061-4-10_ローズ家の女の子
「ねぇ、妖精さん、この子に聞いてほしい事があるんだけど……」
「いいわよ、何でも言いなさい!」
「じゃぁ、ライラっていう女の人知ってるか聞いてみてくれない?」
「あー、ライラね……」
エインセルはそう言って、少し間を置いた。
「……分かったわ」
妖精は女の子の耳の所に飛んでいき、彼女に向かって話しかけた。女の子はエインセルの"声"に集中するように、首を傾けて目玉を耳の方に寄せている。そして、何度か小さく頷いたかと思うと、急に驚いたような顔になり、立ち上がった!
「おぉーねぇーさぁまーどぉーこぉーなぁーのぉーでぇーすぅーかぁ?」
彼女はそう言って、僕の両手を取り必死の形相になった。
やっぱりそうだ。彼女は、ローズ家の子だ。
女の子に落ち着くようにエインセルに伝えてもらい、長椅子に座ってもらった。彼女の横に座ると、女の子は不安そうな顔でこちらを見る。泣きそうな顔だけど泣いてはいない。
「僕の名前は、エリア。ボズウィック家の人間なんだ。ライラさんって、君のお姉さんでしょ?」
そう言って、女の子に男爵から預かったハンカチを見せると、エインセルがその事を彼女に伝えてくれた。彼女が、コクリと頷く。
思ったとおりだね。この子はライラさんの妹に違いないよ。
「……それでね、僕のお兄様が君のお姉さんと学園の同級生でね、お兄様に頼まれて、ライラさんを探そうとしているんだよ……」
そう言って、さらに、ライラさんを探すためにはまだ調べないといけないことがある事も説明した。女の子は、エインセルの話をコクコクと聞く。そして、最後に彼女の手を取り、「大丈夫、ライラはきっと見つかるよ」と言って、ニッコリ笑顔を向けた。彼女も、ほんの少し口元を緩めたようだ。
どうだろう、信じてもらえたかな?
すると、女の子は自分の口元に手を持っていき、エインセルに向かって何か話すような仕草をする。エインセルは、フムフムと頷き、彼女の言葉を伝えてくれた。
「この子、今からおじさんのところに連れて行ってあげるって言ってるわ」
「おじさんのところ?」
女の子を見ると、うんうんと頷いている。
それにしてもこの子、妖精と仲良しなんだね。
これだけ妖精が仲良くしてくれるんだから、この子の性格はとても純真で素直なのだろう。
しかし、おじさんと言うのはどういう人だ? この子がローズ家の子なら、おじさんもローズ家と縁のある人物だと思うけど。
それなら、ローズ家事件について、何か話を聞くことができるかもしれない。今日はここで帰るつもりだったけれど、もう少し調査を続けることにしよう。
女の子の案内で、教会からほど近い民家の入口にやってきた。
外はすっかり真っ暗で、星も出ている。彼女がおじさんに事情を説明し、外で待っていた僕たちを呼びに来てくれた。彼女の案内で、僕とヴィースは、家の中へと入った。エインセルもついてきている。
彼女の家は、家と言っても農作業小屋より一回り大きい程度の建物で、入って直ぐに竈がある四畳ほどの土間があった。そして、そこから上がりこまちになっていて、奥には茣蓙が敷かれた、こちらも四畳ほどの広さの板間となっている。
奥で正座しているおじさんは、小太り体形で背が低く、見た感じ、僕とそんなに変わらない身長だろう。その頭は、おでこから頭頂部まで剥げていて側頭部と後頭部にカールになったくせ毛の白髪が生えていた。そして、鼻の下にグレーの髭を生やし、だぼついた白いシャツに茶色いズボンを履いている。
おじさんの第一印象は……まぁ、悪い人には見えない。
女の子が、上がりこまちに座るよう手で示してくれた。彼女と僕とだけ座る。すると、おじさんが軽く会釈をし、話し始めた。
「どちら様か知れませんが、この子が、ご迷惑をおかけしたかもしれませんですじゃ。この子は少し妄想癖がございましてな。こうやって妖精とも会話ができるようですし、できればお気になさらんで下さらんか?」
う〜ん、なんか、拒まれている? そりゃそうか。突然、ライラさんの事を知っている風な子どもが訪ねてきたんだからね、警戒するに決まってるか。
この際、仕方ない。おじさんの考えていることを見させてもらおう。
そうして、おじさんの目を見る。すると、彼の思い浮かんだことが伝わってきた。このおじさんは、やはり、ローズ家の関係者のようだ。女の子のことを心配して、彼女を庇おうという意図が読み取れた。恐らく、おじさんは、ローズ家の使用人だったのだろう。この人なら信用できるかもしれない。
だったら、単刀直入に言った方が早いよね。
「僕は、エリアと言ってボズウィック男爵家の者なんだ。実はね……」
おじさんに、さっき女の子に話した事をもう一度説明する。そして、また、男爵から渡されたボズウィック男爵家の家紋、盾に木の葉の刺繍がされたハンカチを彼に見せて言った。
「おじさんは、ローズ男爵様の使用人だった人だよね?」
すると、おじさんがハンカチを手に取り、驚くように言った。
「こ、これは……ボズウィック男爵様の……そ、その通りですじゃ。し、しかし、何故、その紋様を……」
「あぁ、これ?」
チョーカーに触れて、それをおじさんに見せるようにそう言った。おじさんは、隷属の首輪のようなものを首に嵌めている者が、ボズウィック男爵家の家紋入りハンカチを持っていたことを不信に感じていたらしい。
まぁ、そうなるね。
おじさんの反応は当然で、仕方がない。隷属の首輪は奴隷の証なのだから。そういう者が、いくら家紋入りのハンカチを見せようが、貴族から奪ったと考えるのが普通だろう。しかし、その事で話が前に進まなくなるのは困る。理解してもらえるかどうか分からないけれど、とりあえず、今は奴隷ではないことや、呪いのせいで首輪が外れない事などを説明した。しかし、おじさんは、考え込んでハンカチを見るばかりだ。
まだ信用されていないようだね。なら、少し話を変えてみるか。
「この子、耳が生まれつき聞こえないようだけど、とても素直で優しい女の子だね。僕の首輪を触って、痛くないかと気遣ってくれたんだ」
すると、おじさんの様子が変わった。おじさんは、口を真一文字に結び、僕のハンカチをギュッと握りしめ、絞り出すように言葉を出した。
「す、すみません。この子……いいえ、お嬢様は、大変お優しいお子様ですじゃ……。このようなワシにも……とても……。どうして、こんなにも健気なお嬢様に、女神様は……何故? グスッ」
そして、ハンカチで涙を拭った。
それ、僕のハンカチなんだけど……。
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