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065-4-14_陰謀の影

 次の日の朝。


 今日も、アリサに昨日と同じお嬢様メイドに仕上げてもらった。手を動かすアリサは、何故か鼻歌混じりだ。


「アリサご機嫌だね」


「はい!」


 彼女は、男爵から僕の世話をメイン業務にするよう言われたことが、とても嬉しかったらしい。


「……エリア様、今日から、朝のご支度以外にも、お召変えは全て私にお任せください! もちろん、湯あみの際やお休みのご用意もですっ!」


「ありがとうアリサ、助かるよ」


 そう言ってアリサにお願いをしておいた。そして、アリサは、もう一つ嬉しいことがあると言った。


「エリア様、エリア様の祝福をいただいてから、身体の調子がとても良いのです。それまでは、嫌な事を思い出して眠れないときもありましたし……。いくら身支度を整えても、姿見に映る自分が、どうしても好きになれないと言いますか……辛かったのです。でも、今は、とても心が軽くなりまして、夜も、よく眠れるんです。もう、姿見を見ても嫌な気分にはなりませんし、それに、何だか最近、身体が引き締まっている様で、逆に、自分の身体を鏡で見るのが嬉しくなっちゃって! ご覧いただけますか? ほらっ、ほんの少し、紅を変えてみたんですよ!」


 ホントだ! アリサの唇、いつもよりも鮮やかなピンク色だね。


「とっても似合ってるよ、アリサ。可愛い色だね」


 そう言うと、アリサが後ろから抱きしめてくれた。女神の祝福って、イリハの時もそうだったけど、かなり高い癒し効果があるのかもしれないね。


「良かったね、アリサ」


 そう言うと、アリサは、「エリア様のお陰ですっ!」と元気に言ってくれた。アリサの気持ちは本当にありがたい。ただ、さっきからにやけている顔が、いたずらっぽくて、ちょっと気になる。


 アリサのキスを頬に受け、身支度が完了した。


 何で、僕の身体は子どもなんだろうね。アリサが毎日キスをくれるのに……。あぁ、早く大人になりたいっ! 

 

 昨日の話は、朝食後、男爵たちに報告することになっている。そして、ダイニングルームに向かった。

 貴族の朝食は始まる時間が遅く、何もなければ、いつもは十時頃から始まる。そして、ゆっくりと食事を取り、昼前に終了するのだ。しかし、今日は僕の報告があるので、いつもより一時間早く朝食が始まった。メニューはいつも、パンにサラダとスープが付く。そして、大抵、ハムやソーセージ、玉子料理がメインだ。さらに、その後、クッキーやケーキといったスイーツが出されることになる。朝からボリューム満点だ。一日の食事が二回というのも頷ける。僕はいつも、パンにサラダやハム、玉子をはさんで食べる。もしかしたら行儀が悪いのかもしれないけれど、今のところ注意はされていないので大丈夫だろう。アリサにも何も言われていない。

 その日の献立は、料理長任せなので、毎日、朝食を楽しみにしている。今日は、サラダのドレッシングが、僕の大好きなシーザーソースだ。朝から食欲をそそられる。そして、スープはかぼちゃのスープ。コクのある甘味がとても旨い。メインは、いつも良く出てくる大ぶりのソーセージで、様々な香辛料やハーブが効いていて、これも大好きなやつだ。その後のスイーツだけど、最近は、メニューにわらび餅と饅頭が加わった。これらは僕がレシピを監修したのだ。和菓子の担当はダニーらしい。


 ダニーも、なかなか上手くなったじゃないか。


 和菓子は、いつもみんなの人気で、残ることは少ないようだ。


 今日もご馳走様っ!


 食事が終わり、紅茶を飲みながら男爵が話し始めた。 


「エリア、昨日は、無理はしなかったか?」


 いきなり心配口調だ。父親かっ!


「大丈夫だよ男爵様。それよりも、いろいろと分かったことがあったんだ。まだ全部じゃないけどね」


 そして、昨日の事を説明した。男爵やローラ夫人が驚いていたのは、ラヒナの事だった。やはり、ラヒナは世間に知られていないようだ。ラヒナの話をすると、男爵が目を丸くして言った。


「それは本当か!」


 すると、ローラ夫人も。


「おいくつくらいのお嬢様なのかしら?」


「イリハや僕と同じ歳みたいだよ」


 そう言うと、イリハが手を祈るように組んで言った。


「本当っ! ラヒナとお友達になれるかな?」


「ラヒナもよく話をする子だから、きっとイリハとはいい友達になれるよ」


「私、早くラヒナに会いたい!」


「そのうち会えるんじゃない」


「ヤッターっ!」


「うむ。ローズ男爵殿とは王宮の行事や教会で顔を合わせるくらいであったが、男爵殿からはライラ嬢の事しか聞いたことがなかった……」


 男爵は顎に手をやった。


「まさか、ライラ嬢の下にもう一人ご令嬢がいるとは思わなかったな。ローズ家事件でも、そうした事実は表沙汰になっておらなんだと思うが……」


「その点は、昨日、僕と話をしたホルトラスさんという使用人がラヒナを匿っていたからなんだって」


「ほう、なるほど」


 男爵はそう言って腕を組み、少し考えてからローラ夫人の同意を求めるように言った。


「どうだろう。それなら、ラヒナ嬢の身の安全を確保しておくほうが良いのではないか? もしアトラス派に知られれば、何をされるか分からんからな」


 ローラ夫人は大きく頷いている。イリハは小さくガッツポーズをして、「ヨシ!」と言っていた。


 男爵の話が途切れると、ローラ夫人がサリィを呼んで、イリハとともにダイニングルームを後にした。最近のイリハは、家庭教師から特別授業を受けているらしい。魔法適性があると分かって、本人も張り切っている様だ。


 イリハとローラ夫人がダイニングルームを退室した後、男爵が先ほどのつづきを話した。男爵によれば、アトラス派は、ローズ男爵領を最終的に手中に修めようと企んでいる節があるらしい。男爵がそう考える背景には、小麦相場の主導権争いが関係しているとのことだ。

 

「……ローズ男爵領は、収穫量がクライナ王国随一を誇る小麦の大生産地だからな。まぁ、それ以外の地域でも小麦は生産されておるのだが、ローズ領の収穫量は圧倒的だ。そのため、小麦相場の主導権はローズ男爵が握っていたのだ……」


「そうなんだ」


「……ところがだ、ローズ男爵は投獄された上、ローズ男爵領のここ数年の飢饉で小麦の供給量が大幅に落ち込んでおる。そのため小麦の流通量は非情に逼迫した状態になっておるのだ。しかも、ローズ男爵領以外の小麦生産地は、王宮直轄地以外、アトラス派貴族が運営する領地が殆どであるからな、ローズ家事件以降は、奴らが小麦相場を牛耳っておる。恐らく、アトラス派の貴族どもは、こうした状況に付け込んで、大量に小麦を抱え込んでおるのだろう……」


「それは酷いね」


「うむ。これでは、小麦相場がうなぎのぼりになるのは当然であろう。ここ三年、小麦相場の高騰でアトラス派の貴族どもは、特定の商会と手を組み荒稼ぎをしておるとの話だ……」


「パンも随分と値上がりしてるんでしょ?」


「そうだ。庶民の暮らしにもかなり影響が出ておる。非常に憂慮される事態だ……」


「アトラス派貴族って、最悪の人たちだね」


「全ての貴族どもがそうでは無いと信じたいところであるがな。ところで、ローズ家の事であるが、聞くところによれば、ローズ家の使用人たちが資金の借り入れのために奔走しているそうであるが、補償金が賄えるほど金が集まるとも思えん。このままローズ男爵家が王宮に補償金を支払うことができなければ、ローズ男爵夫妻は処分が免れんだろう……


「ローズ男爵夫妻の処分って、いつ頃出るの?」


「……確かな事は不明であるが、いつまでも今の状況が続くことはない筈だ。ライラ嬢も居場所が不明の今、いずれ王宮はローズ男爵領を没収することになる。そうなれば、王宮に取り入ってローズ領の領地運営権を手に入れようとしておるアトラス派貴族にとって、ラヒナ嬢は邪魔な存在となるだろうな」


「ラヒナの存在が知られていないのが、せめてもの救いだね」


「その通りだ」


 そういうことか。ようやく話が見えてきた。ローズ家は相当大変な様子だ。とは言え、まずはラヒナの身柄保護だな。これについては、男爵が積極的だしここの別荘なら安全だろう。それから、大規模な小麦の不作の原因については、ホルトラスが懸念していたイグニス山に行けば何か分かるかもしれない。後は、ローズ家事件の真相究明だけど、もう少し話を聞ける誰かを探してみる必要があるな。


 男爵との話が終わると、早速、ヴィースとホルトラスの家に向かうことにした。

「面白いかも!」


「続きが気になるぞ!」


「この後どうなるのっ……!」


と思ったら


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