑張ってね。では行きなさい、心のままにっ! 水沢和生君。いえ、エリア。あなたの本当の名前は、エリア・ヴェネティカ・ガイアよ!」


 こ、孤独な旅? つ、次はきっとって、どういう意味ぃ〜〜〜?


 レムリアさんの声が頭の中で反響しながら、意識が遠くなっていく。そして、最後に目に入ったランスの塔が、陽光に照らされてその切先を眩しく光らせていた……。




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