表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

71/189

070-4-19_事件の疑惑(挿絵あり)

 セシリカの質問に対して、あれこれと説明をするよりも、まずは、黒い魔石を彼女に見せる方が早いだろう。


「ちょっとこれを見てよ」


 そう言って、持ってきた黒い魔石を彼女に渡した。セシリカは、またメガネのズレを直して、黒い魔石を自分の顔の前に持ってくると、眉毛を寄せて、苦い薬でも噛んだような顔をして言った。


「なんですか、これは? とても不快な感じのするものですね……」


 彼女はそう言うと、急に立ち眩みのようになり、椅子の背もたれに身体をもたれかけさせると、右手でこめかみを押さえた。


 おっと、いけない!


 慌てて黒い魔石を返してもらい、浄化した。その様子を見ていたラヒナが、心配そうに彼女に声を掛ける。


「セシリカ、大丈夫?」


「は、はい……す、すみません、ラヒナ様……」


 ちょっと魔石のダメージがあったかな? 彼女、お疲れのようだし……。なんなら、先に、女神の癒しでも受けてもらおう。


「セシリカさん。ちょっとヒーリングしてあげるよ……」


 目を閉じてこめかみを押さえているセシリカに、細胞活性化の魔法を施すと言った。僕の治癒系魔法が優れているということはラヒナが証明してくれているので、彼女も不安にならず、素直に喜んでくれるだろう。


 彼女は、こめかみを押さえたまま上を向きつつ、目を閉じたままで言った。


「よろしいのですか? 治療術師に依頼すると結構高いですけどぉ……後で請求書とか、勘弁してくださいね」


 何だ? 彼女、ちょっと雰囲気変わったか? もしかしたら、こっちの方が素の彼女かな? それにしても、やっぱり会計責任者だけの事はあるね。僕としても、この方がやり安いよ。


「請求書なんて出さないよ。情報に対する報酬の前渡しさ」


「それなら納得です」


 彼女はそう言うと、祈りのポーズを取りながら頭を少し下げた。両手を彼女に向け、魔力を流し始める。


 ヒーリング魔法!


「デア・オラティオ!」

 

 柔らかなグリーンの光がセシリカを包み込む。そして、煌めく光がゆっくりと彼女の胸のあたりから浸透して行く。すると、セシリカは、「はぁっん!」と鼻から声を漏らし、身体をのけ反るようにして、長椅子の背もたれに反り返った。そして、両手をだらりと下げ、身体を椅子から半分ズレ落とし、口を開けながらしばらくうっとりとした。


 効果あったかな。


 彼女は、背もたれに身体を預けながら、口元の涎を手の甲でふき取ると、寝起きのようにぼんやりとしながら言った。


「ムニャムニャ……。あ、ありがとうございます……ムニャムニャ」


 まだ余韻が残ってるようだね。メガネがズレてるし、寝ぐせのように髪の毛も乱れちゃってるけど。


 ブラウスも、いつの間にか胸元のボタンが二つほど外れて、少し肌けているし、スカートもずれ上がって、白くもっちりとした太ももが見えている。


 ラヒナが心配そうにセシリカの手を引っ張って言った。


「セシリカっ、下着、ヴィースに見られちゃうよ!」


 それまで真ん中の通路で様子を見ていたヴィースは、フンっ、と鼻を鳴らして澄ましている。セシリカは、ようやく、ゆっくりと身体を起こし、大きく伸びをして言った。


「あ~、なんて、気持ちいい~んですかぁ〜」


 そして、スカートのずれを直し、ブラウスのボタンを止めた。


「ちょっと仕事し過ぎだったね」


 でもこれで、身体が元気を取り戻したはずだ。セシリカも効果を実感したのか、自分の両手を裏返しながらまじまじと見ている。そして、顔をさわり驚くように言った。


「ふ、吹き出物が治ってる!? カサカサだった手もつるつる。凄~い!」


「まぁ、頑張ったご褒美だよ」


 それに、効果はそこだけじゃないんだよ。全身を鏡で見たときにさらに驚くだろうね。セシリカの身体は、しっとりぷる肌になっているはずだ。

 彼女に、「気分は落ち着いたかな?」と言うと、セシリカは手を挙げて、「はい~、とても楽になりました~」と気分良さそうに言った。


「それなら良かったよ。でもいろいろ大変そうだね?」


「そうなんですよ~」


 彼女は、そう言って困り顔で作り笑いをした。彼女は、口には出さないけれど、かなり苦労していそうだ。


 あ、そうだ、あれを出そう!


 アリサに持たされたダニーのお弁当。ずっと持ってたのはヴィースだけど。みんなで食べよう!


 そうして、その場でお弁当を広げる。中味はサンドイッチだった。まぁ、きっと朝食のハムとソーセージの残りだろうけど、塩味が効いていて、なかなかに旨いぞこれは! 


 ラヒナが、「やったー!」と言ってサンドイッチを頬張った。


「エリア様、凄くおいしぃっ!」


 ラヒナはご機嫌だ。


 ホント可愛いね。


 ホルトラスもみんなニコニコ顔だ。セシリカも、リスのようにサンドイッチを両ほっぺにため込みながら、パクパクと食べた。ヴィースは相変わらず澄ました顔で、もくもくと食べていた。


 やっぱり、みんなで食べるとおいしいね!


 お腹も落ち着いて、ほっこりしていると、セシリカが、話を切り出した。


「エリア様、さっきの黒い石、あれは何でしょうか? あっ、私の事はセシリカって呼んでくださいね」


「じゃぁ、セシリカって呼ぶね。さっきのは、人工魔石なんだ。魔法の杖に付けて使ってるやつだよ」

 

 そう言って、黒い魔石の経緯について、レピ湖の湖底に大量に投棄されていることや、名前を伏せながらイリハが病気になっていた事などを説明し、その上でセシリカに言った。

 

「つまり、小麦の大規模な不作は黒い魔石が原因である可能性が高い。それに、さっき村長さんに、今年撒く予定の種を見せてもらったけど、既に黒い魔石の影響を受けていたよ」


 そして、小麦の種を浄化するイグニス山の神池から流れる御神水が、汚染されているだろうということも伝えた。すると、セシリカは目を丸くして驚いた。


「そ、そこまで調べているんですかっ?」


 分かっているのは原因だけじゃない。誰の仕業なのかについてもだいたい予想はついている。


「もし、神池が黒い魔石に侵されていれば、一連の事件は全て同じ人間の仕業ということになるでしょ? これにアトラス派が関係していると疑っているんだけど」


 セシリカにそう言うと、彼女は、第二王女の魔獣襲撃事件について話し始めた。


「それ、すごく納得します。一連のことがアトラス派の仕業なら、第二王女様ご一行が魔獣に襲われた事件も疑わしいですよ。だってあれ、急遽、ルートが変更されたんですから……」


 セシリカが言うには、第二王女一行の帰城予定ルートは、街道が崖崩れのため、急遽、山の中を通る迂回ルートに変更されたらしい。ローズ男爵は、魔獣が狂暴になっているため、街道が通れるようになるまで出立を延期するよう進言したのだけれど、一行はその進言を無視して出発したということだった。ローズ男爵は仕方なしに警備要員を整え、王女一行の護衛に当たったようだ。


 がけ崩れか……。


「でも、それがどうしてローズ男爵の責任になるの?」 


「ええ、それはですね、王族の行幸があれば、その地の領主が警備責任を負う事になってるんですよ。それで、王族の安全を確保する義務があったのにと追及されてしまって……」


「そうなんだ、でも、ローズ男爵の進言も聞かず、どうして、第二王女一行は無理に王都へ帰ろうとしたんだろうね?」

 

 セシリカは、理不尽に思っている気持ちを滲ませながら、目を細めて言った。


「王妃様がそう決めちゃたんですよ~」


 彼女によると、第二王女一行が帰城を急いだ理由とは、王妃の息子、つまり、第一王子が病気だという知らせが王妃の元に届いたために、王妃が是が非でも出立すると言ったからだった。


「……あの時、お屋敷に滞在されていた王妃様の元に、早馬で知らせが届きまして、その時は、その内容が明かされなかったのですか、後で、旦那様が責任を追及された時に分かったんです……」


 セシリカが、眉根を寄せる。


「……内容が内容なだけに、その時は旦那様にも伝えられなかったんでしょう。そりゃ、一国の第一王子、つまり、次期国王が病気だという情報なんて、政争の火種にしかなりませんからね。決して外部に漏らすわけにはいかなかったと言う事は理解できますが、それにしても理不尽だと思いませんか? まぁ、殿下お二方ともお気の毒ではありますが……」


 セシリカによると、第二王女は下半身に大きなダメージを受け、そして、第一王子は今も病床に臥せているらしい。


 そんな話があったのか。


 腕組みして頭を捻る。


「う~ん、何かもやもやするよね」


 がけ崩れの後、第一王子の病気の知らせがあり、出立を急いで迂回すると魔獣被害に会う。


 なんだか、お約束のような流れだな。


「ところで、王宮騎士団が第二王女の護衛に合流したんだよね?」


「それも出来過ぎた話なんですよ。王宮騎士団によればですね、街道の崖崩れを発見したものの、それを乗り越えてそのまま街道を進み、この領内に入ったと言うんです。彼らを率いていたのが、今もお屋敷にたむろしているレックスですよ……」


 そして、レックスにより崖崩れ情報がローズ男爵と王妃にもたらされたようだ。それから間もなくして早馬が王妃の元にやってきたらしい。その後、関係者で協議をしたものの、王妃は既に出立を決断していたらしく、聞く耳を持たなかったとの事。そのため、王宮騎士団が正規の街道に出るまで、護衛の補助に当たることになったとのことだ。


 それなら、王宮騎士団は責を受けなかったのか? ふ〜む、まるで、誰かが描いた筋書きだな。


ーーーー

挿絵(By みてみん)

ムニャムニャ……。あ、ありがとうございます……ムニャムニャ

AI生成画像

「面白いかも!」


「続きが気になるぞ!」


「この後どうなるのっ……!」


と思ったら


下の ☆☆☆☆☆ から、作品への応援お願い申し上げます。


面白かったら星5つ、つまらない時は星1つ、正直に感じたお気持ちで、もちろん大丈夫です!


ブックマークもいただけると本当に励みになります。


重ねて、何卒よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ